カウスティネン民俗音楽祭(フィンランド・カウスティネン)
松村 麻由 4年 演奏・創作学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:カウスティネン民俗音楽祭
研修期間:2017年7月10日~7月13日
研修目的
現在音楽学コースに在籍しており、来年度に提出する卒業論文でフィンランドの楽器や伝承そのものが現代においてどのように行われているかを、研究テーマとしている。
研修目的として、
- 民俗音楽に実地に触れて理解を深め、どのように伝承されているかを調査し、今後の研究につなげること
- 音楽祭で中心的に活動しているペリマンニという伝統的な楽師の実態を知り、接触すること
- 北欧の民族音楽についての資料が少ないため、現地での見聞と体験を1次資料とする
ことが挙げられる。
研修内容
私は4日間カウスティネン民俗音楽祭に参加し、実地調査を行った。
この音楽祭ではフィンランドのペリマンニという伝統的な楽師が主体となっている。
音楽祭はだいたい午前10時から様々な団体が演奏、ワークショップを行い、深夜に至るまで様々なプログラムが用意されていた。(白夜で明るいとはいえ、異郷の深夜に単独行動することは安全が保障できないと判断したため、深夜のプログラム参加は避けた)
音楽祭初日である7月10日は入場料が無料であったため、参加者は多かったように感じられた。カウスティネンに伝手など一切ないため、参加者や出演者の何人かから話をうかがい、また売店や現地のミュージックショップでさまざまな書籍、楽譜、録音資料などを購入した。
初日は一般への普及を目的としているためか、オープニングの祝祭的なプログラムが多く、研究対象となるものはやや少なかったように感じたが、子どもからお年寄りまで音楽を楽しみ、参加する様子が見られた。
音楽祭2日目はダンスのワークショップに参加し、ペリマンニの人々に話を聞いた。ペリマンニの男性はPelimanniの語源はスウェーデンのSpelmanが語源であることや、結婚式などの行事のダンスの伴奏が主体のため、膨大なレパートリーがあることなどを話してくれた。
午後には会場内にあるPelimanni taloという場所で Konsta-Jylhä competitionのセミファイナリストの演奏を聞いた。民俗音楽のコンクールがあることに非常に驚いた。出演団体の編成は2~4人ほどの小規模のグループであり、アコーディオンのアンサンブルをはじめ、歌、フィドル等、多様な組み合わせがあり、中にはモンゴルの歌唱法であるホーミーを取り入れた演奏団体もいた。民俗音楽のコンクールは現地に赴いて初めて知り得た情報のため、今後の民俗音楽の発展、普及について研究する上での課題としたい。
フィンランドの民俗音楽機関が伝統の存続や、新しい形で民俗音楽の存続に力を入れていることを初めて知り、非常に興味深く感じた。
この日は他にも、会場から少し離れた場所にある博物館を訪れたりした。カンテレはもちろん、フィドル、ハルモニウム等が数点、そしてKonsta-Jylhä(フィドル奏者)やKreeta Haapasalo(女性カンテレ奏者)といった民俗音楽に貢献した人物の紹介や写真も展示されていた。
これらは主に19世紀から現在にかけてのカウスティネンの音楽の変容についての展示品であり、カウスティネンの民俗音楽が学校や結婚式など、地域と密接に関わりながら発展してきたことがよく理解できた。
音楽祭3日目は偶然出会った日本人の方に紹介していただき、国内外でも活躍しているペリマンニのアーティストJPPのメンバー、Antti Järvelä氏にインタビューをさせていただいた。
内容としては、ペリマンニという人々がいつ頃から存在したのか、女性が楽器を弾き始めたのはいつ頃かなどであり、日本で読んだ文献と関連付け、現場に携わってきた当事者からの貴重な情報を得ることできた。
インタビューをする直前にJPPが演奏をしていた。演奏が始まると人々が自然と踊りだし、ペリマンニの音楽はやはり村のダンスの伴奏などであり、その本質と光景を目のあたりにし、体験することができた。
その他にも、アメリカに住むフィンランドの移民団体の講義と演奏を聴きに行った。ブラスの演奏で音楽祭に参加していたのだが、フィンランドでは廃れてしまった伝統をアメリカで復興させ、今それをフィンランドなどに逆に紹介していて、まさにディアスポラ文化を体現していた。
夜はFriggというフィドルを中心としているバンドの演奏を聴いた。Friggという名前は北欧神話の豊穣の女神に由来しており、主にカウスティネン周辺出身のメンバーで構成されている。フィンランドの響きに縛られることなく、アメリカのカントリー音楽など、様々な要素を取り入れており、フィンランド国内でも人気があるようだ。バスの時間の関係上、長く聴くことはできなかったが、演奏技術は高かった。
自分が思っている以上に、様々なアーティストが伝統を現代風にアレンジし、音楽活動をしていることを知り大きな収穫であった。
音楽祭4日目はAntti Järvelä氏の合奏のワークショップに参加した。彼はフィドル、ベース、ギターに至るまで何でも弾いていた。ワークショップには多くの人が参加し、スウェーデンの楽器ニッケルハルパなど、珍しい楽器で参加している人もいた。
ホールで著名なペリマンニが(プログラムがなかったため名前の確認がとれなかった)演奏をするという噂を耳にしたので、演奏を聴きに行った。
参加最終日は予定外の出来事のために、いつもより早く帰らざるを得なかったのが非常に残念であった。この4日間は自分が課題としていたものは解決することができ、文献を読むことだけでは得られなかった資料を得ることができた。
研修を終えて
初めての実地調査ということで、緊張と不安が非常に大きかった。フィンランドに知り合いなどいないし、なんの伝手もなかったが、つたない語学力でも自分なりに沢山の人に話かけ、沢山の人に助けていただいた。現地に赴いて初めて知り得たこともあり、この経験で得た情報や資料を、コースで提出する卒業論文だけでなく、今後の研究にも活用していく所存だ。
貴重な機会をくださった大学、研修を支えてくださった諸先生方、学生支援課のみなさん、協力を惜しまなかった現地で出会った人々現地の人々にこの場を借りて御礼申しあげます。ありがとうございました。
野中映先生のコメント
最初にこの実地調査の話を耳にした時は、たまたまその土地に知り合いの方がいて、誘いがあったのかとばかり思っていたのですが、全くそういうことではなかったのですね。ご自分で音楽祭に関心を持たれ、計画もご自身で綿密に立てられたようで、調査への積極的な取り組みように改めて感心いたしました。研修目的もしっかりとしており、なおかつそれが具体的にどういった形で今後の研究活動に結びつけていけるかも明確にされているので、今回の研修が実りあるものであったことは容易に想像できます。
音楽祭でのさまざまな体験の中でも、地元のアーティストへのインタビューやダンス・ワークショップへの参加など、現地の文化に対して積極的な姿勢で近づいてゆけたことは、今後も貴重な財産となっていくことでしょう。
これから、より高い次元の勉学に励む松村さんにとって、今回の研修は得がたいワン・ステップとなってゆけたことを、私たちは確信しております。そして、今後の研究活動を大いに期待いたします。