国立音楽大学

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日本のコンピュータ音楽について講義する今井先生の写真

第16回 日本のコンピュータ音楽(今井慎太郎先生)

日本の近現代の音楽と音楽文化への理解を深め、本学のあゆみを知る授業。後期の第2回目は日本のコンピュータ音楽について、コンピュータ音楽専攻の今井慎太郎先生にお話しいただきました。

今井先生は、コンピュータとは計算機であり、大量かつ複雑な計算を短時間で行うことのできる機械であると確認した上で、「コンピュータ音楽とは何か」という問いについて、コンピュータ音楽の本質は音楽における計算力の活用であること、その結果、電子技術や電子音を伴うものもあるが、コンピュータ音楽=電子音楽ではなく、必ずしも電子音が伴う音楽をコンピュータ音楽と呼ぶものではないことに言及されました。

また、コンピュータ音楽が計算の対象とするものについては、「音符」すなわち抽象的な音楽単位の数量(例:12音音階)と、「音響」すなわち物理現象の数量(音波を離散的な現象として捉えること)であると説明していただきました。

次に、コンピュータ音楽のマイルストーンとなった作品についてご紹介いただきました。
特に、ピエール・ブーレーズ《レポン》(1981-4/2005)は、リアルタイム音声信号処理を用いた、コンピュータ・エレクトロニクスの初めての作品であり、本学では2017年に今井先生も参加され全曲演奏として日本初演を行ったことも紹介されました。その他、フィリップ・マヌリ《プルトン》(1987)は、今やメディアアートの世界では標準的に用いられるコンピュータプログラミング環境「Max」がその演奏のために開発され、初めて用いられた作品であることから、記念碑的な作品であるとのお話しがありました。

こうした世界の動向を踏まえ、日本のコンピュータ音楽へとお話が進みました。コンピュータ音楽の黎明期の欧米では、大型のコンピュータを操作することのできる大学や研究機関が中心となって研究が進んでいましたが、日本では1954年に設立されたNHK電子音楽スタジオでもアナログの電子機器の研究にとどまるなど、本格的なコンピュータ音楽の研究は進みませんでした。
そのため、日本におけるコンピュータ音楽の始まりは欧米の研究所で活動していた日本人によるコンピュータ音楽と言え、組織的取り組みは本学に1991年に新設された音楽デザイン学科(現コンピュータ音楽専修)を待つことになる、と今井先生はお話しされました。

中でも、コンピュータ音楽の分野では、本学で長きに渡り教鞭をとられた萊孝之先生の功績が大変大きいことが紹介されました。
萊先生が1983年に発表した《Pain》はリアルタイム音合成技術を用いて、実際に音を聴きながら修正するなど、創作に3年をかけたエポック的な作品で、コンピュータが楽器に近い存在になっていることが紹介されました。また、ピアノとコンピュータのための作品《Kinetic Figuration》(1994)はMax/ISPWを用いたリアルタイム音声信号処理技術を駆使した作品であると同時に、本学鍵盤楽器専修で教鞭をとられている渋谷淑子先生の委嘱による作品であることをお話しいただきました。今井先生は「個人の演奏家がコンピュータ音楽作品を隔年で長きにわたり委嘱していることは極めて異例。先生方の意欲的な活動に敬意を持っている」と述べていました。

その他、同じく本学で教鞭をとられた古川聖先生による作品《Small Fish》(1999)についてお話しいただきました。本作品は、視覚的なオブジェクトがあるルールに基づいて音を発するマルチメディア作品で、音と映像によるインスタレーションの先駆的な活動であること、今後はVRやメタバースの分野にも関わるのでは、と言及されました。

その他、湯浅譲二、三輪眞弘、高橋悠治、藤枝守、渋谷慶一郎の各氏の作品が紹介され、 日本におけるコンピュータ音楽の広がりが本学に携わる人々によって形成されていったことは特筆に値すべきことであり、今後もその活動が広がりを見せていくことを予期させる機会となりました。

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