音楽徒然草
第2回 「新入学生のための導入教育『基礎ゼミ』の思わぬ副産物」 神原 雅之 副学長

人の行動は、感動体験に大きな影響を受けます。音楽を探求することは、この感動体験を誘うメカニズムを紐解くことなのかもしれません。
さて、本学の新入学生は入学式を終えてすぐに『基礎ゼミ』(必修)を受講します。オーケストラの演奏やオペラの一場面、室内楽などをユニークな解説付きで鑑賞します。演奏は本学教員を中心とした第一線の演奏家です。この他にも、講演やクラス授業、そして学内施設の見学も--。この音楽漬けの約1週間の中で、学生は新しい仲間と出会い、音楽にどっぷりと浸り、音楽の感動を共にします。音楽に含まれる様々な不思議を共に考え、これから4年間過ごす大学生活の夢を膨らませるのです。
この取り組みは、6年前に始めたものですが、ここで得た感動体験は在学生にも確実に引き継がれています。今回の会場にも新入生に交じって聴講に来る在学生の姿が多く見られました。
こうして音大生のための大学教育導入プログラムとして始めた基礎ゼミは、思わぬところで良い副産物を生んでいることがわかりました。その一つは、この基礎ゼミに参加されている先生方の輪(話・和・環)の強化です。一般的に大人数の教員を抱える大学では、教員同士の連携がうまくとれないところが少なくありません。本学も例外にもれず、以前は専門が異なる先生同士で話をしたことが無いとか、顔と名前が一致しないという声が聞かれていました。が、この基礎ゼミ実施以降、専門領域を超えて全専任教員がチームとなって学生の班に参加し(約30名の学生に教員7~8名が参加します)、共に音楽を聴き、語りあう。こうした機会を通じて、ごく自然に、教員間の穏やかな関係が醸成されていったように思われます。

「共に音楽しようよ」。学生も教員も共に音楽を探求する徒として、音楽的感動を味わいたい。これは本学が伝統的に培ってきた風土そのものだと言えます。時として感動は人の行動に大きなエネルギーを与えます。私たちは音楽にこだわり、音楽を通じて互いに切磋琢磨し、共に成長しよう--これは私たちの先輩から受け継いだ心なのです。この自由な“くにたち”の伝統を大切にしよう。4月に新しい音楽仲間を迎えるたびに、私はいつもこう思うのです。