国立音楽大学

くにおん*Garden

【開催レポート】「くにおん100フェス!」記憶を編む祝祭── DAY1「Ensemble of memories」

国立音楽大学の100周年という節目の年を祝う「くにおん100フェス!」。3日間にわたり、在学生や教員、卒業生がともに音楽を響かせました。4万人を超える卒業生を輩出し、さまざまな形で卒業生や在学生、附属校生、教職員や同調会員、そして地域や社会の方々とのつながりを大切に音楽文化の発展と継承に努めています。今回の記念事業はそれが形となったものといえるでしょう。

「くにおん100フェス!」の第1日目は昼公演「Ensemble of memories」で幕を開けました。会場はサントリーホールブルーローズ。会場に足を踏み入れた瞬間、「くにおん」の長い歴史を支えてきた人々、関わってこられた方々の思いが、柔らかな空気となって漂っているのがわかりました。

国立音楽大学の前身となる「東京高等音楽学院」校舎落成記念会をはじめ、創立50周年や80周年などの記念演奏会を再現した演奏が紡がれていく本公演の最初の演奏曲は1926年の東京高等音楽学院校舎落成記念会の再現。ヘンデル《メサイア》より〈ハレルヤ〉と、モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》から第1楽章です。祝祭の幕開けにもふさわしい楽曲で、若々しい声が力強く響きあう合唱、輝かしい音色が溶け合う弦楽四重奏によって特別な日のはじまりを彩られました。

続いては大学院生によるブラームス《愛の歌》(創立45年周演奏会で第1、6番が演奏されている)からの抜粋です。繊細な恋のやりとりがみずみずしい声と表現で歌われていきました。

タファネルの《木管五重奏曲ト短調》、プーランクの《ホルン、トランペットとトロンボーンのソナタ》(ともに創立50周年演奏会で演奏された)は、様々な楽想が展開し、即興的な感覚も求められる楽曲ですが、繊細かつ丁寧なやりとりによって軽妙さと陰影を鮮やかに描き出した演奏を聴かせてくれました。

80周年記念事業のコンサート・シリーズで演奏されたモーツァルト《アヴェ・ヴェルム・コルプス》が神林紘一の指揮で始まると始まると、会場の空気は一変しました。100年という長い歴史の中で、くにおんが積み重ねてきた「音楽への敬意」が、この曲の響きに託されているかのようでした。これを感じさせてくれたのが附属高校、大学、大学院生と、これからの未来を紡ぐ若い演奏家たちによるものというのは、非常に感慨深いものでした。

休憩明けは小原孝によるピアノ独奏で成田為三の《「浜辺の歌」変奏曲》です。成田は本学の作曲家の教授を務めた人物でありました。この変奏曲は“くにおん”の歴史において重要な楽曲の一つです。本学附属図書館に保管されていたものが初代学長有馬大五郎の遺品から発見されました。そして1984年5月18日に当時の教育音楽学科の教授で、成田の孫弟子であった小山章三らによる学内演奏会で初演されたという経緯があります。このときのピアノも小原でした。多くの人々に愛唱されている楽曲が変奏されて響き渡るのを聴く時間は、特別な体験といえるものでした。

それに続いて、岸信介の指揮、小原孝の伴奏による国立音楽大学100周年記念同調会特別合唱団の合唱が披露されました。「同調会」は母校の発展への支援、会員相互の親睦、そして我が国の音楽文化の振興を行う役割を持ち、“つながり”を大切にする本学を支える重要なものです。その想いが一つとなって歌われた高田三郎《心の四季》より〈風が〉、源田俊一郎《ふるさとの四季》、小原孝《逢えてよかったね》は、楽曲の持つあたたかさと共に、特別な事業を共有できる喜びにあふれた時間が提供されました。

後半は国立音楽大学が誇る「レジェンド」の演奏が続きます。まずは小林道夫(元国立音楽大学大学院教授)によるピアノ独奏でシューベルトの《即興曲 第2番D935-2》 。ピアノからやわらかな歌声を響かせるようなタッチで奏でられる旋律が会場に広がりました。そして大友太郎(国立音楽大学附属中学校・高等学校校長)と五十嵐稔(国立音楽大学附属中学校・高等学校副校長)によるボザ《アリア》、レーガー《ロマンツェ》、そしてシューベルトの《アヴェ・マリア》は、柔らかな旋律が会場の静けさと溶け合い、来場者の心に優しく寄り添うようでした。

最後は大倉由紀枝(元国立音楽大学教授)、武田忠善(前国立音楽大学学長)、梅本実(国立音楽大学学長)によるシューベルトの《岩の上の羊飼い》です。昼公演のテーマを象徴する選曲で、言葉を大切にした歌唱と、声に寄り添うクラリネットの音色、それらを優しく包容しながら、より豊かな響きへと昇華させるピアノの音色が見事に溶け合っています。「アンサンブルのくにおん」と高く評価されている国立音楽大学ならではの精緻なアンサンブルとなりました。

全体を通して、昼公演は「祝祭の華やかさ」はもちろんですが、出演者、観客それぞれのなかにある「記憶」を呼び起こすような構成だったといえるでしょう。クラシックの名曲に日本歌曲、器楽曲──それぞれが異なる表情を持ちながらも、ひとつのテーマに向かって丁寧に編み上げられていました。出演者、来場者、当日会場にいたすべての人々の記憶が奏でられる音楽によって一つとなり、夜公演「Grand Gala」へ向かう祝祭の流れを静かに形づくる様は感動的なものでした。

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