くにたち*Garden
第9回 現代音楽部門その3「1970年代以降の諸傾向」(川島素晴先生)
日本の近現代の音楽と音楽文化への理解を深める授業の第9回。作曲の川島素晴先生による、現代音楽に関する講義のその3では、大阪万博以降から1985年までの現代音楽の諸相についてお話しいただきました。
1970年代になると、現代音楽に理解のある演奏家や演奏団体が、現代音楽の作曲家の新作の委嘱作品のリサイタルを開催するようになり、活況を迎えました。その一方、1976年のシュトックハウゼンの日本初演作品が酷評されたこと、オイルショックにより日本経済が急激なブレーキとなったことにより、次第に最先端の芸術に対して投資するという積極的な機運は影をひそめ、後ろ向きな態度が取られるようになります。ヨーロッパの現代音楽の状況をアップデートしていこうという行為そのものが希薄となり、日本の中でのみ現代音楽が醸成されるような、いわば「情報鎖国状態」がもたらされることになった、と川島先生はお話しされました。
1980年代になると、近藤譲がアンサンブル団体を設立してヨーロッパの最先端の状況を伝える活動をしたり、西村朗、吉松隆が前衛的な活動へのアンチテーゼとして、ポストモダン的な発想で「世紀末音楽研究所」を設立したり、調性から現代的書法まで、さまざまな作曲のボキャブラリーを一つに統合するような新ロマン主義的な作品が書かれるようになったりと、さまざまな活動が行われるようになりました。
1980年代にはバブル経済の恩恵を受けながら、85年のサントリーホールのオープンという象徴的な出来事により音楽を聴取する環境が整うものの、バブル崩壊後の1990年代以降、芸術全般を取り巻く状況が厳しさを増すことが示されました。
講義の中で紹介された作曲家と作品は以下の通りです。
一柳 慧:《タイムシークエンス》(1976)
三善 晃:《響紋》(1984)
水野 修孝:《交響的変容》(1978-87)
石井 眞木:《モノプリズム》(1976)
平 義久:《クロモフォニー》(1973)
甲斐 説宗:《ヴァイオリンとピアノのための音楽II》(1978)
※川島先生が企画した大規模回顧展のパンフレットも示されました。
塩見 允枝子:《フォーリング・イヴェント=スペイシャル・ポエムによるヴァージョン》 (1963/2001)
第10回はその4として、続・1970年代の諸傾向〜中堅世代-1についてお話しいただきます。