国立音楽大学

くにたち*Garden

「題名のない音楽会」鬼久保美帆プロデューサーによる特別講義:
音楽で食べていくには「編曲」に需要あり!〜何が求められているのか?を理解する

5月25日(水)、テレビ朝日「題名のない音楽会」のプロデューサー兼演出を担当されている鬼久保美帆さんによるワークショップが行われました。同番組に22年に渡り携わる中で、実際の音楽番組制作の裏側や編曲の発注、どのような音楽の仕事が求められているかなど、貴重な編曲楽譜や実際に放送された映像を交えながらお話しくださいました。

鬼久保さんが考える「音大生のギャップ」とは

鬼久保さんは、音楽プロデューサーとして「音大生のどこに音楽で生きていくための需要があるのか、という点をたくさんの映像を交えてお話したい」としてワークショップを始めました。最初に音大生が陥りがちな傾向として「クラシックの王道ベースで考えてしまい、コンクール受賞歴がなければ音楽の世界では認められないと思い込んでしまって自ら可能性を閉ざしてしまう」ことを挙げました。「でも実際に音楽業界で需要があるのは、作曲家では『オリジナル作品を書き上げる』以上に『編曲能力』であり、実際のポップスなどの流行曲をヒット路線に乗せているのは編曲家の存在が大きい」と話し、実際「題名のない音楽会」での演奏曲でも編曲を重視しており、その時々の企画に合った編曲家の皆さまにお願いしていると解説。クラシックやポップスなど様々なジャンルを含めたアレンジ能力が求められているとお話しされました。

コロナ禍だからこその提案で、音楽を楽しんでいただきたい

映像を交えながらお話される鬼久保さん
映像を交えながらお話される鬼久保さん

まず、クラシック編曲に関しては「特にこのご時世ではオリジナルの大編成で演奏することが難しくなっており、小編成でも同じような魅力を放てるような楽器の置き換えが必要」と正しい楽曲理解に基づく編曲の重要性をお話しされました。事例として「題名のない音楽会」が取り組んでいる『7人制吹奏楽!ブリーズバンド』という新しいジャンルの話を挙げ、コロナ禍で大人数での演奏が出来ない今だからこそできる提案をして、学生たちや音楽を楽しむ皆さんに新しい思考や希望、夢を与えたいというメッセージを込めたとお話しされました。

『ブリーズバンド』企画で1曲編曲をご担当された沢田完さんについてはFacebookで独自に吹奏楽についての考えを発信していたものが目に留まり、企画の趣旨を理解し、賛同していただけるのではとの思いから編曲をお願いされたとのことで、SNSでの独自の発信もよくチェックされていることも触れられました。また、「ブリーズバンド」で使用したスコア及びパート譜は「題名のない音楽会」のWebサイトで配布し、楽器の代用を含め皆さんに好きな組み合わせで楽しんで演奏してほしいという番組からのメッセージが込められているとお話しくださいました。

作品への敬意を忘れずに、新たな提案を模索していくことが大切

プロデューサーならではの視点から各音楽分野に関して解説
プロデューサーならではの視点から各音楽分野に関して解説

次に、ポップス編曲に関してのポイントもお話しいただきました。鬼久保さんはクラシック奏者が演奏することで新たな楽曲の魅力を引き出す意味を込め、ポップス楽曲特有のリズム楽曲(4リズム:ピアノ、ギター、ベース、ドラム)を用いず、クラシックの良さを活かした編曲を重要視しているとのことで実際に番組で取り上げた例をもとにお話しいただきました。

SixTONES「Imitation Rain」原曲ではイントロにピアノが使われ、Bメロでは激しくビートを刻むような曲が、ピアノの代替として箏を用いる、リズム系の楽器は弦楽のアレンジを施すことで、原曲の美しさも浮かび上がるといった事例が紹介されました。また、元々ロック調の曲を箏と弦楽器のみのアレンジにあえてしぼることにより、原曲とは異なる新たな世界観を提示できたと解説されました。そして何より作品への敬意を忘れず、曲のエッセンスを捉えて、原曲の新たな魅力を引き出していくことが大切とお話しされました。また、ポップスの編曲でリズムを担う楽器をオーケストラアレンジの際にも使うと、とたんに音のバランスが崩れ、弦楽器などの音が聞こえなくなり音楽を調整するPA任せになってしまうことから、クラシック音楽を届ける番組として「クラッシックの良さは生の音を紡ぐもの」という考えや「新たな試みをしたい」というメッセージからあえてリズム楽器を外すことを重要視していると解説されました。

組み合わせの妙から生まれるコラボレーション

「題名のない音楽会」での貴重な編曲楽譜に目を通す学生たち
「題名のない音楽会」での貴重な編曲楽譜に目を通す学生たち

また、楽器の特性に関する編曲については、楽器同士の「見たことのない組み合わせ」を見出すことが大切とお話しされました。事例として「古くて新しい」組み合わせを模索し、チェンバロとマリンバ のアンサンブルを鬼久保さんが発案されました。マリンバ は、本学で講師を務める塚越慎子先生が出演し、編曲家としてもご活躍されている萩森英明さんのもとエマーソン、レイク&パーマー作曲《タルカス〜噴火》を演奏し、どちらもアタック音が強い楽器という楽器の共通点を見出し、リズミカルな曲があうという考えにより未聴への挑戦をされたと解説されました。
その他、映像を交えながら、各放送回でのエピソード、どのような音楽を視聴者へ提供したいかなどお話しいただき、「本気で面白い番組を視聴者に届けたい」という意気込みを垣間見ることができました。

最後に

鬼久保さんは「作曲家は実際には音を出しません。自分の曲を演奏してもらうには、いかに周りを巻き込み、どのような考えからその曲を作曲したのかという意思を周りに伝えることが必要です。国立音楽大学に在学しているからこそ、在学中に演奏家の友人を増やしてください。また、かつての巨匠のスコアを見て、多くのことを吸収してください。そのような、様々な財産を紡ぐ学生生活がきっと未来につながると思います。」とお話しされ、講義を終えました。

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