サレルノ夏期国際音楽講習会(イタリア、サレルノ、カーヴァ・デ・ティッレーニ)
岡田 優芽 3年 演奏・創作学科 声楽専修
研修概要
研修機関 : サレルノ夏期国際音楽講習会(Corsi Internazionali di Perfezionamento Musicale)
研修期間 : 2017年8月22日~8月31日
担当講師 : エンツォ・ディ・マッテオ教授(M°Enzo di Matteo )
研修目的
わたしはこの研修に二つの目的を持っている。一つ目はベルカント唱法を少しでも身につけて来ること。ベルカント唱法の生まれたまさにその場所で、イタリア語を話して“生きている”人たちからどのような音楽が生まれるのか、また何故わたしの音楽と彼らの音楽は違うのかを、言葉・生活・文化・身体などの様々な面から、まず自分をしっかりと見つめた上で、彼らからたっぷりと技術を盗んで来たい。そしてもう一つは、彼らにはあってわたしたちには無い良さというものを見つけて吸収してくることだ。わたしは自分に対して、自分の考えをしっかりと自覚してそれを相手に伝えることや、自分の本当の気持ちを知って相手の思いを感じる、などという『生きる力』というものが足りないように感じている。イタリアに居るんだ、という喜びを噛み締めながら五感を研ぎ澄ませて、何か自分の糧となるものを沢山得たいと思う。
研修内容
《 講習会について 》
◎Don Bosco 校というCava de’ Tirreni の小学校の教室をレッスン室として利用して行われる。わたしの宿泊したホテルの道を挟んで隣、徒歩1分。
◎わたしの様に勉強の為だけでなく、ヴァカンスの一環で、演奏して・勉強して・休むためにこの講習会に参加する人もいるので、日ごとのレッスンの時間や参加不参加は随意的であった。
◎一人当たりの1日のレッスンの時間は大体20~40分。9:00~12:45、16:00~18:00頃までという流れ。
8/22(火) 講習会初日
◎午前中に受講料を納めに講習会の事務局に行き、簡単に講習会の説明を受けたりした。わたしはconcerto の日にちを講習会最終日の31日と把握していたので「concerto は28日だよ」と言われて何かがおかしい事に気がついた。なんと講習会はこの日から始まり、16時からレッスンがあるとのことだった。講習会の日にちを生徒に伝えず勝手に変えてしまう辺り…イタリア人はすごい。講習会期間が延びたし、早めにCavaに来ていて良かった、ということで講習会が始まった。
◎レッスンがどの様な感じなのか分からなかったので様子見で早く行ったところ、案の定16時丁度に来る人はおらずわたしと先生だけ、当然レッスントップバッターとなった。
◎初日はvocalise(発声)を中心にやってどんな声なのかを見て頂き、そしてこの講習会で勉強する曲、つまりconcerto で歌う曲を決めつつ、今まで歌ったアリアを見て頂くという流れであった。
- vocalise 。最初に“A母音”で歌ったが、A母音だと響きが浅くmaschera (頬骨や顔の表面)に当たらない薄い声になってしまうから、全て“O母音”でやる。O母音にすることでよりmaschera 上でのポジションを高い位置(頬骨)で保つ。
- 声が奥に引っ込み、クリアではない喉を使った声にならないように、常に外に出すこと・遠くに向かって届けることを意識する。
- まず最初にmozart、Don Giovanniからrecitativo とNon mi dir。次にBellini 、I Capuleti e I Montecchiからrecitativo とOh! Quanteを見て頂いた。 vocaliseで言われた事を意識して歌うも時々薄く平たい響きになったり、遠くに届けるという事を指摘される。
- 2曲の中ではヒットせず、また翌日に他のアリアを見て頂く事になりレッスン終了
8/23(水) 講習会2日目
◎午前の部9:00~12:45。やっぱり1番乗りでレッスンを受けた。
◎午前中が終わった後にみんなでお昼ごはんを食べに行ったが、途中で具合が悪くなり嘔吐してしまったためホテルに戻り休んだ。午後のレッスンは休ませてもらった。
- vocaliseは昨日のO母音に加えて、「MIO」の“M”で更にポジションを意識できるように取り組んだ。少しずつ外に飛ばす感覚を覚えてきて、レガートが安定するようになってきた。
- 昨日の復習としてNon mi dirのアリアのみを歌い、次に近頃はほとんど練習をしていなかったので不安だったがLa BohèmeのMi chiamano Mimì を見て頂いた。するとヒットしたらしく「concerto ではMimì を歌いなさい」と言われた。この曲は高校生の時からよく聴きいつか歌いたいと練習していて、身体に入っていたことが良かったのかもしれない。改めて暗譜の必要性を感じた。もう一曲Händel のGiulio CesareからVadro pupille を歌うもヒットせず。翌日に持越し。
8/24(木) 講習会3日目
◎大事をとって午前中のレッスンは休む。体調も戻り、遅れを取り戻すために15時頃から学校で練習をして16:30からのレッスンに参加。
◎レッスン後は一度ジェラートを食べに学校を出て、また戻って20時まで練習。
- 引き続き、O母音で口の奥を縦に開けて、喉を楽にゆったりとさせて自然な状態で歌えるようにvocaliseに取り組む。そして遠くに届けることを身体に染み込ませようとした。
- concerto で演奏すると決まったMi chiamano Mimì から。響きの浅い母音をいくつか指摘されて、acuto 部分を遠くに遠くに届けることを教えて頂く。続いてMimì のもう一つのアリアを聴かせて欲しいと、Donde lietaを歌う。
- 他にも見せてと言われ、GounodのJe veux vivre 、Donizetti,LitaよりÈ lindo e civettin~を見て頂くがこの日も2曲目は決まらなかった。
- レッスン後に今まで取り組んだアリアのリストを見て頂いて、Madama Butterfly のUn bel dì, vedremo を新しく勉強してくる事に。楽譜は友だちにコピーさせて貰い手に入れた。
8/25(金) 講習会4日目
◎10:00~12:45、16:00~18:00過ぎまで
◎新譜の練習が足りなかったので練習をしてからレッスンに参加。
◎この講習会が開催のピアニストのコンサートが21時からあったので、20:30に集合してバスに乗って聴きに行った。
- acuto で逃げて奥に引っ込まず、喉を自由に外に出す
- Mimì から。続いてUn bel dì, vedremo を見せる。「本当に昨日譜読みをしたの?」「バタフライの色が見れた」と言って頂けた。まずは頬骨ポジション、そして遠くに。
8/26(土) 講習会5日目
◎9:30~12:30、16:00~17:30
◎7:30起床、練習をしてから11時頃にレッスンに参加したが、午前中には順番は周って来ず、午後のレッスンになった。
◎レッスン終了後一度ジェラートを買いに学校を出て、戻って翌日のconcerto に備えて練習をした。
- vocaliseで安定してO母音で出来るようになってきて、acuto の際のポジションと遠くに届ける身体の使い方を掴めたようだった。午後のレッスンだったので、喉が温まっていたのもあるかもしれない。
- 「明日はMimì 、明後日は他のアリアも、何が歌いたい?」聴かれ、一昨日音をとった蝶々さんを歌うのは不安だったのでNon mi dirと答えたが、Non mi dirはもっと勉強する必要がある、Un bel dì, vedremo はMimì と同じぐらいの出来きだ、とマエストロは仰った。concerto ではこの2曲をやる事になった。
8/27(金) 講習会6日目 Concerto aperitivo
◎この日は11:30からのConcerto aperitivo で歌った。concerto の前のconcerto といったもので、歌が3人、ピアノが2人、チェロが3人とヴァイオリンが2人の少人数のconcerto で、街の中心街の近くにあるPalazzo di città (市庁舎)で行われた。
◎1人1曲ずつで、わたしはMi chiamano Mimì を歌った。
◎9時からレッスンでvocaliseを見て頂き、一度軽く歌ってから本番に臨んだ。
◎concerto 終了後にみんなで昼食を食べに行った後、なぜかかなり疲れたので一度休みにホテルに戻り、18時頃から学校で翌日のconcerto に備えて練習をした。
- 本番は変に緊張せずに伸び伸びと歌う事が出来た。拍手やcomprimenti など温かいお声を沢山かけて頂けて、手を握って話しかけて下さったりとても嬉しくて、逆にわたしが力を頂いた。だが、練習の時にしなかった間違えをしたりacuto が散々で、全く曲にそぐわない様な部分もあり、納得のいく演奏ではなかった。幸いもう一回本番がある。聴いてくださった方のお気持ちに感謝して翌日の本番も頑張ろうと思った。
8/28(土) 講習会7日目 Concerto lirico
◎講習会の修了コンサートが19時から行われた。会場は学校から少し離れた屋外のステージ。歌のコース生ほとんどがこの日出演した。
◎レッスンは午前中のみで10:00~12:45まで。わたしは練習をして11時から参加。
◎調子が良かったので昼食後も寝ずに、学校で少し歌ってから、みんなと噴水の前で待ち合わせをして会場に向かった。
◎concerto 終了後マエストロと全員で夕食を食べにに行って、ジェラートを食べた。
- 声も温まっていてacuto の調子は良かった。しかし、この日初めて本番に乗せたUn bel dì, vedremo は身体に入りきっていない事は承知だが、2曲とも詰めが甘く、不発な演奏になってしまったと思う。だが本番2日間を通して感じたのがお客様の拍手や反応がとても素直で、自分自身も舞台にのると自由に解放される様な感じがしてとても気持ち良く歌えたということだ。短い時間であったが、温かく受け入れて下さり、わたしを変えて下さったお客様と先生方みんなに感謝をしたい。
8/29(日) 講習会8日目
◎8/31講習会の最終日がDon Pasquale の本番の日で、マエストロと門下生たちもみんな稽古に関わっているため、講習会は実質昨日で終了。この日は朝から稽古があったのでそれを見学しに行った。午後からはフェリーに乗ってPositanoと Amalfi を訪れた。
8/30(月) 講習会9日目 concerto
◎様々な楽器の演奏者が出演するconcerto 。30人近く出演者がいたので19時から24時頃まで行われていた。歌は私だけで、ソロだけでなくカルテットなど盛りだくさん。色んな人と話せて楽しかったし、みんなの演奏を聴いてとても充実した日だった。
◎当初は出演する予定では無く、このconcerto がある事自体知らなかったのだが、この日の朝に日程を訪ねに事務局に行ったところ「今晩歌いたい?」と聞かれて、二つ返事で出演が決まり、歌わせて頂けることになった。◎concerto 終了後は伴奏の先生と、仲良くなった運営委員の夫婦と何人かで打ち上げをし、夜中12時から小さめのタイヤぐらいのナポリピザを食べて2時まで語らった。
- マエストロは翌日のDon Pasquale 本番の稽古のためレッスンをして頂くことは出来なかったので、夕方に軽めに練習をしてから会場に向かった。
- リハーサルは気合いが入って少し緊張していたことと、時間が短くて全て通せなかったことから焦ってしまい、高音が出なかったりひどい出来であったが、友だちや伴奏の先生に励ましてもらい本番を迎える。
- この日が一番まとまりが良かったように感じる。だが、まだまだ勉強が足りていない。どんな状況でも常に落ち着いてベストを尽くすという難しさを改めて感じた。
8/31(火) 講習会最終日 Don Pasquale鑑賞
◎夜のドンパスまで時間があったので、午前中からまだ訪れていなかったサレルノの街を散策した。
◎21時開演との予定であったが30分押しで開始。これはもうお馴染み。
◎素晴らしいの一言であった。字幕はもちろん無いのだが、彼らが何を言っているのか音楽が何を伝えたいのがが良く分かって、感動した。これ程言葉と感情がリンクしているものをわたしは初めて見た。普段使って、共に生きている言葉で歌うというのはこれ程までに違うのかと唖然であった。
研修中の生活
◎Cava de’ Tirreni は必要なものを購入できるお店はもちろん、レストランやバール、ジェラテリアも充実、ショッピングも楽しめ、銀行や携帯ショップもほとんど揃っていて、最初来た時は想像と違い驚いた。アウトレットモールのような雰囲気といおうか。この街はヴァカンスでAmalfiやSalerno を訪れる人たちが寝泊まりをするためにやって来ることが多いらしく、夜中まで街は賑わっていた。
◎食事は、朝食はホテルに付いているのでそれを利用したり、時間がない時は部屋で済ませた。昼食はみんなで講習会割引のあるレストランに行ったりもしたが、節約のためにスーパーでプラスチックの皿とカトラリーを用意し、葉野菜・トマト・モッツァレラ・プロシュート・パンやオレンジジュースなどを買って部屋で食べたりしていた。夕食も同様。
◎洗濯は部屋で手洗いをして、洗濯ロープを使って干していた。空気が乾いてサラサラしているので朝干したら夜までには乾いていたので、干した直後に床がビチョビチョになる以外は困らなかった。
研修を終えて
今回が初めての海外で、単独でのイタリア短期留学であった。初めて見るものしか無く分からないことだらけ、常にイタリア語に囲まれている状態で、心臓が持つか心配になるほど胸がドキドキ、幸せで一杯の毎日だった。心は元気モリモリであったが、やはり身体は正直で知らずしらずのうちに疲れ果ててしまい体調を崩してしまったりもした。しかしいつも元気で、心優しく、愛に溢れたイタリア人たちや同じ講習会を受けた先輩など、周りの人が温かく受け入れてくださらなければ、今回のこの研修は有り得なかったと思う。レッスン中もわたしが分からない言葉があれば分かりやすく言い直してくれたり、分かるまで話をしてくれたり常に気遣ってくれ、彼らのおかげで語学力はもちろん、生きていくのに必要な力を得る事が出来た。この夏にわたしは沢山の宝物を見つける事が出来たと思う。
最後に、この様なチャンスを与えてくださった先生方、温かく見守って下さった秋山先生、イタリア語研究室の先生方、いつもお世話になっていた学生支援課の皆様、心からの感謝を込めて、お礼申し上げます。
久保田真澄先生のコメント
今回の講習会では滞在先から徒歩1分の小学校の教室をレッスン室として使い、1人当たり1日20分~40分のレッスンを受講とのこと。現地についてからコンサートの日程に変更があったことを知らされたようだが、これもイタリアらしさかもしれない。
まずは発声練習から始まり、コンサートに歌う曲を決めることもありいろいろな曲を聴いていただいた。響きの位置、母音の広さなどの違いを肌で感じ課題をもって毎日のレッスンに励むことができ、研修中に3回のコンサートに出演する機会をもらったようです。
講習中に体調を崩したこともあったようだが、人の優しさを感じることができ本人にとってはプラスの出来事だったのではないだろうか。
初めての海外生活だったが、イタリア語でのコミュニケーションはまだ完璧とは言えなかっただろうが、人の心を感じ自分の意思も伝え、一生懸命行動したことは本人にとって大きな自信になったようだ。
この経験を糧にこれからの学生生活により積極的になってくれることを期待している。