国立音楽大学

音楽徒然草

第8回 「イタリア・ボローニャの地に『くにたち』の歌が響く」 小林 一男 教授

小林 一男 教授

 今年7月後半、大学院修了生などを中心とした希望者11名を連れてイタリアのオペラ・セミナーに行ってきました。中部イタリア大学都市ボローニャの伝統ある「ボローニャ歌劇場」(Il Teatro Comunale di Bologna)に付属した「イタリア・オペラ研修所」( La Scuola dell’Opera Italiana)という、その名の通りにイタリア・オペラの伝統を守り、継承しながら、現代に通じる正統的な職業オペラ歌手を育てるという、3年前に創設されたばかりの新しい研修所です。

ボローニャ歌劇場
ボローニャ歌劇場

 職業オペラ歌手を育てるとはどのレベルの事を云うのか?今、私が大学院でオペラを教え、そこから巣立ってゆく学生達をみて、あとどういうステップが幾つあるのか?それを確かめたいというのが今回の目的ではありました。

 創設されて3年目、過去2回のオーディションをして今現在、30名ほどの歌手達が在籍していますが、その中に唯一の日本人として、くにたちの卒業生が頑張っています。

森雅史さん
森雅史さん

学部声楽科を卒業し、新国立劇場オペラ研修所を修了した森雅史さんというバス歌手ですが、今回の後輩たちのセミナーには初日から顔を出してくれ、イタリアのオペラ事情から研修所の内容までいろいろなお話をしてくれ、沢山の心強い励ましと助言を頂きました。

セミナーは朝9時半から夜8時まで、声楽とオペラ全曲(スパルティート)のレッスン、俳優術やオペラシーンの演技演習、舞台でのイタリア語の発音術(ディクション)の授業などでびっしりと隙間のない毎日がスタート。そこから2週間、声、オペラの響きの渦の中にどっぷりと全身が浸かりきった生活を全員が体験してゆきました。日本での普段の勉強から比べると何倍も濃縮な時間だったでしょう。

授業風景
授業風景

毎日のレッスンでは素晴らしい講師の先生から貴重な助言を頂き、大事な基本技術の丁寧な反復、その結果から勧められる新しい課題、休み時間や昼食を削ってその予習に励み、次のレッスンに臨む…という毎日。大学と大学院で最低6年以上の勉強で貯めてきたものが、折り返し点の1週間を待たずに底をついてしまいました。予習が間に合わないのです。これには皆、ショックを受けたようです。日本でのペース、アリアや重唱の2、3曲に何週間もかけ、オペラ1曲全部となると勉強した事もない、その必要性も感じない状況では対応できないのは当然でありました。

オペラシーン演習
オペラシーン演習

しかし半面、毎日、毎日、予習をし、発声をし、繰り返し歌う事により、頭でコントロール、歌おうとしていた部分に力が入らなくなり、自分の身体の一番正しくて効率的な、自然な声の出し方、歌い方にだんだんと集約されてきて、皆の身体から余計な力が抜けてゆくのを目の当たりにして、まさに職業歌手の育成機関というこの研修所と、日本での勉強の違いを見ることができました。

コンサート風景
コンサート風景

しかしもちろんそこは我がくにたちの伝統の声楽を担う学生達、声を壊したり発声を崩す人も一人もなく、セミナー後半に入ると、日に日に講師の先生方の評価が上がってゆき、興味を持った森さんの同僚の研修所の歌手達が続々、見学に来るようになっていきました。そして全てを成し終えた最終日、イタリア人のお客様を前にしてのコンサート、一人ひとりが個性豊かに熱演に次ぐ熱演。まさにくにたちの声、ここにあり!というステージに、満員のお客様から長い間、ブラーヴィ!の声が掛っていました。

修了証を手に
修了証を手に

こうしてここに着実に、「くにたち」で蒔かれ育まれた種に新しい栄養が与えられ、まさに芽を出し、花を咲かせるべく準備に入ったという事を皆様に報告し、今後は、今回参加した一人ひとりの近い将来に注目してゆこうと思います。

森さんとM.デヴィア氏
森さんとM.デヴィア氏

追伸:)
早速のうれしいお知らせです。ボローニャ研修所のバス・森雅史さんは、10月12日にボローニャ歌劇場公演のオペラ「椿姫」(ヴィオレッタ役:M.デヴィア)グレンヴィル役にてヨーロッパ・デビューを飾りました。またセミナー参加者であったバリトン・村松恒矢君が、新国立劇場オペラ研修所に合格いたしました。

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