ウィーン・ムジークセミナー(オーストリア・ウィーン)
三重野 弘奈 4年 演奏・創作学科 声楽専修
研修概要
研修機関:ウィーン・ムジークセミナー
研修期間:2017年8月16日~8月25日
担当講師:ゾーナ・ガザリアン教授
研修目的
今回のセミナーではさらに歌唱技術を向上させるとともに、将来に向けて自分の課題を新たに発見し、曲の魅力や素晴らしさを、聴いている人に伝えることのできる表現力を身につけたい。今の私にはその音楽が何を伝えたいのかを的確に表現できることのできる技術をさらに向上させたい。また私は将来海外で勉強したいと思っている。そのためにも自分が海外で勉強していく上で何が必要なのか、今の自分に足りないことが何なのかをしっかりと吟味していきたい。
研修内容
レッスンはウィーン国立音楽大学内の広い部屋で行われた。レッスンは10:30もしくは11:00から15:00まで行われ、その中の45分間が一人分のレッスン時間であった。
レッスン1回目
この日はシューベルト作曲の「An Silvia」とモーツァルト作曲「Alma grande e nobil core」をレッスンでみていただいた。
「An Silvia」は有節歌曲なので旋律は変化することがない。そのため旋律的に難解な箇所はあまりないが、だからこそ歌詞をよく理解し、それを聴いている人に伝わるように表現しなければならない。一度歌い終えたあと、先生から「それでは聴いている人に伝わらない、もっと3番まであるうちに変化をつけなければお客さんは退屈してしまう、もう一度どこをどう表現したいのかよく考えて」と言われた。自分では表現しているつもりだったが、人に何かを伝えるには自分の思っている以上に自分の中に伝えたいものをはっきりもっておかなければならないと改めて感じた。
「Alma grande e nobil core」についてはいいところまでいっているがあと一歩足りないとのことだった。途中曲が大きく変化する場面があるが、そこはまったく別の人物になりきるぐらいの変化をしなければならなかった。オーバーな手のアクションは必要ないが、自分が詞を解釈し、自然とでてきたものならば表現してもかまわない、むしろしなければお客さんに届かないという指摘があった。
その後自分なりに歌詞をもう一度読み直し、なぜこのような曲調になるのか、同じ言葉を繰り返しているが本当に同じ気持ちなのか、何を思ってその言葉がでてきたのか、などをより深く考え、感じる努力をした。そうすると同じ言葉でもその言葉が伝えたかった思いがわかったような気がした。そしてそれがお客さんにも伝わるよう鏡の前で歌わずに歌詞を読み、表情がどうなっているのか、どうすれば伝わるのかも研究した。
レッスン2回目
自分で感じたことが表示されているか、それが聴いている人に伝わるか、一回目と同じ曲をもう一度レッスンでみていただいた。すると先生から「Alma grande e nobil core」は前よりもずっと良くなっている!同じ言葉もちゃんとそれぞれ表現されていたし、後半の音楽が変わるところもよく表現できている!と言っていただくことができた。しかし高音のG,Aの時にはしっかりその音をだす準備をもっと意識して行ったほうがよいとのことだった。「An Silvia」もちゃんと3番とも変化があって歌詞の意味を聞いていて理解することができたと言っていただけた。しかしドイツ語の「U」の長母音は自分が思っているよりももっと口をすぼめ、長く伸ばさなければいけないという指摘もあった。
この日は他にヴォルフ作曲の「Der Knabe und das Immlein」をみていただいた。この曲も途中音楽が変化するところはもっと快活にとのことだった。しかし快活にしようと思うとどうしても自分の気持ちと一緒に声のポジションも動いてしまうのだが、そうするとどうしても慌ただしくなってしまう。だから快活だけれども、慌てないで歌えるようにすることが重要だといわれた。またこの曲でも「A」は高い音だからしっかりと準備をして意識してから歌うよう指摘があった。
レッスン3回目
レッスンではヴォルフ作曲の「Der Knabe und das Immlein」とロッシーニ作曲「Una voce poco fa」そしてシューベルト作曲「Im früling」を歌った。
この日はこれから自分が進んでいくのに、自分の声域がソプラノなのか、メゾソプラノなのかどちらがあっているのかがわからず迷っていたので先生に相談してみた。すると中音域が表情豊かに今響いているので、せっかく中音域がでるのであれば、メゾの方がこれからたくさん歌える機会があると言っていただけた。しかしメゾというのは高い音が出る出ないではなくもともと持っている声質の話であって、もちろん高い音もしっかり歌えるようにしとかなければいけないので、高音も歌えるとともに、中音域もより豊かにしていかなければならないという新たな課題を発見できた。
レッスン4回目
「Der Knabe und das Immlein」、「Im früling」、「Vado ma dove」この3曲を中心にみていただいた。3回目で声の方向性がわかってきたことで、今まではどうしても高音域に意識が向いていたが、中音域も自分の今持っているものでしっかり響かせなければならないということに気がつくことができた。もともと中音域は意識をしなくてもでていたので、改めて響かせようと意識したことはなかったが、意識することでより曲の表現の幅も増えると感じた。また先生から「あなたはドイツ語の歌詞をちゃんとお客さんに伝えることが出来る。そして歌詞をお客さんと共有することが出来る。その中音域の響きがより豊かでその温かい声で歌えるようになれば、もっと良くなっていくし、リートをきちんと伝えることの出来る歌い手になるだろう」ともいっていただけた。
レッスン5回目
この日は明日のコンサートで歌うことになった「An Silvia」と「Der Knabe und das Immlein」をレッスンで歌った。
その際に先生から、口の奥を開けることを意識して、そしてブレスも自分の解釈として意味があるブレスであれば急がずに時間をかけて、とのことだった。確かに今までブレスはテンポ通りにと思っていたが歌詞の内容にそった解釈としてのブレスとも捉えることが出来る。そしてそれも表現のひとつなのだと気が付くことができた。
コンサートは17:30から大学内のオーケストラスタジオで行われた。現地でドイツ語の曲を歌うというのは自分のドイツ語がちゃんと伝わるのかというような日本とはまた違った緊張感があった。しかし歌い終わってから「ブラボー」という言葉をいただけたこと、聴いていた人から「あの曲好きになった」「感動した」という言葉をかけていただいた時、自分の音楽をしっかり伝えることが出来たのだなと感じることができた。しかしこれで満足するのではなく、もっと体から、全部を使って声をだす、音楽を表現しなければならないとも思った。
レッスン6回目
この日はセミナー最終日、一人一曲歌うということで、「Cosi fan tutte」の“E amore un ladroncello”を歌った。
レッスンで先生からはこの曲でも、もっとブレスに時間をかけること、そして中音域では自分にある音をちゃんとこれだけできるとお客さんにアピールすること、そして最後に音楽は自由であり、歌う喜びを感じてステージに立って、とのことだった。
研修を終えて
二週間という期間だったが、あっという間に過ぎてしまった。しかし毎回のレッスンでたくさんのことを学ぶことができた。自分の声について、そして音楽をするということ、歌を歌うということについて深く感じることができたと思う。ここで感じたこと学んだことを残りの大学生活の中にいかし、課題に取り組みながら日々努力を続けていきたい。
長島剛子先生のコメント
三重野弘奈さんはウィーン・ムジークセミナーでゾーナ・ガザリアン教授に約10日間の間に6回のレッスンを受け、多くのことを学んだようです。毎回のレッスンで先生からアドバイスを頂き、そのことを自分なりに考え反芻して次のレッスンに臨み、また更に次の段階のアドバイスをもらうということを繰り返し、歌を歌うことに関して集中して深く考えることが出来た10日間ではなかったでしょうか。報告書の中には専ら自分のレッスンの事だけで、他の受講生のレッスンの様子が書かれていなかったのが残念ですが、恐らく自分自身の課題の克服に精一杯だったのでしょうね。他の同年代の受講生のレッスンを聴講することからも多くのことを学んだのではないかと想像しています。
研修の目的に挙げていた「歌唱技術を向上させ、将来に向けて自分の課題を発見し、曲の魅力を伝えるための表現力を身に付ける」ということはこれからもずっと継続して追い求めていかなければならない大切なことだと思います。今回のセミナーでの経験がそのことに活かされることを期待しています。