国立音楽大学

くにたち*Garden

ヴァン・ティ・ミン・フォン ホーチミン音楽院長 インタビュー

このたび本学はホーチミン音楽院と交流協定を締結しました。
締結のため来日されたヴァン・ティ・ミン・フォン ホーチミン音楽院長は学生時代に本学に2年間留学されるなど、くにたちととても関係の深い方であり、今回は久々のご来訪となりました。

現在のくにたちの印象や留学当時の思い出など、たくさんのお話をうかがいました。(インタビュアーは花岡千春副学長)

(左)花岡千春副学長、(右)ヴァン・ティ・ミン・フォン ホーチミン音楽院長
(左)花岡千春副学長、(右)ヴァン・ティ・ミン・フォン ホーチミン音楽院長

花岡千春副学長(以下、花岡)
ホーチミン音楽院のフォン先生、本日は久しぶりに国立音楽大学にようこそお越し下さいました。先生はかつてこの大学で学ばれ、日本語も堪能でいらっしゃいます(実際に日本語も大いに交えてのインタビューでした)。今日は訪問のお忙しい時間を少し頂戴して、国立音楽大学の現在(いま)についてのご感想や、両学の将来についてのお話を聞かせていただきます。本学の英語の先生であられる、中西千春先生に助けていただきながら、お話しをうかがいたいと思います。今日は早速、図書館を御覧になり、また声楽のレッスン(小川先生と加納先生)や、トランペットの山本先生のレッスン、オーケストラとリトミックの授業を見学していただきました。まずはそれらの印象について、お願いいたします。


ヴァン・ティ・ミン・フォン学院長(以下、フォン)
何もかもが印象的です。私は今から15年前に、ここで2年間に亘って学びました。たとえば図書館ですが、私のいた頃には、請求してから3~5分待たないと、資料は出てきませんでした。それがシステムの改善により本当に迅速になり、驚きました。
新しい校舎も美しく、何よりも利便性が究極まで追求されているように感じられました。
私はホーチミン音楽院の改築計画に、この印象を反映させたいと思っています。レッスン室の音響ボード(可変吸音板)には、特に驚きました。先生の要求や、レッスン室の用途に対応できる~即ち楽器の種類や声楽の声質にふさわしい音響空間に変更できる~アイデアには、初めて接したのですが、他のどの国でも見たことがありません。

花岡
授業についてはいかがでしたか?

フォン
くにたちの先生方は、とてもハードに働いておられますね。非常に印象的でした。

フォン学院長
フォン学院長

花岡
そう、本当によく働いています(笑)。常に忙しくしているんですよ。

フォン
オーケストラの授業には、指揮者の先生だけでなく、管楽器や弦楽器の先生方も常にいらっしゃるのですね。これはとても良い方法だと思いました。通常はただ一人の指揮者が取り仕切るのではないですか?こういう授業(指揮者以外に各楽器の先生も授業をサポートする方法)も、私ははじめてみました。他のどの国の音楽大学でも見たことがない、くにたち独自のシステムですか?

花岡
そうですね、この方法はくにたち独自のものかも知れません。外国からお見えになる指揮者の先生方も驚いていらっしゃいます。先生同士のコラボレーションということでは、くにたちは群を抜いていると思います。また、学生たちのことを先ず何よりも優先して考える先生方が、本当に多いのではないでしょうか。

フォン
リトミックの授業も印象的でした。非常にアクティヴで、ただ座ってリーディングの学習のみしているホーチミン音楽院の授業とは大きく異なっています。とても参考になりました。声楽のレッスンも素晴らしかった。本当に音楽的なレッスン内容に、声の教育。そうそれから、声楽の先生方のピアノ伴奏の技量が素晴らしいことにも吃驚しました。本当に優れた教師陣が揃っているのですね。声楽の先生にも是非、うちでマスタークラスをしていただきたいと思っています。

花岡副学長
花岡副学長

花岡
本学の教育全般についてはどうお感じですか?

フォン
くにたちでは音楽を学ぶシステムが理想的に整備されていると感じました。これからうちの大学でも参考にしたいと思いました。本当に多くのことが印象的です。帰ってから政府の教育担当にも話し、改善していくつもりです。

花岡
ホーチミン音楽院は、大勢の学生を抱えていらっしゃいますが、ヴェトナムにおけるクラシック音楽を志す学生の数はいかがでしょうか?

フォン
元来、ヴェトナムでのクラシック音楽志向層は決して厚くありません。ですから何年か前と比べて、単純に減ったとか増えたとかは言えません。しかし、圧倒的にピアノと声楽の数が多い、ということは言えましょう。管や弦の演奏家を目指す学生がもっと出てくるといいのですが。あるいはヴェトナム伝統の音楽や、楽器について学ぼうとする子供たちは非常に少ないのです。

花岡
そういえば、フォン先生は日本で雅楽について研究されたのでしたね?

フォン
そうです。ヴェトナムには日本の雅楽に対応するNHANHACという音楽文化があります。あるいは能に対応するTUONGというもの。これらの比較研究を主にやっています。これらについての本も上梓して、賞をいただいたりもしています。

花岡
それは素晴らしいですね。

フォン
ピアノや声楽を志す学生で、能力的に向いていない学生には、こうした民族的な領域へ興味を移す試みもしています。先ほど、入学する学生の数にはさほど変化はないと言いましたが、南部に出かけて音楽教室のようなことをしたり、ヴェトナムの山間部などに優れた才能を探しに出ることもあります。

花岡
さて、交流協定が結ばれて、様々な可能性が生まれたわけですが、フォン先生はどういったことを想定、期待されていらっしゃるのでしょうか?

インタビュー風景

フォン
もちろん、学生の交換留学は最大のものです。加えて教員の交流も楽しみです。実際に、現在副院長を務めている音楽学の先生、彼女はモントリオールで勉強しましたが、ヴェトナムの民族音楽についての講演会をさせていただけないかと考えています。あるいはピアノ科の主任教授、彼はパリで学んでいますが、くにたちで日本の教育システムを研修してもらうことも考えています。学生については、演奏の交流と言うことが先ず考えられます。来年はくにたちのブラスオーケストラがホーチミン音楽院のホールで演奏してくれることになっています。

花岡
そうでした。宜しくお願いいたします。個人の学生の交換留学について、経済的な課題などはないでしょうか?

フォン
交換留学などの場合、経済的なサポートの問題があります。寮への滞在の可能性や、生活費のサポートなども、考えていただけたら有り難いです。

花岡
それについては、もちろんいろいろ考えられています。女性の場合、寮で生活することは可能ですし、ヴェトナムに比べ全てにお金の掛かる日本での生活へのサポートは考えられています。より細かくは、また話し合って決めていくことになると思います。 ところで、15年ぶりのくにたちの印象はいかがでしたか?

フォン
安藤学長事務室長に迎えに来ていただき、くにたちに着いた時は感動的でした。何も変わっていない。もちろん新しいビルは以前ありませんでしたが、大学そのものはほとんど変わっていない感じでした。15年前、この新しいビルのあったところは庭でしたが、お昼ご飯の後みんなでずっとおしゃべりしたのはとても良い思い出です。残念ながらその庭はなくなりましたが、そこに建った新校舎に入ってあちこち拝見し、とても感銘を受けているのも確かです。 花岡先生、私からの質問ですが、ホーチミンの印象はいかがでしたか?

インタビュー風景

花岡
ヴェトナムはいい国ですよね。パリ留学時代にも、大勢のヴェトナム人の友人がいました。実はこの10月末から11月の頭にホーチミン音楽院でマスタークラスをやらせていただきました。まだ荒削りなところもありますが、音楽的には本当に優秀な学生さんが多くて嬉しかったです。音楽的な主張は日本の学生達のそれよりずっとしっかりしている感じもしました。

フォン
大したおもてなしもできませんが、花岡先生のことは生徒達も、ピアノの教員達も、とても好きです。是非また来年も、もっと長い期間、或いはもっと頻繁に来て下さい。

花岡
いやいや、大変お世話になりました。ホーチミン音楽院へ伺う件、頻繁、というのは無理かもしれませんが、また是非生徒さんたちのピアノを聴かせていただきたいと思っています。

ここで中西先生から、ヴェトナムでの語学教育についての質問がありました。たとえば声楽の学生は、ロシア語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・英語のディクションを学ぶことがわかりましたが、一般的な英語教育の考え方は、日本とは異なることもわかりました。たとえばホーチミン音楽院の初等の子供たち(中学生くらい)で、見事な英語を話す子も多いのですが、それは学校教育の成果というわけではないようでした。必要と感じると、それぞれの方策で英語を修めているようです。

花岡
一般的に、ヴェトナムの音楽学生達が留学するのはどんな国になるのでしょうか?

フォン
アメリカ、フランス、シンガポール、ノルウェイ、中国、韓国、ロシアといったところでしょう。かつてはロシアへの留学が圧倒的に多かったのですが、今はアメリカが多いでしょうか。

花岡
現在の貴学のピアノの先生にはロシアで勉強された方が多いのは、そういうことだったんですね。ところで、日本では音大卒業後の仕事について、悩ましい状況がありますが、ヴェトナムではいかがでしょう?

フォン
大学や大学院を終えた人材の場合、それなりに音楽関係の仕事があります。ただし、コンセルヴァトアールの初等科からマスターまで音楽を続ける人数は、決して多くはないのです。入ってから修了するまでの間に多くの生徒たちが音楽を続けることを断念します。ホーチミン音楽院はいわゆる、昔のコンセルヴァトアールと同じシステムです。ですから、ここに通いながら、別の勉強をしている生徒も多いのです。

花岡
ボローニャ協定の方向とは少し違うのですね?
フォン先生はちょっと風邪をひかれたそうですが。

フォン
ヴェトナムは毎日30度以上。日本に来てその違いに吃驚しています。今日はこれからソルフェージュの授業を、明日は声楽科の合唱定期演奏会を聴かせてもらいます。

花岡
お忙しいところありがとうございました。お身体に気をつけて、良い滞在をお続け下さい。また、ヴェトナムに帰られましたら、生徒さんや先生方によろしくお伝え願います。中西先生もありがとうございました。

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