国立音楽大学

くにたち*Garden

御茶ノ水RITTOR BASE ディレクター國崎晋氏によるレクチャー
「新しいイベントスペースの運営と音楽ライブ配信の現在」

御茶ノ水駅のほど近くに2019年にオープンした御茶ノ水RITTOR BASEは、リットーミュージックの看板雑誌である『Sound&Recording Magazine』の編集長を長らく担当し、リットーミュージックの取締役を務めた國崎晋氏が主催するイベントスペースです。
コロナ禍を経て音楽イベントの在り方がさまざまに模索される中、RITTOR BASEの運営や今後の可能性について、國崎氏にお話しいただきました。

RITTOR BASE設立の背景

レクチャーを担当される國崎晋氏の写真

國崎氏は1990年にリットーミュージックに入社、『Sound&Recording Magazine』の編集を担当する一方、「自分の聴きたい音楽を聴きたい組み合わせで」作ることを目指し、音楽プロデュース業も並行して行ってきました。その経験から、リットーミュージックの基本理念である、音楽をしたくなる、楽器人口を増やすためのリアルなスペースとしてライブハウスを構想されます。
ライブハウスの収益性などを検討する中で、興行的な成功を優先することでリットーミュージックの理念から外れることのないように意識し、雑誌用のスタジオかつイベントスペースとして利用でき、配信スタジオとしても成立するRITTOR BASEをオープンさせたとお話しいただきました*。

RITTOR BASEの新規性

長らく担当された御茶ノ水RITTOR BASEの環境についてお話しされる國崎晋氏の写真

RITTOR BASEでは楽器の音が理想的に響く環境を整えることに重点を置き、床材音響拡散体などにこだわり、さらに立体音響にフル対応した音環境を作り出しています。その結果、立体音響を体験する試聴会をレコード会社と共催したり、映像機材にもこだわることで映画の試写会を行ったりと、音響や映像を体感する空間としての有用性も高めているとお話しされました。
さらに、撮影や配信については國崎氏の「撮影現場に関係者が多すぎることへの抵抗感」や「持続性のあるイベントスペースであること」へのこだわりから、ワンマンオペレーションを可能とする機材設置を行っていることが紹介されました。これにより、ディレクター、スイッチャー、カメラ3台の操作を一人で行えることになり、國崎氏は「切り替えミスなども発生することはあるが、自分の見せたい映像を映すことができるので、面白いと思うことを持続的にできる環境を目指すことができる」と、その美学についてお話しされました。

コロナ以前/コロナ後のRITTOR BASE

コロナ以前/コロナ後のRITTOR BASEのイベントに関してお話しされる國崎氏の写真

RITTOR BASEではコロナ以前は、イベント開催は有料、配信は無料という発想でイベントを行っており、配信はあくまでのリアル開催のイベントを広めるためのプロモーションであるという位置付けだったと國崎氏はお話しされました。
しかし、2020年3月以降、ライブ開催が軒並み中止となり、配信でのライブが活況となります。
世の中の風潮が無料配信に傾く状況にあったものの、國崎氏は「ライブ配信できちんと収益が発生するものを」との思いにより、有料の配信ライブの開催を企画します。当初はチケット購入者への配信URLの周知、アーカイブ設定など「今考えれば思いつくことでも、当時は思いつかなかったトラブル」にも見舞われたとユーモアを交えて振り返っていらっしゃいました。

コロナ後の配信コンテンツについてお話しされる國崎氏の写真

コロナ後の有料イベントでは「無観客」であることが前提となる配信コンテンツを意識していると、國崎氏は例を挙げて紹介してくださいました。「一日でワールドツアーを行える」をコンセプトに、タイムゾーンごとに配信を行うライブや、バイノーラル録音の没入感を意識し、ヘッドフォン聴取を逆手に取った企画を行ったり、無観客だからこそ行えるインスタレーションを配信したりと、それまで國崎氏がこだわってきた音響、映像、ワンマンオペレーションがコロナ禍のライブ配信にマッチしRITTOR BASEならではのイベントが確立されていったと言えます。
國崎氏は今後の課題として、著作権処理の煩雑さ、画質と音質の向上、帯域制限、ハイブリット開催の労力、集客を挙げつつ、RITTOR BASEならではの独自の活動に期待してほしいとお話しされ、講演を終えました。

今回の特別講演を依頼した今井先生は、國崎氏の活動を「美意識」という言葉で表現し、「何度か『これは許せないよね』という言葉がありましたが、RITTOR BASEはこのスペース自体が芸術作品のようです。今、國崎さんが一人で全て実行していることは、テクノロジーの発展によりできるようになったこと。一人の考え、美意識が反映され、広い意味での芸術創造につながっていくのでは」と今後の活動に期待を寄せていました。
これから作品を発表していくであろう学生たちは、今後の活動の糧にと真剣な表情で國崎氏の言葉に耳を傾けていました。


*國崎氏はRITTOR BASEの構想にあたり、2010年に立ち上がったDOMMUNEをロールモデルにしていると、話している。

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