国立音楽大学

くにおん*Garden

本学所蔵の貴重資料を知り、味わい、学んだ貴重な講義と演奏
―「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」 デジタルアーカイブ構築・公開プレイベントI

2026年に創立100周年を迎える国立音楽大学は「くにおん新世紀」と銘打ち、演奏・創作、イベント、出版、研究の4つの柱で様々な事業を行っています。
本学の附属図書館の「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」デジタルアーカイブ構築・公開プロジェクトはその一つ。所蔵しているベートーヴェンの生前から19世紀末にかけて出版された楽譜1,429点をデジタルアーカイブ化し、2026年の公開に向けて、立命館大学アート・リサーチセンターのご協力を得て進行しているところです。
11月8日(土)、デジタルアーカイブ構築・公開プレイベントの第1弾として、「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」とは何なのか、どのような価値をもっているのかを多くの方に知っていただくための機会が設けられました。
ベートーヴェン研究のスペシャリストである音楽学者の先生3名をお招きしての講義、実際に初期印刷楽譜を使用しての演奏の模様をレポートします。

まずは梅本実学長による挨拶で国立音楽大学創立100周年記念プロジェクトの概要についてお話しがあり、つづいて附属図書館の館長である江澤聖子先生からは貴重資料についての概要の説明、登壇される先生方の紹介がありました。特に貴重資料は多くの方の協力によって整理と管理がされてきたことへの感謝、多くの演奏家や研究者にとってそれらが有益なものとなることを願っていることが強く語られました。

左:梅本実学長、右:江澤聖子先生

次に、附属図書館職員の柄田明美さんと二塚恵里さんが「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」デジタルアーカイブ構築・公開プロジェクトについての説明を行いました。1,429点のうち、ベートーヴェンと同時代の楽譜は約500点含まれており、一つの楽曲について様々なバリエーション(初版楽譜、後続楽譜、改題版、編曲など)があることから、ベートーヴェンの楽譜研究において非常に重要なものであると評価されています。2026年にはオンラインですべて閲覧が可能となります。今回は実際の操作画面なども紹介され、検索をはじめとする操作が容易で、また画像も鮮明なことがよくわかりました。

概要が把握できたところで、講義とレクチャー&演奏が開始されました。講演者の藤本一子、平野昭、土田英三郎各先生は本学の音楽研究所のベートーヴェン研究部門(1999年から2006年にかけて設置)で研究員としてお勤めくださった方々です。今回は各講義の概要をご紹介し、詳細は別途図書館Webサイトから公開させていただきます。
藤本一子先生
まず藤本一子先生からは、コレクションの概要や特色、面白さをテーマにお話しいただきました。そもそも本学所蔵の印刷楽譜は寄贈や購入など複数の経緯を経て集まったこと、一つの楽曲について様々な版の楽譜があり、多様な観点からの比較研究が可能ということ、またそれらの見方についても《アデライーデ Op. 46》やハースリンガー社によるピアノソナタ全集など実例を挙げながらご紹介いただきました。紙の種類の違いによって出版年代の特定が可能といった研究の実践についても触れられ、改めて資料の貴重さについて理解できる講義となりました。
平野昭先生
平野昭先生からは、コレクションにおいて欠かすことのできない人物である児島新(こじましん)先生についての紹介をいただきました。児島先生は世界的にも重要なベートーヴェン研究者であり、『ベートーヴェン新全集』の編纂校訂者の一人としても活躍しました。彼は本学でも非常勤講師として講座を持ち、また附属図書館を高く評価していたことから、生前に蔵書を寄贈してくださったのです。その数は書籍1,303点、楽譜785点と膨大な数で、そのうち159点がベートーヴェン作品です。そしてこの児島先生からの寄贈は、本学がベートーヴェン初期印刷楽譜を収集する重要なきっかけとなりました。
土田英三郎先生

土田英三郎先生からは、ベートーヴェン作品の編曲譜の興味深い例をご紹介いただきました。正式なタイトルページは外側の表紙ではなく、それを開いた中のページであることをはじめとした当時の出版物の見方、そのページに書いてある情報や印刷の状態などから初版か後続版かを判別する方法などのご教授も。そして一口に「初版」といっても、そのなかで様々なバリエーションがあることもお話しいただき、本学の資料を詳細に検討していくことで新しい発見が生まれる可能性も示唆してくださいました。また、様々な編曲版が出ているなかでもとりわけ特徴的な例として、ベートーヴェンの交響曲第2番(Op. 36)の九重奏編曲版の演奏動画もご紹介いただきました。

最後は、本学の沢田千秋先生と稲積亜紀子先生により、本学に所蔵されているベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ニ長調(Op. 61)のピアノ連弾版(ハスリンガー社から1854年に出版されたもの。)から、第2楽章と第3楽章が演奏されました。
この協奏曲はヴァイオリンの「三大協奏曲」にも挙げられ、ヴァイオリンの様々な技巧と美しい旋律に彩られた作品です。今回はカール・ゲオルグ・リクル(1801-77)による編曲版。もともとヴァイオリンとオーケストラのために書かれたものをピアノ1台で表現するためにピアノならではの魅力を活かした工夫が凝らされています。さらにこの曲はベートーヴェン自身がピアノ協奏曲にも編曲している(Op. 61a)のですが、今回は特別にそのピアノ協奏曲用のカデンツァが沢田先生により披露されました。
沢田先生、稲積先生はオーケストラを感じさせる豊かな響きと多彩な音色で各楽章を演奏されました。弦楽器を減衰楽器であるピアノで奏でるというのは非常に難しいことなのですが、タッチやペダルのコントロールを駆使し、のびやかに奏でてくださいました。
とくに会場を湧かせたのはやはりカデンツァでした。
なお、今回は演奏されなかった第1楽章は12月19日(金)のプレイベント第2弾で披露されますのでぜひ足をお運びください。

研究と演奏は、つねにお互いを高めあうものです。今回のプレイベントで先生方がお話しくださったことや演奏によってそれを改めて実感することができました。今後、本学の貴重楽譜が有効に活用され、より音楽文化が発展していくことを心から願っています。

長井進之介/本学卒業生・音楽ライター

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