くにおん*Garden
デジタルアーカイブ構築・公開プレイベントII レクチャー付きコンサート(後編) 「デュオ編曲で聴くベートーヴェン協奏曲」
休憩をはさんで、沢田先生のレクチャーが行われました。沢田先生はピアノ・トランスクリプションをご専門とされていることから、オーケストラをピアノで演奏することは多いそうです。しかし、今回のようにオーケストラと独奏楽器をピアノ1台で演奏したり、ピアノ協奏曲をピアノとヴァイオリンで弾いたりというのは非常に珍しいとのことでした。
協奏曲を演奏するにあたっては、ソリスティックな魅力とそれを包み込むオケをどのようにピアノに落とし込んでいくべきかという難しさがある一方、それを模索していく過程に楽しさがあるとお話しくださいました。その後、編曲作品演奏のスペシャリストである沢田先生ならではの視点で、編曲の歴史や魅力、とりわけ音楽の普及のために多くの編曲が行われた19世紀という時代についても言及されました。沢田先生のお話により、編曲の芸術的価値、そしてそれを行った音楽家たちの作品に対する深い愛情について考えることができました。
後半最初の演奏は「テーマ別演習」受講生3名によるアンサンブル演奏です。演奏は成川結衣さん(フルート)、黒川莉名さん(フルート)、そして陳夢軒さん(ヴィオラ)で、2本のオーボエとイングリッシュ・ホルンのためのトリオ(Op. 87)から第1楽章です。編成とともに調性がハ長調からニ長調に移調されており、全体的に明るさと輝かしさが増した印象を与えます。3名の演奏は、お互いの音色をよく聴きあい、溶け合わせていくのがとても巧みで、華やかさとやわらかさが見事に共存したものでした。また対話のように展開していく箇所ではお互いの演奏を丁寧に模倣したり、新たな展開へと導いていったりと、細やかなやりとりが行われていました。
演奏後沢田先生より、今回演奏した学生のみなさんが受講している「テーマ別演習」についてご紹介がありました。この授業は演奏系の学生だけでなく、作曲専攻や音楽教育専攻の学生も受講されていたとのことです。受講生の一人である音楽教育専攻の岡田海さんからは、自身も授業で交響曲第7番を連弾で演奏した時の感想として、オーケストラ曲をピアノで演奏することの難しさと試行錯誤、実際に音にした時の喜びについてお話がありました。
後半にも沼口先生のレクチャーが行われ、前半でもご紹介のあった作品目録について言及がありました。この作品目録はベートーヴェン研究において非常に重要なものであり、作品に関する情報が詳細に掲載されています。また、貴重資料の所在についても記されており、今回演奏されたような編曲作品を含め、ベートーヴェンの作品研究のための重要な楽譜が国立音楽大学に所蔵されているという情報も書かれているとご紹介がありました。これは、本学所蔵のコレクションが、世界的なベートーヴェン研究の観点からも重要なものであるということの裏付けとなります。実際にこの情報を見た研究者から図書館に直接問い合わせがくることもあるそうです。デジタルアーカイブが公開されることになれば、世界中の研究者がどこにいても本学の資料を使って研究を進めることが可能となります。今回の公開事業が非常に大きな意義を持つものであるということが改めてわかりました。
最後は、ピアニストの坂本真由美さん(Primo)と沢田先生(Secondo)の連弾でベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調(Op. 37)の第3楽章が演奏されました。ジングシュピールや声楽作品の作曲家として活躍したヨハン・シュミット(1779-1853)による編曲です。原曲がピアノ独奏とオーケストラが対話するように展開する楽曲であることからも、4手連弾との相性がよく、元々連弾作品であるかのようにプリモとセコンドパートが自然なやりとりを展開する編曲となっていました。ただし演奏には高い技巧と音色の多彩さが求められる難曲であり、内輪で演奏するにはかなりハードルの高い作品といえるでしょう。 しかし坂本さん、沢田先生はそれぞれが卓越した技巧をもつピアニストであり、その難しさをまったく感じさせずに流麗な演奏を展開しました。協奏曲らしい華やかさで曲を閉じ、会場を大いに湧かせてこの日の最後の演奏が見事に終了しました。
貴重楽譜はそれ自体が高い歴史的、そして資料的価値を持っています。研究することでその重要性がさらに明らかになるのはもちろんですが、実際に音にすることで、より多くの人に楽曲の素晴らしさが伝わるとともに、「こんなに素敵な曲ならもっと研究したい」というモチベーションにもつながるのではないでしょうか。
今回の演奏とお話によって、多くの方々に本学が所蔵する資料の価値を実感していただけたことと思います。そしてデジタルアーカイブの完成後は、思わぬ発見や新たな演奏の機会がさらに拡がっていくことでしょう。たくさんの音楽を愛する方々に、ぜひ本学の資料をご活用いただきたいと願っています。
以上
