国立音楽大学

くにたち*Garden

作・編曲家、音楽プロデューサーYaffleさんによる特別講義『音楽キャリア雑談』

本学卒業生で、作曲家、編曲家、プロデューサーとして、第一線で活躍されているYaffleさん(小島裕規さん)が特別講義を行いました。
Yaffleさんご自身が在学時に抱いていた、卒業後のキャリアへの漠然とした不安や、ご自身が「在学中に聞きたかった話」などを学生たちに向けて率直にお話しいただきました。

”ソルジャー”にならないためにリスクを負う

Yaffleさんが商業音楽に関して解説している写真

Yaffleさんは在学時から、将来は音楽家としての活動を目指すものの「やりたいこと、やりたい音楽はあったけれど、どのような努力をすればそこに近づけるかがわからない」ことを不安に思っていたとして、当初は「やりたいこと」に向かってひたすらに努力することが重要だと考えていたことをお話しされました。

かつて、商業音楽はレコード、CDといった「モノ」を通して作品が世の中に流通しており、作曲家はあらゆるジャンルに精通し、さまざまな要素を取り込みながら、いずれは一流の音楽家として自分の好きな音楽を発信する、というキャリアが積み上がっていました。しかし現代は劇伴、アニメ音楽、ボカロ系など細分化されたジャンルの中でキャリアが完結する時代になっているとYaffleさんはお話しされました。
さらにそのジャンル同士では情報共有がなされていないため、例えば劇伴の作曲家を目指しているのに、ロックの編曲の仕事ばかりを引き受けてしまうと、結果的に目指す劇判の仕事からは離れてしまう事態が起こりかねないこと、またそのため、意識的に目標とするキャリアに近い仕事をしていくことが重要であると言及していました。

また、音大生が作曲家としてのキャリアを築く際に「ソルジャー問題」に直面すると独自の表現で説明。「ソルジャー」は幅広いジャンルに精通していて技術が高く、クライアントの要望を真摯に聞いてその実現に尽力できる人材であるため、感謝はされるものの、尊重はされない、と音楽業界ならではの実情をお話しされました。特に若いうちは経験を積めるからと意に沿わない仕事を引き受けることもありますが、「尊重を勝ち取るにはリスクを負わなければならない」と、キャリアプランの作り方にも言及しました。

Worksは自分で作る

独自に作成した音楽業界構造図を解説するYaffleさんの写真

音楽家としてのキャリアを作っていく際に大事なのは「Works」(これまでの仕事)であることに触れました。すでに言及した「ソルジャー」としての仕事のように、「幅広くなんでもできます」は強みではないので、クオリティの高い音楽を大前提として、これだけは絶対に負けないものを作ることや、自分のWorksを「魅せる」上で、そのキャリアを作るのは自分にしかできないと意識することが大事だとアドバイス。
「現代は一億総アーティスト時代」とYaffleさんがお話しされるように、自分のWorksをコントロールしながらできるだけ情報発信をすること、「自分の名義」で仕事をすることで、情報があふれる中で個人の活動が築き上げられていく、とお話しされました。

その他、今回の講演のために、Yaffleさんご自身で作成した音楽業界の構造を図解した画像が出されると、参加の学生からはどよめきがあがりました。自分がどこのフィールドで活躍したいかによって、発信するメディア、所属する集団が異なること、自分の作品を発信するために横の繋がりを作ることの大切さ、報酬についての話題からは逃げないことなど、これから音楽業界を目指していく学生たちのために刺激的な話題が繰り広げられました。

講義終了後、Yaffleさん、恩師の川島先生、講義に参加した学生たちとの集合写真

講義終了後、Yaffleさんへの質問の時間もたっぷりとっていただき、フロアから活発な意見や質問が交わされました。Yaffleさんは繰り返し「自分の名義で仕事をする」ということに言及し「アーティストのネーミングも大事。検索されやすいとか、SEOで上位に表示されるとかも大事かもね」とリラックスした表情でお話しされていました。

また、学生時代に作曲の指導を担当された川島先生は「くにたちで学んでよかったですか?」とご質問。Yaffleさんからは「よかったです。キャンパスは音楽に集中するための自己研鑽の場所。でも、研鑽するだけではなく、もっと外に出て世の中で何が起きているのかも知った方がいいですね(笑)」と学生時代を振り返っていらっしゃいました。

今や飛ぶ鳥を落とす勢いでご活躍のYaffleさんの講義とあって、学生たちの表情も真剣そのもの。時代の最先端を走るYaffleさんの言葉の一つひとつが、音楽家を目指す学生たちにとっての財産になるような時間でした。

スペシャルインタビュー

Yaffleさんのご厚意で、本学のためのスペシャルインタビューのお時間をいただきました。講義を終えて、Yaffleさんご自身のことについてもお伺いしました。

やらずにはいられない、これが「仕事」になる

インタビューに答えるYaffleさんの写真

ー今回のワークショップを引き受けた経緯や本日の感想について教えてください

学生時代にお世話になっていた川島先生から講義の依頼を受けました。
どんな話をしようかと思った時、作曲や編曲のテクニックに関することより、僕にしか話せない何か違うものがいいと思ったんです。
講義の中でも話しましたが、音大を卒業して30歳くらいまでの間に「ソルジャー」の人は淘汰されていくんですね。それでまた30歳以降になるとふるいにかけられたりして。
喜んで「ソルジャー」として邁進している人はいいけれど、そうせざるを得ない状況になっている人をこれまで目の当たりにしてきて、僕が話せるのはこれだと。それに、大学生の時に自分自身が欲していた話をしたいなと思ったのが大きいですね。

今日のワークショップでは、僕が学生だった頃よりも今の学生たちがアップデートされていると感じました。みんなキャリアについて色々と考えているんだなと思いましたね。

ー好きなことをやって生きていくことについて講義の中でもかなり言及されていました

僕の感覚として好きだからやっているのではなく、やらずにはいられないことをやってしまっている、という状況に近い。つまりこれが「仕事」になるんだろうなと感じています。
音楽や芸術に特徴的なのは、「好きなことをやって生きていく」ことが「引け目」になってしまうことですよね。望んでいない状況に巻き込まれて、好きだからこの条件でも仕事をしなければならないのか、と。だからこそ、自分の立ち位置を大事にすることは重要なんですよね。実は音大生が直面することこそ、社会の現実と言えるかもしれませんね。

コミュニティを作る、横の繋がりを持てることの大切さ

インタビューに答えるYaffleさんの写真

ーYaffleさんが作曲を専門に学ぼうと思ったきっかけはありますか

もともと何かを構築する、アンサンブルすることが好きだったんだと思います。
吹奏楽部にも入っていましたし、ピアノも習っていましたけれど、自分がプレイヤーとして演奏するというより、この人とあの人が一緒に演奏したら面白いんじゃないか、という組み合わせについて考えることに興味がありました。
その組み合わせからいいものを作れるという感覚については「いいぞ、できるぞ!」という体験が多くて。受験の時は故山口博先生に師事していました。

ー本学を目指したきっかけはいかがでしょうか

くにたちは僕の中でいい意味で「めちゃくちゃ”チャラい”」というイメージだったんです(笑)卒業生にポップスをやっている人たちが多くて、憧れの人と同じところで勉強したいと思ったのがきっかけです。カリキュラムがポップス寄りということではないのに、劇伴、ポップスの作編曲、それだけではなくて、自分で歌って、という卒業生もいらっしゃいますよね。多様な人を自然に輩出しているところが不思議でいいなと。

ー現在の音楽活動に本学で学んだことは生かされていると思いますか

無意識だと思うけれど、大学での学びの影響を排除して今の活動を語ることはもはや不可避ですよね。ティップスとしてではなく、アティチュードとして、例えば、川島先生から学んだコンセプチュアルであること、というのは今の活動と繋がっています。
コミュニティを作るということに関してはこれ以上の環境はないです。一般大学で音楽をやっている人もいますけれど、キャンパス全員が音楽で生きていきたい人。モチベーションが全然違います。僕は在学中に一般大学に通っている人とも交流していたから、その違いもよくわかりました。
コミュニティを作る、横の繋がりを持てるということが大きいですよね。いま交流がない人でも「あの時こんな話をしたな」と思い出されるような出会いが大事だと思います。

音楽大学は作曲家にとって最高の環境

終始ににこやかにインタビューを対応してくださるYaffleさんの写真

ー今後の活動について目標とされていることは

実は音楽業界に入って、作曲家がアーティストでいることが大変だと気づいたんですね。仕事を始める前は、クレジットを見て「歌っている人より作っている人の方が偉いんだ!」と思っていました(笑)やはりアーティストって強いんです。
講義の中でもお話ししましたが、自分自身のアーティスト活動、アーティストとして自分の名前がついた活動をこれからもやっていくのが全体のテーマ。実は日本だとなかなかロールモデルがいないんです。目標とするモデルがない中で自分がどうやって面白いことをやっていくかということに挑戦していきたいと思っています。

ー音楽を志す方にメッセージをお願いします。

今はかつてないほど「自分を世に出す」ということのコストが下がっています。それならばやらない理由がない。まったくダメでもやった方がいい。
それから音大がインプットする場所だけだと思わないで欲しいですね。入学したらインプットして、卒業したらアウトプットするということでは楽しくない。音楽はいつか免許皆伝ということではなくて、勉強すること自体はずっと続いていきます。全てをマスターするまでは作品を発表しないのではなく、常に出していきましょう。
音大は作曲家にとっては最高の環境です。演奏してくれる人がいるし、横のつながりができる、録音できる環境もある、音出しもできる。作曲家って、アウトプットすることは結構手間だったりするんです。矛盾していますよね。でもそこを面倒くさがらずにどんどん出していく。そうしたら、自分が想像しない世界が見えてくる。

とにかく「やれ!」ってことだと思います。
音楽を学ぶ場所というより、吐き出す場所だと思って入ってきた方が有意義だと思っています。ちょっとした後悔もこめて(笑)

ー本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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