国立音楽大学

音楽徒然草

第24回 「言葉と音に心を澄まして」 清水 康子 教授

清水 康子 教授

 3月の大学では入学試験も終わって入学や新学期を待つ皆さんと、「くにたち」での学びを終えて新しい出発を控えた皆さんが共存しています。そして卒業と修了を記念する大学主催の音楽会がたくさん開かれます。

 昨年は残念ながら大震災でそのほとんどが中止になってしまいました。卒業式もできませんでした。2011年に卒業と修了を迎えることになった先輩たちの胸のうちを思いつつ、今年の準備に全力を傾けている人もいれば、落ち着かない思いで悩んでいる人もいることでしょう。すべての人に与えられるチャンスではありませんから、誇らしくて有難いことなのですが、本番を無事終えるまでは幾つかの山を乗り越えていかなくてはなりません。自分の信じる音楽の力と美を伝えることができますように。

 音大生の強みは、試験や発表会などでのこうした本番の積み重ねにあると私は確信しています。人前で演奏して表現に生命の躍動感や芸術性を醸し出すというのは大変なことです。言葉で考え調べて研究したうえで、自分の頭と身体を使って表現するのは、音の世界。その複雑な構造、響き、形、色彩、質感などを、その場で流れる時間のなかに音の作品として造形、構築していくのですから。文学とフランス語を担当する私は、いつも学生さんたちの豊かな言葉と素晴らしい音楽の力に感心させられてきました。他所では得られない優れた資質を言葉に開花させる学生さんたちに驚くこともたびたびです。

 今年卒業する作曲専修の見澤ゆかりさんと山本哲也さんもそうした学生さんです。一年生のときから同期の仲間で自分たち手作りの作曲作品展を開いて、毎年続けてきました。それぞれが自分の作品を生み出し、その作品について語り、仲間全体の演奏会を実現していく過程にはたくさんの配慮と努力がありました。もちろん演奏面で協力してくれる友人たちの存在も重要です。大ホールで行われる卒業演奏会で発表される作品には、4年間のあらゆる活動の成果と未来への決意が織り込まれていることでしょう。

 大震災から一年を迎えた今、私たちの3月は以前の3月ではありません。ひとりひとりが胸の中に刻み込んだ思いの重さを受け止めて大切に生きていけたらと思います。
 阪上正巳先生が前回の「音楽徒然草」で話してくださったことが、静かに深く心に残っています。

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