国立音楽大学

リリカイタリアーナ イタリア・ベルカントツアー(イタリア・ベッルーノ)

谷垣 尚子 3年 演奏・創作学科 声楽専修

研修概要

イタリア、ベッルーノ
イタリア、ベッルーノ

研修期間:リリカイタリアーナ イタリア・ベルカントツアー
研修期間:2016年8月16日~8月29日
担当講師:ウィリアム・マッテウッツィ先生

研修目的

・講習会で特に学びたかったのは、何といっても発声で、身体の使い方から呼吸法、声の出し方、歌っているときの息の流れ方など…普段の歌い方が本当に正しいのか、本場の歌劇場で活躍していた方にみていただき、確認をする。
・更に曲もみていただき、ディクションやコロラトゥーラの転がし方など、音楽をつくるうえで必要な技術を教授していただく。
・夏のイタリアは沢山の音楽フェスティバルが開催されており、長い伝統のあるヴェローナ野外音楽祭やロッシーニオペラフェスティバルでオペラや演奏会に足を運び、刺激を受ける。また美術館や博物館にも積極的に行き、芸術や歴史的な遺産を通してイタリアの歴史、文化、思想などを学ぶ。

研修内容

 研修は、ヴェネツィアから電車で2時間程離れた田舎町のベッルーノのホテルで行われた。レッスンは2週間毎日あり、一日30分から40分通訳付きでレッスンを受講できる。
 ホテルの大きな部屋をレッスン会場用にいくつか貸切ってあり、ほかの観光客もいらっしゃるため、基本的に自分のレッスン時以外音出し・声出しは不可。講習会の講師はマッテウッツィ先生の他に、レナート・パルンボ先生、ヴィンチェンツォ・ベッロ先生、ステッラ・シルヴァ先生がいらっしゃった。

レッスン1日目

 初日にそれぞれ新人のクラス分けオーディションがあり、ホールで一人一曲歌った。私はドニゼッティのオペラ「リタ」のアリアを歌い、無事にマッテウッツィ先生のクラスに入ることが出来た。ひとクラス10人に分けられ初日のレッスンがスタート。「リタ」をみていただき、casaの子音の発音や、母音のaperto.chiusoの発音について学んだ。 

レッスン2日目~3日目

 二日目以降は発声を本当に丁寧に丁寧にみて頂くことが出来た。先生は特にハミングのポジションで(軟口蓋を開けて)歌うこと、ポルタメントのコントロールを上手くできるようにすること、高音から低音まで同じ響き、音色で、圧さないように少しの息で歌えるようにすることを受講者全員に口が酸っぱくなるほどおっしゃっていた。私の場合は中低音の響きが特に落ちやすいので、ハミングや子音NとMを上手く使った発声を教えて頂いた。
 レッスン用に何曲か曲を用意して持って行ったが、ほぼ使わなかった。というのも二日目以降、先生から課題の曲を提示してくださったからである。ベッルーノはとても山奥にある田舎町なので楽譜屋さんはない。なので、他の受講者と楽譜の貸し借りをするか、なければパソコンを持っている方からお借りし、ネットで検索してから印刷屋さんにデータを持っていき、A41枚30円程でコピーをして入手した。初めて頂いた曲がドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」の狂乱の場だったので、このコピー代はかなり痛かった。

レッスン4日目以降

     コンサートリハーサルの様子
     コンサートリハーサルの様子

 四日目あたりに総監督のパルンボ先生が突如いらして、最後のオーケストラ伴奏の選抜コンサートのオーディションが始まった。講習会には既にプロとして活躍されている方もいたので、あまり期待はしていなかったが、幸いなことに人生で初めてオーケストラと共演することが決まった。そしてパルンボ先生から本番はモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」からスザンナのアリア“Deh,vieni,non tardar”を歌うように言われ、その日からその曲を中心にレッスンをして頂くことに。
 この曲は3度と4度の上行形の跳躍が何度も出てくるが、言葉のアクセントとその跳躍のギャップを綺麗に滑らかに歌うのが難しくとても苦戦していたが、ポルタメントを最大限に活用して、一つのフレーズが常に流れるように、常に流れる息が柔らかくあるように指導して頂いた。言葉の際立たせ方や音楽をより効果的に見せる方法も伝授して頂いた。一つ一つ分かりやすいように軽く歌ってくださるのだが、それがすごく素敵で傍で聴いているだけで興奮が収まらなかった。
 モーツァルトと同時に最終日に全員参加型のピアノコンサートで歌う曲が、ドリーブのオペラ「ラクメ」から花の二重唱に決まったので、そちらも一緒にみて頂くことに。フランス語にあまり慣れていない私のために、マッテウッツィ先生が一対一でディクションをみて下さいました。先生の言葉の堪能さにひたすら驚きを覚えるばかりであった。
 先ほども書いたが、講習会場所はホテルの会議室などを使っているため、それ以外の場所での音出しは禁止されていた。自分のレッスン以外の時間はひたすら他に人のレッスンを聴講していた。聴講だけでもとても勉強になるレッスンであった。ただ、譜読みや自分が言われた課題を声を出して試行錯誤することが出来ないので、翌日のレッスンでまた同じことを言われたらどうしようという不安で押しつぶされそうになった。夜みんなと別れた後、一人どのように歌えばいいかをひたすら考えていたので、これもある意味いい経験になった。

2つのコンサートの本番

 そして迎えたオーケストラコンサート当日。朝短めにレッスンをして頂き、バスで2時間移動した先のテアトロでリハーサルを行った。マッテウッツィ先生がリハ中天井桟敷席で聴いていてくださっていて、後で講評を聞きに行ったときに「響きも息の流れもポルタメントもすべて良い!この2週間で言ったことを全てやってくれた。あなたは賢い!!」とお褒めの言葉を頂くことが出来た。心の底から嬉しくて、私はこの言葉を一生忘れることはないと断言できる。今まで不安になりつつも自分を信じながら発声を探していた私にとって、この言葉は自信になったし、これからの支えにもなると思う。本番は、リハーサルの時のほうが上手くいったかな、という感じではあったが、初めてのオケ伴奏をイタリアで憧れの地、イタリアで経験出来て本当に良かった。翌日のピアノコンサートも上手くいき、長いようで短かった講習会も無事に終えることが出来た。

コンサート本番
コンサート本番

研修を終えて

大好きな先生と!
大好きな先生と!

 この講習会の2週間で得たものは本当に多く、私がつかんだこの感覚や経験は貴重な財産になりました。奨学生としてこのような機会を下さった皆様に感謝申し上げます。日本に帰った今、再び自分を信じてさらに成長できるようにこつこつと努力を重ねて参ります。

本島阿佐子先生のコメント

 谷垣さんはマティウッツィ先生のレッスンを2週間毎日受けるという幸運に恵まれました。マティウッツィ先生は去年、今年と2年連続で本学にも公開レッスンにいらして下さっているので、その丁寧で愛情深いレッスンは私たちも触れることができ、彼女の受けたレッスンの内容はさぞかし素晴らしかったでしょうと想像することができます。しかも、先生の毎日のレッスンだけでなく、現地の受講生と共に学び、また、短期間で新曲のレッスンを受け、オーケストラと共演できたり、コンサートでは二重唱を貰ったり、と本場ならではのタフな経験も沢山して、本当に多くの事を学べたことと思います。
 限られた時間での練習、本番のプレッシャー等も彼女の精神を強く柔軟に成長させたと思います。この素晴らしい経験を確実に自分の血肉とし、今後、演奏家になるための糧として役立ててくれるよう願います。

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