国立音楽大学

音楽徒然草

第16回 「発車メロディー」 古川 聡 教授

古川 聡 教授

  私は、高速バス、JR山手線、さらに西武新宿線に乗って大学まで通勤しています。距離にすると片道100キロを越えますから、お弁当を持って毎日がピクニックみたいなものです。でも電車やバスなど乗り物は大好きですから、趣味と実益を兼ねた通勤と言えるかもしれません。

館長室の時計
館長室の時計

 乗り換えのJR高田馬場駅では、発車が近づくとおなじみの『鉄腕アトム』の音楽が軽やかに流れます。発車メロディーです。元気がない朝もこのメロディーを聴くと「今日もがんばるぞ」という気持ちになります。ただ、疲れて帰宅する時には、同じ曲でありながらかえって疲れが倍増してしまうこともあるから不思議ですね。駅ごとにさまざまなメロディーが使われているので、電車に乗っていても寝ている暇はありません。ちなみに、図書館長室の私の机にある置き時計は、山手線の駅名が駅間距離も正しく円周状の文字盤に並び、設定した時間になると指定した駅の発車メロディーが流れる優れものです。でも、これを実際に鳴らしていたら仕事をしていないことが露呈してしまうので、鳴らしたくても鳴らせない状況に陥っているのが今の大きな悩みです。

 発車メロディーは無味乾燥な金属音であったベルの代わりとして、1971年8月に関西の京阪電気鉄道が用いたものの、他の鉄道に広まることはありませんでした。それが1989年3月11日にJR東日本が山手線の新宿駅と渋谷駅で発車メロディーを導入したことで一気に広まり、高田馬場駅の『鉄腕アトム』、蒲田駅の『蒲田行進曲』、舞浜駅の『ディズニー』のように、発車メロディーは私たちの日常生活の中で一般的なものになりました。

 実は鉄道と音楽の結びつきは古いのです。かつてJRが国鉄であった頃、列車が駅に着く頃になると必ず『鉄道唱歌』が流れてから車掌のアナウンスが始まりました。目的の駅に着いてこれから新しい出会いがあるかも知れないという期待、あるいは旅から帰って自宅近くの駅にたどり着いた安堵感、それらの感情をいやおうなく増幅する音楽でした。駅によっては、列車がホームに進入してくる合図として音楽を流しています。また危険を知らせる警笛音も、小田急電鉄のようにメロディーホンに変えた会社もあります。

 音楽が社会に貢献するひとつのエピソードが発車メロディーです。私が利用する西武新宿線では、上井草駅で『翔べ!ガンダム』、狭山市駅で『七夕さま』、本川越駅で『愛の季節』のメロディーが採用されているものの、大学の目の前にある肝心の玉川上水駅は西武鉄道が多くの駅で用いている一般的なチャイムです。玉川上水駅らしいすてきな発車メロディーを提案したいですね。

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