国立音楽大学

【開催報告】第124回オーケストラ定期演奏会、第6回音楽大学オーケストラ・フェスティバル2015を終えて<教授 中島 大之>

中島 大之 教授

 話は4年前の2月末に行われたN響西日本公演にさかのぼる。一週間にわたったツアー最終日、私は正指揮者尾高忠明氏の楽屋を訪ねた。「この3月いっぱいでN響を退団し、4月から国立音大に赴くことになりました。国立ではホルンのほかにオーケストラも担当します。」すると尾高氏は「国立か。僕のおふくろが教えていた大学だよ。兄は芸大、僕は桐朋だったから、全員ばらばらでね。」と、にこやかに語った。そして、「いつか是非、国立音大のオーケストラを指揮して頂きたいのですが」とお願いすると、「もちろんその時は喜んで」と、固い握手をかわしたのだった。

 お互いに社交辞令ではない(多分!)このやりとりが、実現するときが来た。2015年12月5日、国立音大講堂大ホールにて、国立音大オーケストラ定期演奏会。定期で前売り券完売というのは大学始まって以来のことらしい。オーケストラの運営、いわゆる選曲、指揮者やソリストの人選はすべて我々オーケストラ担当の教員に委ねられているが、それが非常に良い方向に進んだことは、素直に嬉しい。

 リャードフ作曲「魔法にかけられた湖」〜序盤でリハーサルでは起こり得なかったセクション間のずれが生じ、全般に固さの残る演奏で始まった。二曲目チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」〜漆原啓子先生の見事なソロに、学生達がどんどん引き込まれていく。その結果、尾高先生の指揮にもしっかり答えることができ、上々のチャイコフスキーとなった。その勢いは後半のラフマニノフ「交響曲第2番」に引き継がれ、素晴らしい演奏。最後は満員のお客様のカーテンコールを遮って、尾高先生から異例のスピーチ。会場の音響を賞賛され、学生達を賞賛され、お客様にお礼とともに国立音大オーケストラをよろしくとの内容は、全く予期せぬことで、学生達、我々教員一同、胸が熱くなった。
 さて、翌日12月6日は、ミューザ川崎にて、オーケストラ・フェスティバルでラフマニノフを再演。前日の演奏会での反省と成功体験がうまくミックスし、そこにたびたび驚嘆させられる若者達の目を見張るような集中力が加味された。さらには尾高先生の、N響では見たことがないほど情熱的な(失礼!)指揮ぶりもあって、前日をも上回る神がかったラフマニノフとなった。そしてカーテンコールでは、なんと尾高先生から再度のスピーチ。尾高先生ってこんなに熱い方だったっけ?

オーケストラフェスティバルでの熱演 (C) 青柳聡

 最近、国立音大のオーケストラが素晴らしいという声を耳にする機会が増えた。とてもありがたいことである。本当にそうだとすると、その秘密はどこにあるのか。
 学生達個人のレベルが急に上がったのか?もちろん我々教員はその点を期待したいし、徐々にレベルアップをしつつあるとは思いたい。がしかし、それを言うなら、一人一人のレベルというよりもむしろ、アンサンブルとして全体のレベルが上がってきたと言うほうが的を得ているだろう。国立音大の、アンサンブル授業に重心を置いたカリキュラムの成果の一つと言えるかもしれない。
 さらには、国立音大におけるオーケストラの授業で、他の音楽大学と一線を画す点が一つある。本学では、指揮者(代振りの場合もあるが)、弦楽器の指導教員(永峰先生、志賀先生)、管打楽器の指導教員(私中島)、そして弦楽器には中で一緒に弾く演奏教員(山川先生、三戸先生)が毎回授業におり、本番に向けて段階的に指導を行っていく。毎回同じ布陣で段階的に指導していくというところが大きなポイントである。しかも三人の指導教員はかつて全員N響という同じオーケストラに長年在籍しており、つまりオーケストラの演奏スタイルに関して、共通の認識と方向性を持つ。

 今回の演奏会においては、尾高先生の力が素晴らしい演奏を導いたことに疑う余地はない。自分自身の経験談に基づくさまざまな興味深い話をちりばめながらのリハーサルは、どんどん学生達の目を輝かせ、真のプロフェッショナルの世界に引き込んでいく。その結果、面白いように音が変わっていくのであった。

 私の古巣N響は先ごろパーヴォ・ヤルヴィ氏が首席指揮者に就任し、今年90周年を迎えた。奇しくも我々国立音楽大学は、尾高忠明先生が招聘教授に就任され、もう一人の招聘教授、準・メルクル先生とともに来年度90周年を迎える。この2人のマエストロと一緒に音楽に取り組むことができると思うと今から胸が躍る。既に90周年記念の演奏会が次々と発表されつつある。どうぞ国立音大オーケストラの来年度、そしてまたそれ以降の活動にもご注目あれ。

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