国立音楽大学

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授業を行う津田先生の写真

第25回 岡本敏明、小山章三の音楽教育論と合唱行脚の展開(2)(津田正之先生)

日本の近現代の音楽と音楽文化への理解を深め、本学のあゆみを知る授業。2週にわたる津田正之先生による講義では、岡本敏明、小山章三の音楽教育論と合唱行脚の展開をテーマに行われ、第2回目の今回は、特に2019年に復活した福島県での令和の「合唱行脚」の取組についてお話しいただきました。

まず、津田先生より前回の授業に対する受講生のコメントについてご紹介がありました。複数の留学生から「日本ほど合唱が盛んな国はあまりないのでは」と指摘があったことに触れ、津田先生もご自身の海外での音楽教育活動のご経験から、特にアジアの国では「斉唱」はあっても「合唱」を学校教育に取り入れることは珍しいのでは、とお話しされました。
そこから、日本における学校教育現場での合唱の導入について、戦前の小学校では平易な単音唱歌を歌うこと、中学校では複音唱歌も扱われていたものの、授業で合唱を恒常的に実施していた中学校は限られていたこと、戦後は、学習指導要領に、斉唱・輪唱・合唱が明記され、多くの輪唱や合唱曲が教育に取り入れられたことをご紹介いただきました。岡本先生と小山先生は、合唱の導入として輪唱を重視していました。輪唱曲が広く知られるようになったのは、岡本先生が、戦後すぐに発行された文部省編纂の音楽教科書に《かえるの合唱》を紹介したことが一つのきっかけになったと考えられるとのお話がありました。

岡本先生が著した『実践的音楽教育論』には、岡本先生が作編曲された多くの輪唱曲が掲載されるとともに、輪唱曲を教員や学生が作曲できるように、そのつくり方が事細かに指南されています。岡本先生の後を引き継いだ小山先生は、輪唱曲を学生自身が作曲するよう促し「学校の音楽教育現場での実践的な力を身につけられるように教育を行っていたのでは」と津田先生が言及されました。なお、岡本先生と小山先生が編集した『新 輪唱のたのしみ』には、二人のくにたちでの教え子の輪唱曲も多数掲載されています。
さらに、講義では、岡本先生作詞のフランス民謡《夜が明けた》、小山先生作詞のハンガリー民謡《蚊のカノン》の歌唱も行い、輪唱ならではのハーモニー感や言葉の重なる面白さも体験しました。

続いて、合唱行脚について、前回の講義でも紹介のあった千葉大学教育学部附属中学校の映像(1988年)とともに、2019年に行われた福島県の小、中学校での合唱行脚の映像も視聴し、その違いについてお話しいただきました。
1988年の映像では、主に学生の演奏を披露することが中心で、訪問校の校歌を一緒に合唱する際にも、教員が合唱指揮をするシーンが見られました。一方、今回視聴した2019年の令和の合唱行脚では「学生が主体となって訪問校の生徒と交流する」ということに重点が置かれ、指導的立場の教員は合唱行脚のプログラムそのものに関わるのではなく、訪問先の要望の聞き取りを丁寧に行ったうえで、本学ができることを提案する役割を担っていたことに大きな違いがあると津田先生はお話しされました。2019年の映像では、学生たちが訪問先の児童、生徒と一緒に対話をしながら、歌唱曲の歌詞の意味について考えたり、車座になって互いの表情を見ながら表現を高めていったりと、対等な関係でコミュニュケーションを取って音楽活動を進めていく様子から、音楽教育の在り方の変化を共有しました。
その一方で、訪問校の校歌を歌う、音大生ならでは音楽性豊かな演奏を披露する、という点においては、かつての合唱行脚の様子と変わりなく大切にされていました。

津田先生は、「福島での合唱行脚を踏まえて、今後、どのようなアウトリーチ活動を行うのかを考えていたところで、コロナ禍に見舞われた。特に合唱が難しい状況が続く中で、学生たちは動画を作って配信するなど、交流のある学校とのコミュニケーションを切らさないように努力してきた。今回は合唱を例に紹介したが、受講生のみなさんの専門分野を生かして、これからの時代に求められる教育のあり方にも目を向けながら、どのような活動ができるか、合唱行脚の取組を一つの例としてぜひ考えていただきたい」と、将来指導的な立場に立つことになる学生たちに問いかけ、講義を終えました。

次回は伊藤仁美先生による「日本におけるリトミック教育の普及〜小林宗作を中心に〜」をテーマにお話しいただきます。


※今回の津田先生の講義は、次の研究をもとにしたものです。
津田・山本(2020)「音楽大学による合唱を中心としたアウトリーチ活動」-国立音楽大学『合唱行脚』の取組-」音楽学習学会誌『音楽学習研究』第16巻、pp.103-114.

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