ウィーン国際音楽ゼミナール(オーストリア・ウィーン)
島根 和奏 4年 演奏・創作学科 弦管打楽器専修(ヴァイオリン)
研修概要
研修機関:ウィーン国立音楽大学
研修期間:2017年7月31日~8月11日
担当講師:エドワード・ツェンコフスキー教授
研修目的
- クラシック音楽の本場を知る。
- 世界の音楽事情を知る。
- ヴァイオリンの曲における王道の作品をご指導いただき、より一層レパートリーを増やす。
- 音楽の都と呼ばれるウィーンとプラハの空気を体感し、演奏表現において視野を広げる。
- ほかの受講生との交流を積極的に行う。また、日頃受講している外国語の授業の成果を活かし、レッスンや現地の生活で使っていく。
- 今回の研修を活かし、さらなる技術力と表現力の向上を目指す。
研修内容
ウィーン国際音楽ゼミナールは7月から9月にかけて個人レッスンを中心とした約10日前後の講習が合計5回、ウィーン国立音楽大学で行われる。私が参加したⅡ期は7月31日から8月11日までの12日間だった。
期間内にシューベルト記念館や大学内での参加者コンサートに加え、コンクールや受賞者コンサートなどの演奏機会も与えられる。講習会初日と3日目には教授陣によるコンサートも開催された。また、ウィーン国立音楽大学の入試対策講座も開かれる。
個人レッスンは基本的に1時間のレッスンを計4回受けられるが、クラスによっては毎日レッスンが行われるところもあった。初日と最終日にはパーティーもあり、他大学の人や各国の参加者、先生方との交流が楽しめる。
私が師事したツェンコフスキー教授はポーランド出身。元ベルリンフィルハーモニックオーケストラのコンサートマスターで、現在はウィーン国立音楽大学で教えている。レッスンではドイツ語か英語を使い、私は通訳をつけた。
Ⅱ期のヴァイオリンクラスはツェンコフスキー教授のみで9人が受講していた。日本人が最も多く、他には台湾や欧米から参加している人もいた。
レッスンの日程は講習会初日に各クラスで教授と生徒同士相談して決め、初日からレッスンが行われるクラスも多かった。
第1回目レッスン(7月31日)
初回のレッスンでは、バッハ作曲無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番シャコンヌを見て頂いた。約15分にも及ぶ大曲なので、2回に分けてレッスンが行われた。
この曲はリサイタルなどで最も多く演奏される曲の一つで、技術的にも表現力においてもヴァイオリニストにとって大変重要な曲である。
初回のレッスンでは、主に右手の癖とビブラートのかけ方、曲の流れについて指摘された。教授はとてもパワフルな方で、ビブラートのかけ方においても全身を使って教えてくださる。また教授の指摘はとても明確で、おっしゃる通りに演奏すると以前より格段に良い響きを作ることができた。
この曲は学生のレッスンの聴講や自分自身受けたレッスンの印象としては、淡々と各々の変奏をしていくように解釈していた。しかし前半と後半にある最大の頂点を迎えるテーマに向けて、全ての変奏の響きを充実させなければならない。一つとして意志のない細い音を出してはならないという事を強く思わされた。
第2回目レッスン(8月3日)
前回に続く後半を見ていただいた。バッハが教会のオルガン奏者であったことから、この曲の演奏においてもオルガンのような演奏が必然になる。特に後半、ニ短調からニ長調に転調した箇所はオルガンの響きをヴァイオリンで最大限に引き出さなければならない。私自身、大聖堂のオルガンを聞いたことがなかったのでこの曲の後半はとても苦労していた。(しかしこの研修期間中に教会での演奏を何度も聞くことができた。)
ビブラートのかけ方と弓にかける重さのみでこの問題を解決できる事を教えて頂いた。ビブラートは細かく早く、弓に人差し指に重心をかける。バッハの作品ではビブラートは少なめでふり幅は小さい奏法で演奏してきたので、新たな解釈をご指導いただきとても勉強になった。
また、このレッスンに講習会で仲良くなった友人達が私のレッスンの聴講に来ていた。ギャラリーが多い中のレッスンは緊張したが、大学や専攻の垣根を越えてこのような交流はとても刺激になり、お互いを高めあう素晴らしい関係だと思った。
第3回目レッスン(8月7日)
3回目のレッスンではブラームスのヴァイオリンソナタ第3番第1楽章を見て頂いた。ブラームスは最も好きな作曲家の一人で、特に彼の晩年の作品をとても魅力的に感じていた。このような講習会でヴァイオリンソナタをレッスンして頂いた事がないこと、それから12月にこの曲で本番を控えている事が選曲理由である。
まず教授からホールでの演奏を前提にボーイングやフィンガリングの見直しを勧められた。広い舞台で演奏するには少し音量が足りないので、ボーイングを増やしたりビブラートのかけ方を変えたりするのである。ツェンコフスキー教授はこの曲を演奏する機会が多くとても熱心に研究をされていて、フィンガリングやボーイング、演奏法にとても強いこだわりがあるようだった。
ブラームスを弾くために必要なものとして、日本人の私がわかりやすくユーモアたっぷりな表現で次のように教えてくださった。「しゃぶしゃぶ」だったり「神戸牛」、肉汁溢れる高級肉のような充実した熱く煮えたぎるようなものである。
このレッスンの終わりに「明日、大学に来るように」と言われたので次の日も伺うと、なんと教授が研究なさったフィンガリングやボーイングなどの書き込みがたくさんある楽譜の写しを私にプレゼントしてくださった。そして、二日後に迫る参加者コンサートに出演する機会をくださった。門下生でない私にこのような貴重なものを頂けるとはとても嬉しい気持ちで、一層精進しなくてはならないと改めて思った。
第4回目レッスン(8月9日)
最後のレッスンでは、前回に続いてブラームスのヴァイオリンソナタ3番の2楽章を見て頂いた。2楽章はまさにブラームスの晩年らしい楽章である。円熟した表現力を問われるため、まだ人生経験の乏しい学生が演奏するには大変困難だ。
前回と同様にボーイングを勧められた。落ち着いた曲調なので、そのように演奏すればいいと思っていた。しかし、中身は熱いものが込められているからただ静かな表情のみで演奏してはならないと教えて頂いた。それを表現するには、左手のビブラートのかけ方と右手の弓の使い方をよく研究しなければならない。それから人生経験を積まなければ分からないことも多いと、教授は笑いながら教えてくださった。数十年後の自分の演奏したブラームスはどのようなものか。怖いものもあるがとても楽しみだ。
そして次の日に控えている参加者コンサートに向けて1楽章も見て頂いた。頂いた楽譜の写しを参考にしたので、それを基に主に右手の使い方を細かく教えてくださった。
2回に渡ってブラームスのヴァイオリンソナタのレッスンを受けて、ホールでの演奏を前提にした楽器の鳴らし方やソナタの表現方法等、無伴奏曲や協奏曲とは違った奏法を学ぶことができた。今までヴァイオリンソナタを演奏する機会が少なかったが、大学卒業が見えてきた今こそ表現力の求められるソナタをよく学ぶべきだと思った。
参加者コンサート(8月10日)
教授の推薦があった講習会参加者が出演する参加者コンサートは、ウィーン国立音楽大学のオーケストラスタジオで開かれた。ヴァイオリンクラスからは3人選ばれた。私以外の2人も日本人だった。他の楽器の演奏を聴くことはとても勉強になり、日本や世界の演奏レベルを知ることができた。中学から「くにたち」で育ってきた私にとって他大学の学生の演奏はいつも刺激的で、自分の足りないところが明確に見えてくる。
と同時に自分の強みも知ることができるので、今後の演奏に生かしていけるのである。
今回のコンサートの演奏は自分の表現力を充分に発揮出来ず、次回に向けて課題が残った。しかし実際本番で人前に立って演奏すると、ボーイングやフィンガリングの具体的なアイデアが出てきたのでとても良い機会だったし、12月にある本番に向けて一歩足掛かりになったように思う。本番を経験することはその場限りのものではなく、次に向けて決してその糧を無駄にしてはならないことを実感した。
研修を終えて
4回にわたって2曲をツェンコフスキー教授にレッスンを受けて特に印象的だったのが、どの曲も幅広い表現を求められた点である。そして自分が考えているよりも更に強く主張しなければならないこともわかった。それもただフォルテや鋭い音ではなく、右手と左手の使い方で思った表現がいくらでもできるし、静かな箇所でも表現を明示できる。まずはビブラートを意識して細かくかけるだけでも変わるので、特に日頃から行っていきたい。
ツェンコフスキー教授のほかの受講生のレッスンも聴講したが、協奏曲や小品を演奏している生徒もいた。協奏曲においては正確なリズムをよく理解した上でルバートをするべきであること、小品では技巧的な点を特によく指導されていた。また最初に通して演奏したときに教授が受けた具体的な感想もわかりやすく、客観的に自分の演奏がみられるのである。
教授がとても明るくパワフルでユーモアあふれる方だったので、レッスンはいつも楽しく受けられた。一方、真面目で真剣に一生懸命教えてくださるので常に良い緊張感もあった。日本人の先生とは違った演奏方法を教わることができ、より一層表現の幅が増えるように今後更に頑張っていきたい。
永峰高志先生のコメント
本学4年演奏・創作学科 弦管打楽器専修 ヴァイオリン専攻の島根和奏さんは2017年7月31日~8月11日の期間、ウィーン国立音楽ゼミナールに参加しエドワード・ツェンコフスキー教授のレッスンを受けました。
今回研修の目的は「クラシック音楽の本場を知る」「世界の音楽事情を知る」「ヴァイオリンの曲における王道の作品の指導を受けレパートリーを増やす」「音楽の都ウィーン、プラハで過ごし演奏表現の視野を広げる」「他の受講生と積極的に交流し、外国語を現地の生活で使用し普段の外国語の授業の成果を問う」「今回の研修を活かしさらなる技術力と表現力の向上を目指す」というものでした。
ツェンコフスキー教授による、技術的にも音楽的にも具体的でパワフルかつユーモアを交えたレッスンで島根さんは多くのものを吸収し深い薫陶を受けました。また本人がたてた研修の目的も概ね達成できた模様です。
今後は今回吸収したものを消化し如何に自分のものにできるかどうかが課題だと思います。
学生生活もあと半年残すのみで、オーケストラ定期演奏会ではブラームスの交響曲第2番のコンサートマスターとして出演します。今回ウィーンでの研修の成果を発揮されるのを楽しみにしています。