くにたち*Garden
白岩優拓 さん インタビュー
第85回日本音楽コンクール(主催:毎日新聞社、NHK、特別協賛:三井物産、協賛=岩谷産業)作曲部門において、第1位に輝かれた本学学部卒業、大学院修士課程修了、博士後期課程単位取得満期退学の白岩優拓さん。
受賞の喜びや音楽に対する考え方などを武田忠善学長が伺いました。
教員をしながらの受賞!受賞曲《BIRTH 0−0(ZERO)》について
武田学長(以下、武田)
おめでとうございます!
まず、今回受賞した作品について教えてください。
白岩さん(以下、白岩)
《BIRTH 0−0(ZERO)》という曲です。
微分音を使用した曲で、オーケストラを2つに分けて、442Hzと428Hzでチューニングをします。フルートのソリストが2名いるのですが、ソリストも442Hzと428Hzでチューニングをします。そして、二つが合わさって、共有したり対比したり、周波数の違いによって生まれる様々なことを伝えていくというような作品です。
武田
通常のオーケストラではチューニングで442Hz程度に合わせることが多いですよね。
そこを428Hz。演奏者は最初、「自分の音程が悪くなったのではないか?」となりますよね。
白岩
2群のオーケストラなので、1組が442Hzでチューニングを行い、もう1組が428Hzで別々にチューニングしなくてはいけません。最初の練習の時に、2組目が428Hzでチューニングを行ったところ、オーケストラの皆さんが、「この音なに~?!」みたいな感じになってしまい、大爆笑になりました(笑)。
武田
(笑)。
白岩
そして、本選の本番の日も舞台上でチューニングをしたのですが…。
奏者の方たちは全員慣れているため、そういうものだと思っているのですが、聴いている方は…大爆笑でした(笑)。
武田
でも静かで美しい曲ですよね。
私も先日、本学の藤井喬梓教授が作曲された微分音を使用した曲を演奏しましたが、だんだんそういう世界に演奏者も聴衆も夢みたいに入っていき、波長が合ってくるというか、心地よくなっていきますよね。
白岩さんの曲にも同じような心地よさを感じました。
白岩
そう言っていただけると嬉しいです。
「うねり」を出す曲なので、最初から最後までずっと静かな曲です。
武田
作曲の構想などはいつ頃から行うものなのですか?
白岩
今回の曲は、2年前に1度書いた曲を改訂したものだったのですが、改訂するだけでも半年くらいはかかりました。
武田
現在、中学校の先生をされているとのことですが、教師をしながらの創作活動は大変ではありませんでしたか?
白岩
今は北海道にある中学校で音楽と特別支援学級を教えているのですが、教員生活はとても忙しく、専門分野を教えること以外の仕事も多いため、本当に大変です。
でも、子どもたちが頑張っている姿を見ると大変さが全部吹っ飛ぶといいますか、大変だけど「楽しい」と感じて過ごしていました。
武田
今回の受賞、生徒さんはどのような反応でしたか?
白岩
受賞したことに関しては、すごく喜んでくれました。しかし、僕の曲を聴かせてみたのですが…。
いつも吹奏楽部の指導などで、「ほら、ピッチが合っていない!うなっているでしょ、よく聴いて!」などと言っているにも関わらず、作曲した曲はわざわざ「うなり」を発生させる部分などがあるため、「どういうことですか?!ピッチを合わせるのではないのですか?」「え、なんだかよく分かりません…。」という率直な感想でした。「気持ち悪い!」とも言われました(笑)。
作曲を始めたきっかけと同級生の存在
武田
学部時代はコンピュータ音楽専攻だったとお聞きしました。
白岩
そうです。コンピュータ音楽専攻で学んでいました。
コンピュータを使用して作曲をしていましたが、譜面上で書く作曲に興味を持ち始めて、3年生から「作曲コース」に入り、作曲についても学びました。
武田
譜面上ということは、誰か演奏する人が必要になってきますよね。白岩さんの書いた作品を今回フルート部門で第一位を獲得した下払さんが演奏されていたこともあったと聞きましたが、何か下払さんとのエピソードはありますか?
白岩
彼女とは同じ学年で、演奏が素晴らしくて、いつもすごく助けられてきました。彼女は、任せられる演奏家というか、作曲者の私がハラハラしなくて大丈夫な存在で、彼女に頼めばしっかり仕上げてきてくれるので、心強い演奏家の一人です。
「こういう曲なんだけど…」と言っても、「嫌だ」という感じではなくて、「やりたい!やりたい!」と言ってくれます。
私は分からないことがあると演奏家に直接尋ねるようにしていますが、彼女に「ここってこういう風に書いてみたのだけれど、これで分かるかな?」と聞くと、「こうやって書いてくれれば分かるけれど、この書き方だと分からない。」とはっきり言ってくれます。
そういうやりとりを学生時代からしてきたため、その関係がすごく活きているように感じます。
今でも色々なところで同級生が活躍していますが、「音楽を共に学んだ仲間が活躍している」ということは本当に嬉しい限りです。
国立音楽大学だからこそ伸ばせた力
武田
国立音楽大学での学生生活はいかがでしたか?
白岩
くにたちは、開けてるイメージが入学時から僕の中ではありました。枠にグーっとはめて「この中で何かをしなさい!」という感じではなくて、「まず自分で見つけてみましょう」という感じで、自分で動いてみて始まるような、「個性が出せる」学校だなとずっと思っていましたので、私としては、とても居心地が良かったです。
居心地が良かったというと上から目線のように聞こえてしまうかもしれませんが、本当に楽しくて、頑張れば頑張る程、先生方から「こうした方が良いのでは?」というアドバイスをいただけたりして、充実していました。
武田
国立音楽大学ならでは、といったことはありましたか?
白岩
学校によっては、「みんな一緒だな…」と思ってしまうような、作曲した曲が同じスタイルになってしまうところもあるようです。しかし、国立音楽大学では全くそのようなことはありませんでした。個性を伸ばすことを重視している大学だからかもしれません。
また在学中は、必ず作った作品を演奏してもらえる機会がありました。「これはうまくいく」と思って実際に曲を書いていても鳴らしてみると全くうまくいかないということも多々あるので、実際に聴くことができ、奏者ともコミュニケーションをとることができることは、とても良い機会でした。
武田
演奏してもらえるということですけれども、その演奏は学生がやりますよね。演奏する学生側もすごく鍛えられているという面があると思うのですが、どう思われますか?
白岩
くにたちの現代音楽の演奏は、本当に今充実していると思いますね。学生や先生方が作曲する新しい作品もそうですし、20世紀、21世紀の音楽を先生方や学生たちが積極的に取り上げて色々な機会に演奏しているので、作曲の学生も鍛えられて、演奏家とのコラボレーションができる。学生も新しい作品に取り組むということにすごく前向きで、積極的です。そういう意味でクリエイティブな空気が学内に充満しているというか、そう感じながら過ごしていました。
武田
微分音を取り入れるきっかけも、先ほども話に出た藤井喬梓教授の曲だったとの話を伺いました。
白岩
はい。微分音を曲として知ったのは、藤井喬梓教授の《ディエシスⅡ》という曲です。
武田
本学で10年以上続いている『聴き伝わるもの、聴き伝えるもの』という演奏会のシリーズでの演奏ですね。
白岩
近現代の作品を演奏するだけでなく、必ずくにたちの先生が新作を発表するというところが素晴らしい企画だと思います。作曲やコンピュータ音楽を専攻している学生が演奏に参加するプログラムもあって。2008年にその演奏会で先生の曲を聴いて、群を分けたりチューニングを変えたりといった微分音を使うことがすごく好きなのかもしれないと思いました。あのコンサートシリーズがなかったら、今こうしてインタビューを受けることもなかったかもしれません。
武田
そして実際に作曲に取り入れていかれたわけですね。
白岩
学部4年生の時に2群のオーケストラの作品を書き、修士でも微分音の研究をしてオーケストラの作品を書きました。博士後期課程に入っても微分音の研究を続けました。振り返ると、新しい創作の現場に接する機会が常に身近にあって、新しい創作の可能性というものに近づきやすい環境に溢れていたと思います。
今でも様々な奏者の方と連絡を取り合っていますが、作曲家としてとても充実した学生時代だったと思っています。
学生さんに伝えたいこと
武田
今の在学生に向けて何かメッセージはありますか?
白岩
現代曲だけではなく、とにかく色々な曲を聴いてほしい、そして様々な楽譜を見てほしいと思いますね。色々な演奏会を聴く中で、「こうしたいな」という『想像』をしてほしいと思います。
そして、先生方から聞けることは、とにかく聞き出すという姿勢も大切だと思います。「私だったらこうするけどね…」というような言葉一つでも、創作のヒントになったりしました。どこにヒントが落ちているのか分からないので、とにかく耳に留め、凝らして聞くことを大切にしてきました。
創作活動はどんどんやりたいことが増えていきます。幅広い経験を積むために、様々な状況を自分で創り出すくらいの行動力も必要だと思います。私は海外には行きませんでしたが、海外に行くというのも一つの手ではないでしょうか。
武田
本学には交換留学という制度もありますね。
白岩
そうですね。
海外に行き、一つに絞らずに、多くのことを経験することで、創作の幅が広げられると思います。色々な場所に行ってみて、様々な人と触れ合って、そして書いてみる。すると、より一層作曲が面白くなるのではないかと思っています。
武田
先ほど「様々な楽譜を見てほしい」というお話がありましたが、国立音楽大学の図書館は在学中から使用されていましたか?
白岩
図書館の人を困らせるくらい利用していました(笑)。
くにたちの図書館はとても充実していて、現代音楽は勿論のこと、古いものから新しい作品までたくさん揃っています。
リニューアルオープンされたということで、この後覗いていきたいと思っていますが、そのような施設が揃っていることも国立音楽大学の良さだと思うので、在学生の方にはぜひ、沢山利用してもらいたいと思います。
武田
そうですね。本日はお忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。
白岩優拓 プロフィール
北海道八雲町出身。国立音楽大学 音楽学部 音楽文化デザイン学科 音楽創作専修を首席で卒業。卒業時に有馬賞を受賞。その後、国立音楽大学大学院(修士課程)作曲専攻を修了。国立音楽大学大学院(博士後期課程)単位取得による満期退学。
電子オルガンを平部やよい・柏木玲子・安藤禎央 諸氏に師事。第12回九州音楽コンクール電子オルガン大学生部門最優秀賞。ヤマハ賞を受賞。第2回、3回徳島音楽コンクール電子オルガン大学生部門金賞(1位)を2年連続受賞。
19歳より作曲を川島素晴・北爪道夫・古川聖 諸氏に師事。トロンボーンピース・オブ・ザ・イヤー2010作曲賞で第1位(作曲賞)。第23回朝日作曲賞 入選。2013年度全日本吹奏楽コンクール課題曲選出(祝典行進曲「ライジング・サン」を作曲)。第29回現音作曲新人賞 入選。平成24年度札幌市民芸術祭奨励賞 受賞。第85回日本音楽コンクール作曲部門 第1位 三善賞、明治安田賞を受賞。