国立音楽大学

音楽徒然草

第26回 「自分の『言葉』を探して....」  小曽根 真 教授

小曽根 真 教授

 国立音大にジャズ専修が生まれてから早1年。ジャズという音楽は殆ど即興で演奏される為に教えるのが難しいのではと言われます。でも「音楽」を毎日話す「言葉」と同じと考えれば「即興」もそんなに難しい事ではなくなるのです。何故ならば日常生活で誰一人「台本」に沿って話している人は居ない。会話の全てがコール&レスポンスで成り立っているからです。読み書きは学校で習えますが、読み書きを覚え始めるまでに殆どの子供達は憎まれ口まで利けるようになっているでしょう。また、言葉に文法があるように音楽にもルールはありますが、その為に即興を怖いと思ってしまうケースも非常に多い。そこで一番大切な事は自意識を捨てて先ず音を出して自分の耳で答を見つけるという事。もう少しわかり易い例え話をするならば、英語がうまくなる人は間違いを恐れないでどんどん人前で話すという事です。

カール・アレン教授 公開レッスン
カール・アレン教授 公開レッスンでのセッション

 さて、僕が初めてクラシックの音楽を人前で演奏したのは2003年の秋。札幌交響楽団の定期演奏会に指揮者の尾高忠明さんが呼んで下さった時でした。以前尾高先生がNHK のラジオで「いつか小曽根くんとラプソディー・イン・ブルーをやってみたい」と仰っていたのを聞いていた僕は、その定期演奏会の出演をすぐに決めました。数ヶ月経ってから演目が気になった僕は「ガーシュウィンだと思うけど、念の為に確認しておいて」とマネージャーに電話をしました。その電話を切って2分も経たない内にマネージャーから電話があり、「あのぅ、演目はモーツァルトですと仰っていて….。あっ、小曽根さんのお好きな番号で結構ですと仰ってました!」と言われた時に僕が凍り付いたのは言うまでもありません。モーツァルトの「モ」の字も知らない僕がクラシックのそんな大切な舞台に立って良いのか?という不安はそれ以来ずっと持っています。でも「僕は僕のやり方で精一杯やるしかない」と決め、真正面からぶつかった本番でオケの皆さんが最高のサポートをして下さった。あの暖かさは今でも忘れられません。

小曽根真教授

それ以後、ベートーベン、バーンスタイン、ショスタコービッチ、ラフマニノフとあり得ない速度でハードルが高くなって来ていますが、新しい曲を覚える度にジャズピアニストの指は鍛えられ、作曲家の小曽根真は「はぁ〜、こんな音があったのか!」と感動するのです。そしてその新しい言葉やその表現方法を体の細胞まで落としこんで次の自分の音楽を創らせて貰うのです。

ジャズ専修の学生たち

  学校の話に戻りますが、ジャズ専修の生徒の中で全く即興の経験がなかった生徒達は僕のアンサンブルのクラスで時々オモシロい音を出しては、しかめっ面をしながらみるみる自分の言葉を見つけては話せるようになっています。流暢に喋る事がすぐに出来なくても、自分の言葉を必死に捜し、作ろうとしています。自分の言葉を話せる様になってジャズの楽しさを早く感じてもらいたいと願っている僕にとってこれほど素晴らしい光景はありません。その姿を見ると僕自身も前進しなくては、とパワーをたくさん貰うのです。そしてこのパワーこそが、我々音楽家がお金を払って見に来て下さるお客さんに少しでも届けなくてはならない音楽の一番大切なものだと僕は信じています。

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