国立音楽大学

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本学所蔵の貴重資料を知り、味わい、学ぶ演奏と講義  「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」 デジタルアーカイブ構築・公開プレイベントII レクチャー付きコンサート(前編) 「デュオ編曲で聴くベートーヴェン協奏曲」

国立音楽大学は2026年に創立100周年を迎えるにあたり、演奏・創作、イベント、出版、研究の4つの柱で様々な事業を行っています。本学附属図書館の「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」デジタルアーカイブ構築・公開プロジェクトは、その中核を成すものです。図書館が所蔵しているベートーヴェンの生前から19世紀末にかけて出版された楽譜1,429点をデジタル化し、2026年度中にアーカイブとして公開すべく、立命館大学アート・リサーチセンターのご協力により事業を進めています。

 図書館ではデジタルアーカイブ公開に先立ち、本コレクションの特徴や意義を発信するためのプレイベントを開催しています。今回ご報告するのは、2025年12月19日(金)に開催された第2弾のレクチャー付きコンサート(講堂小ホール)です。 

 今回のテーマは、「デュオ編曲で聴くベートーヴェン協奏曲」。本学准教授(鍵盤楽器専修)の沢田千秋先生に企画の中心となっていただきました。沢田先生はピアノ・トランスクリプション研究をご専門とされ、本学大学院の授業「テーマ別演習」で「19世紀の編曲文化」、「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション研究」を担当されています。今回のコンサートにおいては、沢田先生ご自身はもちろん、第一線で活躍する演奏家の方々や沢田先生の授業を受講している大学院修士課程の学生たちが、本学の所蔵するコレクションの楽譜を用いて演奏を行いました。

 また、元本学准教授の沼口隆先生によるレクチャーも行われました。沼口先生は本学の初期印刷楽譜コレクションを長年にわたり牽引されています。

 

 まず図書館館長の江澤聖子先生のご挨拶の後、本学修士課程(鍵盤楽器コース)の播馬琴羽さん(Primo)、北侑梨さん(Secondo)による連弾で、ベートーヴェンの《エグモント》序曲(Op. 84)が演奏されました。

ベートーヴェンがゲーテの戯曲のために作曲したオーケストラによる劇音楽の序曲を、ピアノ4手のために編曲したものです。19世紀になると、オーケストラや室内楽作品を家庭やサロンで気軽に楽しむことができるピアノ4手連弾へと編曲することが多く、この曲もそうした流れの中で編曲されたものだと思われます。編曲はトレモロや分散和音を巧みに駆使したもので、ピアノをしっかりと鳴らすことでオーケストラの響きに近づけようという工夫が見えるものでした。そして演奏者のお二人はそれぞれが美しい音色で丁寧に旋律を歌いながら、トゥッティでは豊かで丁寧な響きで、原曲のオーケストラ演奏に近づこうとしている様子が伝わってきました。

 演奏後、沼口先生による一回目のレクチャーが行われました。最初は《エグモント》序曲の解説で、ベートーヴェンがこの楽曲で行った革新的な創作手法や楽曲の価値、およびベートーヴェンが取り組んだ劇音楽の序曲についての紹介がありました。また、ベートーヴェンの膨大な作品についての情報が収められた作品目録も紹介されました。こうした詳しい解説により、演奏された楽曲をより深く理解することができました。
 さらに、今回演奏された序曲の4手連弾版は、本来はステージで演奏することを想定して書かれたものではないということについても、お話しがありました。かつては、こうした編曲作品は家庭を含めた内輪で演奏するものだったのです。現代では、演奏会で演奏されることが多いと思われますが、今後編曲作品を聴く際には、そうした時代背景を思い起こすことで、作品の見え方、聴こえ方も違ってくることでしょう。

 レクチャー後の演奏は、第1回のプレイベント(2025年11月8日)でも演奏をしてくださった稲積亜紀子先生(Primo)と沢田千秋先生(Secondo)の連弾による、ヴァイオリン協奏曲ニ長調(Op. 61)の第1楽章(カール・ゲオルグ・リクル(1801-77)による編曲版)です。輝かしい音色でヴァイオリン独奏の旋律を繊細かつ凛とした響きで奏でながら、重厚な響きでそれを支えるオーケストラのサウンドも見事に再現されたお二人の演奏は、編曲作品が芸術的価値を持つ重要なものであるということを、改めて認識させてくれるものでした。

 

 

 続いては、ピアノ協奏曲第1番ハ長調(Op. 15)第2楽章をヴァイオリンとピアノのためのデュオ作品にした異色の編曲作品です。演奏は、東京都交響楽団第1ヴァイオリン・副首席奏者の吉岡麻貴子さん、沢田先生です。編曲を行ったのはヨハン・バプティスト・フォン・フニアディ(1806/07-65)。彼自身が熱心なアマチュアのヴァイオリニストであったということから、自分で演奏したいという想いもあっての編曲だったと思われます。緩徐楽章ですが、もともとピアノの独奏パートには旋律に装飾的な音型が凝らされており、ヴァイオリンでの演奏ととても相性のいい楽曲です。ヴァイオリンソナタを思わせる親密な雰囲気に満ちた編曲となっており、吉岡さん、沢田先生は旋律と和声の変化を丁寧に感じながら演奏し、楽曲の魅力を引き出していました。

 (後編へ)

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