くにたち*Garden
トルコ古典音楽に関するレクチャーと演奏

あらゆる地域、年代の楽器を約2600点所蔵している国立音楽大学の楽器学資料館は、2024年4月17日(水)~2024年7月31日(水)の期間、企画展示「トルコの楽器 ~オスマン帝国の時代から続く音楽文化~」を行っています。2024年は日本とトルコが外交関係を樹立して100周年。そこで、駐日トルコ共和国大使館にご協力を頂き、トルコの楽器を紹介する場を目的に5月9日(木)、レクチャーコンサートが開催されました。当日レクチャーと演奏をしてくださったのはトルコの古典音楽演奏団体「トルコ共和国イズミル国立古典音楽団」の皆さんです。

なお、公演前には6号館にて座談会も行われました。講師に本学准教授の前島美保先生が招かれ、日本古典音楽のレクチャーを行いました。ここでは雅楽や声明、能や狂言、三味線、文楽など、主に中世〜近世にかけての日本音楽をご紹介し、楽団の方からは質問なども飛び交い、活発な意見交換がなされました。座談会後には三弄筵にて、トルコの楽団の方々が今藤長龍郎先生による三味線の授業(日本伝統音楽演奏研究(三味線)Ⅰ)を見学されました。三味線の授業を履修する本学学生と今藤先生による実演(勧進帳)をご鑑賞いただいた後、実際にトルコの楽団の方々に楽器に触れていただき、音楽を通してトルコと日本の友好関係が豊かに結ばれる時間となりました。
レクチャーコンサート

18時30分からレクチャーコンサートが開始。通訳は本学卒業生のファティ・フェヒミユ(Fati Fehmiju)さんです。最初にトルコの音楽の音階についての解説がありました。西洋音楽は1オクターヴを均等に12分割し、それをもとに音楽が作られていますが、トルコの音楽は1オクターヴを24音以上に分割、加えて多くの微分音を用いて演奏を行っています。古代ギリシャ時代のピタゴラスも、アナトリア地方(アジア大陸最西部で西アジアの一部をなす地域で、現在のトルコ共和国のアジア部分を指します)の音楽を基にしていたそうです。
さらにトルコの音楽で使用されている音列についての詳しい説明が続きました。トルコ音楽は24音の並びを一定のルールのもとで使い分けるという原則に基づいて演奏されますが、そこで使用されるのが「マカーム」と呼ばれる旋法です。マカームは旋律やリズムそのもの、旋律の進行のルール、微分音の使い方を指すなど幅広く使われていますが、演奏にあたっては膨大なマカームからそのときに適したものが選択されて演奏されます。
トルコ音楽には大きくわけて2つの表現があります。ひとつは民族音楽、もうひとつは古典音楽(芸術音楽)です。これはマカームをもとに区別ができるようになっているそうです。トルコ共和国イズミル国立古典音楽団によれば、どんなマイノリティの民族にも独自の音楽があるものの、自らの地域の音楽を体系化し、説明できるところは限られているそうです。17~19世紀にかけてオスマン帝国が支配した地域では古典音楽が発展し、24音を用いるシステムが体系的にまとめられたとのことでした。
楽器紹介

ひととおり音楽の説明が行われた後は楽器の紹介に移りました。最初は「ウード」。リュートやギターの元になった楽器です。当時演奏されていたウードは11本の弦が張られており、2本で1セットの弦が5対、低音弦が1本でした。ギターのような見た目と演奏法ですが、フレットがなく、少し乾いた響きが特徴的です。


トルコの古典音楽では「タクシン」と呼ばれる、曲の冒頭や後半に奏者の即興部分があります。今回はそれがヴァイオリンを用いて紹介されました。微分音を演奏可能なヴァイオリンは、トルコの古典音楽でもしばしば用いられます。

続いては「ネイ」。リードをもたない葦笛です。主に古典音楽の演奏で活躍する楽器となっています。清らかな響きで、イスラム教における「スーフィー(神秘主義)」の音楽において重要な楽器です。

打楽器は「ベンディール」です。様々な叩き方を実演くださいました。

アンサンブルの様子
楽器紹介の後は合奏が行われました。最初に連続で演奏された2曲は古典音楽です。1曲目は「ナーイ・オスマン・デデ」という作曲家の17世紀の作品。2曲目はタイトルのない、17世紀の作品です。どちらも「セギャ」と呼ばれるマカームを用いて作られました。1曲目はそれぞれの奏者によるタクシンが奏される技巧的な楽曲で、2曲目は愛をテーマにしたどこか郷愁を感じさせるものでした。最後に演奏されたのはイェメンをテーマにしたもので、戦争によって亡くなった方々に捧げられる民族音楽でした。この曲では中間部で歌手によるタクシンも披露されました。

演奏後は質疑応答の時間も設けられました。まずは「古典音楽と民族音楽では表すテーマに違いがあるのか?」です。これに対してはまず、「古典音楽と民族音楽を大きく分けるのは古典音楽には作曲家の存在がある」という回答でした。また古典音楽においてはすべての楽曲で「タクシン」が不可欠とのことです。一方で民族音楽は作曲家が不明のことが多く、表現やテーマの違いによって差を出しているということでした。また、古典音楽は「作曲当時の街で生活をしている人の音楽」であり、民族音楽は「田舎の音楽」ということもお話がありました。
次の質問は「指揮者なしでどのようにアンサンブルを行っているのか?」。今回は6名の奏者と1名の歌手による演奏でしたが、本来楽団には90名以上の団員が所属しており、通常は指揮者も置いているそうです。しかし今回は少人数ということ、そして楽曲のフォルムがほとんど決まっていること、長年共に演奏しているということから自然とアンサンブルができたという回答でした。
トルコの音楽は、つかわれている楽器、音階や奏法など日本や西洋の音楽とは全く違うものでしたが、不思議と親近感を覚える響きが随所にあり、また楽器の音色や歌い手の声色の魅力と相まって、魅惑的な世界が作り出されていました。なかなか味わうことのできない音楽をくわしい説明とともに聴くことができ、満席となった会場は感動に包まれていました。
