くにおん*Garden
トマシュ・リッテル くにおんフォルテピアノリサイタル
100周年記念事業の一つである、「歴史的ピアノへのアプローチ~くにおんフォルテピアノで新たな世紀へ~プロジェクト」の一環で、ピアニストのトマシュ・リッテル氏を迎え、6月27日(金)に本学所蔵の「くにおんフォルテピアノ」を用いたコンサートを国立音楽大学 講堂小ホールにて開催しました。
リッテル氏は、2018年に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第1位を受賞し、本学でもこれまで2度、楽器学資料館主催コンサートにご出演いただいております。昨年2024年にブルージュ国際古楽コンクールでも第1位を受賞なさったことを受け、100周年記念事業で製作したアントン・ワルター(Anton Walter)の複製「くにおんフォルテピアノ」でのリサイタルをお願いいたしました。
学長よりご挨拶
はじめに、学長の梅本実先生からご挨拶がありました。
「本日は『トマシュ・リッテル くにおんファルテピアノリサイタル』にお越しくださり誠にありがとうございます。トマシュ・リッテルさんは、2年前の6月にも本学にいらっしゃり、川口成彦さんとともに素晴らしいレクチャーと、本学所蔵のコンラート・グラーフのフォルテピアノの演奏をしてくださいました。その時と、今回の太田垣至さんが複製したアントン・ワルターの音色の違い、もしみなさまの耳のご記憶に残っていればですが、その聴き比べも楽しみの一つではないかと思います。本日はワルターと同時代の、モーツァルトやベートーヴェン等のプログラムを用意してくださっているようで、こちらも大変楽しみです。」
第一部
今回のリサイタルのプログラムは、「くにおんフォルテピアノ」の音域(F₁ -g³ 63鍵)などに基づき、リッテル氏により選曲されました。
第一部で演奏された楽曲は以下の通りです。
フランティシェク・レッセル《幻想曲》Op. 8 ハ長調
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト《ピアノ・ソナタ 第6番》KV 284 ニ長調
フランティシェク・レッセル(Franciszek Lessel, 1780–1838)は、ハイドンに師事したポーランド出身の作曲家です。現代にあまり知られていない作曲家の作品は、その作曲家の生きていた時代の楽器で弾くことで、モダンピアノで弾くよりもさらに面白くなると、リッテル氏はおっしゃっていました。
また、モーツァルトの《ピアノ・ソナタ 第6番》は、3楽章が変奏曲のソナタです。リッテル氏は「くにおんフォルテピアノ」の多彩な音色を引き出しながら演奏なさっていました。
休憩中
フォルテピアノはモダンピアノよりもさらに温湿度の影響を受けやすく、調律が狂いやすい楽器です。「くにおんフォルテピアノ」製作者で本学講師の太田垣至先生が調律をなさいました。
第二部
第二部で演奏された楽曲は以下の通りです。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 《ピアノ・ソナタ 第1番》Op.2-1 ヘ短調
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 《ピアノ・ソナタ 第14番》Op.27-2 嬰ハ短調「月光」
リッテル氏はベートーヴェンの楽曲がお好きで、近年たくさん演奏していらっしゃるとのこと。今回のリサイタルでも2曲のソナタを演奏してくださいました。
「くにおんフォルテピアノ」の表現力を存分に活かしたリッテル氏の演奏に、会場からは大きな拍手がおくられました。
インタビュー
演奏後のリッテル氏に、事前に学生から募集した質問へお答えいただきました。通訳は、フォルテピアノ奏者として活躍される、本学講師の平井千絵先生です。
古典派、ロマン派とさまざまな時代のフォルテピアノをどのように弾き分けるかという質問には、練習あるのみということに加え、バロック時代、古典派時代の鍵盤楽器の繊細なタッチを学ぶことが、その後の時代のピアノ演奏にも役に立つとおっしゃいました。
モスクワ音楽院時代に、モダンピアノに加え、チェンバロやフォルテピアノを学んだリッテル氏。さまざまな楽器を弾きわけることは簡単ではないものの、その経験はモダンピアノ奏者にとっても活きるということを、強調されていました。
また、日本での印象的な経験についても質問がありました。13歳か14歳の頃に初めて来日され、ホストファミリーのもとで日本の生活を体験なさったことをお話してくださいました。また、今回の来日中には広島を初めて訪れるとのこと。歴史に興味があるというリッテル氏は、難しい歴史を抱えたポーランドと日本の関係が、より良いものになることを願っていらっしゃいました。
最後に
終演後には来場者から、リッテル氏の演奏にとても感動した、インタビューの内容も興味深かった、など多くの反響をいただきました。
今後もくにおんフォルテピアノを使ったサマースクールや演奏会、そして数々の100周年記念事業を予定していますので、ぜひご注目いただけますと幸いです。
詳細につきましては、楽器学資料館Webサイト、そして100周年記念公式Webにてご覧いただけます。
