くにたち*Garden
第14回 丸山和範の音楽体験と仕事(丸山和範先生)
日本の近現代の音楽と音楽文化への理解を深める授業の第14回。作曲の丸山和範先生によるご自身の幼少期からの音楽体験と、これまでに携わった音楽作品や音楽制作の現場についてもお話ししてくださいました。
まず、丸山先生ご自身の音楽との出会い、幼少期の音楽環境、その後の学びについて、幼稚園でオルガンの音を聴いたことからクラシック音楽への興味を覚える一方、テレビの音楽番組の収録がご自宅の近くで行われていたことから、歌謡曲、演歌にも親しみを覚え、クラシック、ポピュラーの垣根なく音楽を享受したことが、先生ご自身の音楽経験の根底にあるとお話しされました。
クラシック音楽の素養をさらに伸ばすため、作曲家の池内友次郎をはじめとしてアカデミックな作曲の教育を本格的に受け、中学、高校時代を過ごされます。
進学した東京藝術大学では、作曲を専攻しながら劇団四季の稽古ピアニスト、テレビの音楽番組用のスコア製作のアルバイトを行い、浅利慶太、越路吹雪、映画『蒲田行進曲』の音楽で知られる甲斐正人らミュージカルやポピュラー、映画音楽の分野の一流の人物たちの仕事を重ね、商業音楽制作の現場での経験を積まれました。
大学卒業後は音楽指導者の育成、大学での講師等を経て、1980年代後半からテレビ番組の音楽制作に携わり始めます。そして1994年、フジテレビ『警部補・古畑任三郎』のオーケストレーションに参加、ドラマのサウンドトラックとしては異例の40万枚を超えるセールスを記録しました。丸山先生はこのドラマの印象的なテーマについて、「ドラマ『刑事コロンボ』の日本版という位置づけで、アメリカンテイストの音楽を書く必要があった。ヘンリー・マンシーニの『ピンクパンサー』でも用いられるコード進行にミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の要素が加わり、あの音楽が作られた。異なる要素をぶつけるという編曲技法が多数用いられている」と音楽制作について演奏を交えてお話しくださいました。
以降、多くのテレビ番組、映画の劇伴の作曲、編曲に関わりながら、滋賀県栗東市での子どもミュージカルの制作、スーパー歌舞伎『龍神天の舞』といった舞台作品にも参加、2021年初演の本学オリジナルミュージカル『いのちの森』の音楽を担当、2022年に再演されました。
丸山先生はご自身の手がけた音楽作品や音楽制作について振り返りながら「日本はテレビ文化の国。アカデミックな音楽と大衆的な音楽が混ざりあった音楽が、戦後、アメリカ文化の影響を大いに受けながら作られてきた。音楽の制作費が乏しくなっていく昨今、個人の仕事だけでなく、チームになってそれぞれが得意なことを伸ばしていくような音楽制作を行っていく時代になる。今後はミュージカル『コーラスライン』のような音楽業界に一石を投じ、問題を問うような音楽作品も作っていきたいと思う」と昨今の音楽制作の現場の状況を憂慮しつつも、先生ご自身の展望についてお話しされ、講義を締めくくりました。