くにおん*Garden
【開催レポート】「くにおん100フェス!」ジャンルを越えた響きが会場を包んだDAY3「Circle of Music」
国立音楽大学創立100周年を記念する「くにおん100フェス!」の最終日となるDAY3「Circle of Music」は、クラシック中心のDAY1とは違う表情をみせつつ、「アンサンブルのくにおん」らしいあたたかさ、そして多彩な人材を輩出してきた国立音楽大学らしさにあふれたステージでした。ポップス、劇伴、スクリーンミュージック、ジャズ──多彩な音楽がひとつのステージに集い、音楽の境界線を完全に飛び越えていく様を目撃することとなりました。
幕開けを飾ったのはポップスピアニスト、ハラミちゃんによる《ルパン三世のテーマ》。華麗なタッチと幅広いジャンルの音楽に精通しているからこそのグルーヴを駆使し、おなじみの旋律からさまざまな表情を引き出しました。多くのアーティストが集う公演のなか、ピアノソロでトップバッターというプレッシャーを全く感じさせない、ハラミちゃんらしい笑顔にあふれたステージで、会場の空気を一気に明るくしていました。
続いてはピアノアンサンブルです。フリースタイルピアニストのけいちゃんと、楽曲提供やプロデュースも手掛けるピアニスト、H ZETT Mによる《Thriller》。二人のピアニストが織りなす音の応酬は、超絶技巧はもちろんですが、お互いの音楽に感化され、その場でさらに新たな表現が生み出されていく瞬間を目撃できるような感覚がありました。そして伊澤一葉、H ZETT M、二人のピアニストに作曲家でエンジニアの堤一真が加わって奏された《96C0628》はピアノという楽器の可能性が大胆に拡張され、新しい音楽表現との感動的な出会いがありました。
4組目はDAY3の総合プロデューサーである武部聡志とAkko(My Little Lover)の共演です。1990年代後半、爆発的なヒットとなった《Hello, Again 〜昔からある場所〜》をヴォーカルとピアノ1台で演奏。J-POPを代表する楽曲が武部のドラマティックなアレンジによって新たな姿で生まれ変わり、Akkoの透明感あるヴォーカルと見事に調和しました。
国立音楽大学には2011年からジャズ専修が設置されましたが、それ以前から多くのジャズ・ミュージシャンとして活躍するアーティストを輩出していました。その代表的存在と言えるのがピアニストの国府弘子とサクソフォーン奏者の本田雅人でしょう。現在もジャズ・シーンを牽引し続ける二人のセッションで《Starland》が華麗に奏され、また違った空気がホールいっぱいに広がりました。
今回のステージで唯一のクラシカルな要素を持つ出演者となったのがテノール歌手の秋川雅史と小原孝でした。二人の共演による《千の風になって》と《逢えてよかったね》は心を打つ旋律が二人のアンサンブルによって丁寧に紡がれていき、“くにおん”ならではのあたたかさが会場に満ちていきます。
国立音楽大学は多くの商業音楽の分野で活躍する作曲家を生み出していることでも知られています。今回は、そのなかでも特に注目の存在である横山克、堤博明、そして富貴晴美の3名の作品が、それぞれの楽曲が彩った映像や画像と共に演奏される特別ステージも行われました。『四月は君の嘘』の《アゲイン》、『ちはやふる』の《つながれ つながれ! つながれ!!》、『Nのために』の《for.N》、さらに『西郷どん』『マッサン』のメインテーマは楽曲自身が雄弁な音楽ですが、映像と重なり合うことで、より登場人物たちの心情や情景を鮮やかに描き出していることが改めてわかるものとなりました。
前半最後のステージは90年代のポップスシーンを牽引した歌手である広瀬香美とハラミちゃんのコラボレーションです。選ばれた楽曲は広瀬のメジャー・デビューの楽曲《愛があれば大丈夫》。パワフルなハイトーンボイスと色とりどりの音色で奏でられるピアノが重なり合って生まれる音楽の力が、会場の空気を一つにまとめあげていきました。
後半のはじまりは間違いなくジャズ・シーン、とりわけ「フリー・ジャズ」(コード進行や拍子などのルールにとらわれない新しいジャズのスタイル)の領域でトップに君臨する存在として常に注目を集める山下洋輔のピアノ独奏による《グガン》でした。フリー・ジャズを代表する楽曲であり、疾走感とエネルギーに満ちた山下の演奏によってここからのステージのカラーが見事に定まっていく瞬間となりました。
山下の演奏に続いては、ジャズ専修や弦管打楽器専修出身の多様な演奏家によって特別に編成されたビッグバンド「NEWTIDE & GEMSTONES JAZZ ORCHESTRA」が登場しました。「NEWTIDE JAZZ ORCHESTRA」は1981年に設立された国立音楽大学の学生を中心に構成される学生ビッグバンドで、『山野ビックバンドジャズコンテスト』に出場し6年連続優勝など、多数の受賞歴を持ち、学内外で様々な活動を展開しています。「GEMSTONES JAZZ ORCHESTRA」は2011年、国立音楽大学ジャズ専修の開設を記念して結成され、昨年15周年を迎えました。本学が有する二つのジャズ・オーケストラが共演するという特別な機会であり、楽曲にあわせて自在に変化していくスタイルと音色によって、ジャズのレジェンドたちが出演するステージを見事に彩っていきました。
ここからはジャズピアニストのRINAによる《Beyond The Bridge》、トランペット奏者松井秀太郎の《Tale of Little Claws》、そして池田篤の《Flame of Peace》とそれぞれのオリジナル楽曲が作曲者自身による独奏とジャズ・オーケストラの共演で奏でられ、ジャズ・シーンの“いま”が国立音楽大学の卒業生や関係者たちによって力強く牽引されていることが改めて窺えるものとなりました。また、ジャズ専修の指導者であり、世界的ピアニストである小曽根真の《No Siesta》が若きアーティストたちによる演奏でさわやかな空気をステージに送り込みました。
DAY3のフィナーレは新曲初演です。「ジャズ作曲家」として世界中で活躍を続ける挾間美帆による《Cool, Neat, ON!》。この作品は作曲者によれば「クールさ、カッコよさをオンにしよう」という意味が込められつつ、タイトルをつなげて読むことで「く(Cool)に(Neat)おん(ON)」になるように掛けられています。さらに楽曲中にも繰り返し「くにおん♪」というフレーズが登場し、最後まで楽しめる楽曲に仕上がっていました。印象的深いフレーズだったので、帰路、思わず口ずさんでしまった…という方もいらしたかもしれません。
最後まで「くにおん」ならではの幅広さ、あたたかさ、パワフルさに満ちたステージでしたが、アンコールは出演者全員が集って《Joyful, Joyful》が歌唱および演奏されました。ジャンルを越えた音楽家たちが一つの輪となり、「くにおん100フェス!」DAY3のタイトル「Circle of Music」がそのまま形になったような光景は、これからの100年へのさらなる期待に満ちたものでした。
