くにたち*Garden
第12回 くにたち発の「実用音楽」(1)ー概説と久石譲以前ー(吉成順先生)
日本の近現代の音楽と音楽文化への理解を深め、本学のあゆみを知る授業の第12回。吉成順先生による講義では2回にわたり本学卒業生による「実用音楽」の変遷についてお話しいただきました。その1では、久石譲以前、として映画、テレビドラマなどの音楽を作曲した佐藤勝、神津善行、宮内國郎、冬木透の各氏についてご紹介いただきました。
前提として、テーマである「実用音楽」の概念についてお話しがありました。「実用音楽」はドイツ語のGebrauchsmusikであり、言葉としては1920年代より用いられ、鑑賞を目的とする自律的な音楽に対立する概念として、かなり幅広い意味で適用されていたことが紹介されました。
そのうえで、授業では本学学部3年次からのコース制「実用音楽コース」の名称に倣い「映画、テレビドラマの音楽」を実用音楽として扱うことが示されました。
続いて、映画と音楽の関係についても歴史的に概観。初期のサイレント映画では音楽は映画館でのピアノ伴奏や、専属の楽団による演奏など、既存の曲を使用した演奏つきの上映が行われていたことに触れました。トーキーの時代に入って1928年には「サウンドトラック方式」が登場し、フィルム上に音声トラックを記録できるようになると、ライトモティーフを使用した「映画音楽」も作曲されるようになりました。
日本では、無声映画のストーリーを語り、盛り上げるための弁士が活躍。音楽は三味線や太鼓などの楽器を用いるなど独自の発展を遂げました。
こうした映画音楽の歴史的な変遷をふまえ、それぞれの作曲家が手がけた作品について、多くの映像と音楽で紹介がありました。黒澤明の映画作品、ゴジラシリーズなど300を超える作品を手がけた佐藤勝は、ジャズやポップの響き、鋭い音色感を指向し時代劇にもラテンのリズムを用いる独自の作風を確立。
ゴジラシリーズでも、伊福部昭のゴジラのテーマとは異なるゴジラに親近感を覚えるような音楽制作に取り組みます。
独自の音楽スタイルを貫く一方、黒澤明の遺作で佐藤自身の遺作となった『雨あがる』では、円熟した音楽制作を見せます。吉成先生は主人公の心理描写を音楽で表現することで、映画の内容に厚みを加えるような試みを行っていると言及しました。
続いて、神津善行についての紹介では、映画音楽だけでなく歌謡曲、テレビドラマなどの音楽も多数担当し、コミカルな作風であることにふれ、特に江利チエミ版『サザエさん』では劇中でサザエさんが歌うシーンが多くあることなど、神津ならではの作風を生かした作品が多数あることにも言及しました。
宮内國郎は本学附属高等学校を病のため中退しますが、その後作曲を学び、放送関係の作編曲を行う中でウルトラマンで知られる円谷プロダクションと関わることになったと紹介されました。宮内の作風として、エレキギターを多用した点を挙げ、代表作であるウルトラシリーズの中でも作品によって作風が変化していくことに言及。1966年の『ウルトラQ』では怪獣ものであるもののヒーローは登場しないことから、不安、不気味を表現するような半音進行、特殊奏法を用いましたが、1966年からの『ウルトラマン』では、変身する巨大ヒーローを表すかのような明快な主題歌とスケール感のあるシンフォニックなサウンドを用いました。
冬木透(蒔田尚昊)は、本学に3年次編入し、作曲を修めました。ウルトラシリーズのうち全7作を担当し『ウルトラセブン』では大編成のオーケストラを使用した壮大なオリジナル作品を書きあげる一方、『ウルトラセブン』の最終回では、シューマン《ピアノ協奏曲》を使用しました。物語の内容を重視し、時に既存の曲を使用することも厭わない姿勢は、初期の映画音楽の手法を踏襲しつつも、そのシーンを描写するにふさわしい音楽を選定するという、冬木自身がラジオ東京(現TBS)での音響効果という仕事を通じて培ったプロデューサー的な視点を取り入れた作曲家でもあったのかもしれません。
次回は、くにたち発の「実用音楽」(2)として、久石譲以降の作曲家について、お話しいただきます。