モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー(オーストリア・ザルツブルク)
森谷 瑞木 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2016年7月27日~8月15日
担当講師:フランク・ウィバウト教授
研修目的
現在、日本で音楽を学んでいるが、外国での講習会を機に、音楽の本場といわれるヨーロッパで音楽を学び・感じ・体験することでもっと広い世界を見てみたいと思った。違う環境に身を置くことで違う自分を発見し、性格や演奏上の表現面でもっと自分を出したり、表現したり、何か自分を変えるきっかけになるのではないかと思った。また、著名な演奏家や教授のレッスンを受講・聴講したり、世界各国から集まる受講生から刺激を受け、様々なことを学び、音楽を表現する上でその国の文化・空気・歴史的背景など五感を使って感じると共に、自分自身と向き合い、今後の自分の演奏や音楽とどのように向き合っていくかを考え、自分自身の見聞を広げることを研修の目的とする。
研修内容
講習会前日に大学で受講登録を済ませ、講習会初日に行われるオーディションの時間と部屋を確認し、オーディション前に練習室を30分借りることが出来たので練習室を予約した。ウィバウト先生クラスのオーディションは12時15分~だったので少し時間にも余裕があり、オーディション前は気持ち的にも落ち着いて過ごすことが出来た。30分程練習し、オーディションに向かった。部屋にはすでに数十人受講生が集まっていて、私が参加した2期は今回特に受講生が多い期間であったので、受講できるか不安であったが、一人ずつのオーディションが始まった。演奏する前に通っている大学名と何を演奏するか聞かれ私はベルクのピアノソナタを演奏した。ウィバウト先生は穏やかで温かい雰囲気で迎えてくださったので、リラックスして演奏することが出来た。弾き終わると合格をいただいた。その後、詳しいレッスン時間と日程が貼り出され、レッスンは翌日から始まり、1回45分、2週間で5回していただけることになった。最終的にウィバウト先生のクラスは全員合格することができたみたいであり、クラスの受講者が多かったので聴講の際には沢山の人から良い刺激を受けることが出来た。
8月2日 第一回レッスン
曲目:ベルク ピアノソナタOp.1
レッスンを始める前に「今日は少しずつ止めてみていくけど良いかな?」と聞かれ止めながらのレッスンであった。まず、最初の数小節を弾くと、「この曲をどういう風に思う?君のは少し、最初から不安で不気味すぎる。もう少し希望を持たせても良いんじゃないかな」と言われ、曲全体を通して、曲の性格や雰囲気のアドバイスをいただいた。自分が思っていた解釈や表現の仕方とは違うアドバイスをいただけたのが新鮮であった。強弱やペダルの踏み方で指摘を受けた際には自分の読譜の甘さに反省した。先生は姿勢や身体の使い方を特におっしゃっていて、弾く前に身体を固めてしまうこと、また私の癖で課題でもある姿勢のことや身体の使い方などについてアドバイスをいただいた。どこを意識するかやどこを使うのか先生は分かりやすく指導してくださり、直して弾いてみると身体が楽になり音にも変化がでたのが自分自身でもとても感じた。先生は私が納得する音が出るまで教えてくださったり音の響きのことをおっしゃったり、ただ音に夢中になって弾くだけでなく音の方向や全体の響きにも耳を傾けなくてはいけないと感じた。
8月4日 第二回レッスン
曲目:シューマン 管弦楽のない協奏曲 作品14 第1楽章
まず一回通して聴いていただいた。「良く弾けているけれど、この曲は音楽的にも技術的にも難しい曲だね。一つの音になってしまっているところがある。背中を伸ばして腕を楽にして、大きなフレーズを意識して弾いてごらん」と言われた。またこの曲に関しては音の出し方もおっしゃっていて、先生は「プッシュ、プッシュ」と腕と手の使い方についても教えてくださった。また「幸せなところや嬉しいところは表情などだけでなく、お腹のなかから幸せな気持ちになって弾いてみて」など起伏の付け方や表現の方法など自分が思っている以上にもっと表現しなければならないと思った。
1楽章で終わってしまったので、次回は2楽章を見てほしいとお願いした。
8月5日 第三回レッスン
曲目:シューマン 管弦楽のない協奏曲 作品14 第2楽章
まず最初に一回通して演奏した。先生は「昨日に引き続いて、2楽章も表現がシューマンは難しい曲だと思う。少し縦の演奏になってしまっている、横に流れるように」と言われ、私自身難しいと思っていたところであった。先生は出だしの付点のリズムから次の音に進む時が一番難しいとおっしゃっていて、「強くなりすぎないで、ディミヌエンドを意識して一音一音聴いてごらん」と言い先生が弾くと綺麗な音と演奏に惹かれた。実際にバランスを聴く方法として右手を1オクターブ上で弾いて付点の後をppで弾く練習方法を提案された。やったことがない練習方法であったが音を意識して聴けると思った。また、先生は音の流れや出し方にもとても丁寧で熱心であり力の抜き方など細部にわたって指導してくださった。ppなところほど身体に力が入ってしまうので、意識して練習していきたい。
8月9日 第四回レッスン
曲目:リスト ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲
この曲は長いから、途中で切ろうと言われ最後までは見ていただけなかった。途中まで弾くと「この曲はミステリアスだよね、弾けてはいるんだけれど、体力も使うしもっと身体をリラックスさせて、身体のどこの部分を意識して、どこが使われているか考えて弾いてごらん」と言われた。先生に言われて少しでも意識すると音の大きさも出る音も変わって、日ごろの練習から意識して取り組まなければいけないと感じた。また、ピアノが無くても身近で出来る練習方法や腕の使い方を教えていただいてやってみようと思った。今日は時間の関係で途中までになってしまったが、最終日にクラスコンサートも控えていたので、最終レッスンはベルクを見ていただくことにした。
8月11日 第五回レッスン
曲目:ベルク ピアノソナタOp.1
13日の最終日にクラスコンサートを控えており、そこで演奏するベルク ピアノソナタをもう一度みていただいた。ウィバウト先生は細部にわたって最後まで熱心にみて下さった。「フレーズ、強弱をもっと意識して音にもう少し動きが出ると良い」とアドバイスをいただき、細かい音の動きや流れを先生が弾きながら説明してくださり、3連符や付点の弾き方少し早くなってしまいがちだから意識して少しゆっくりと弾いてみてなど、そのリズムを意識するだけでも音楽が変わり、弾きながら説明してくださったので、リズムの取り方や間、流れもつかみやすかった。課題点が多かったがあと一日練習することが出来るので、本番までに少しでも直そうと思い練習に励んだ。
クラスコンサート
ウィバウト先生のクラスコンサートは13日にモーツァルテウム大学内のホールで行われた。私は、ベルク ピアノソナタを演奏した。当日、ホールには沢山の方が聴きに来てくださっていた。少し緊張した様子でいた私に、コンサートが始まる前、先生が「リラックス、リラックス、楽しんで!」と声をかけてくださった。私は、この講習会で学んだことや教わったこと、今しか味わえないこの雰囲気や空間を楽しもうと思い、今出来ることを少しでもやろうと思い演奏会に臨んだ。演奏面ではまだまだ課題の残るところや、納得がいかない所もあったけれど、同時に収穫できたことも多く気持ちの面でも前向きになることができたコンサートであった。コンサートはレベルの高い受講生が多く、演奏には圧倒されとても刺激を受けた。パワフルで圧倒された演奏、音楽的な演奏、それぞれに作品と向き合い曲の想いを伝えようとしている姿や、表現や演奏も豊かでみんな楽しんで演奏している姿がとても印象的であった。自分にもまた新たな気持ちが芽生えとても良い機会であった。全員の演奏が終わると先生から全体の講評があり、皆で拍手を送りあった。その後、先生からディプロムの賞状をいただき、講習会は無事終わった。
クラスコンサート終了後、先生を囲んでの食事会が行われた。拙い語学ではあったが、受講生同士話したり、普段の学校生活や留学などについての話を聞いたり、たわいもない話をしたり、とても楽しい時間を過ごし温かい雰囲気の食事会であった。
レッスン以外の過ごし方
私は、講習会が始まる数日前にザルツブルクに入り、寮が大学からバスで15分程度のところにあった為、事前に現地に入り、バスのチケットを購入したり、大学までの経路を確認したり、下調べをし、現地での生活に早めに慣れることが出来た。
ザルツブルクは、とても綺麗で町並みも建物も景色も空気も全てが美しく、歩いて回れる程の小さな街だった為、レッスンがない日や、休日、少し空いた時間ができた時には橋を渡って旧市街に行き、歩いてみたり、街並みを見たりするのがとても楽しかった。
日曜日の朝には、大聖堂に行きミサに参加した。大聖堂の中はとても美しく感動した。厳粛な雰囲気であったが、パイプオルガンの音や、響く音、聖歌隊のミサ曲は素晴らしくとても神聖な気持ちになった。
私が滞在したときは、雨が多く最低気温が11℃という日もあった。晴れたときには気温が上がりとても暑く、気温の差が激しい日もあったが、それでもザルツブルクの気候は快適であり過ごしやすかった。
練習室は、期間中朝8時~10時と13時~15時に借りていた。その他の時間でも空いている練習室があれば弾くこともでき、練習時間を確保することが出来た。練習室はどの部屋にもスタンウェイやべーゼンドルファーが入っていた。練習室にはランク(ピアノの状態・エアコン有・無)があり、ランクによって部屋の料金は異なっていた。
朝の練習室は天井が開く部屋だったので、晴れている日は窓が開いていてとても気持ち良かった。
大学内で行われているレッスンなどは全て公開になっており、レッスンがない日には他の先生方のレッスンを聴講したりした。常にどこかの部屋でレッスンが行われていたので、他の方のレッスンや演奏を聴いたり、色々なレッスンを見ることができとても刺激的であった。講習会中は大学内でマイスターコンサートや、アカデミーコンサート、クラスコンサートなど様々なコンサートが企画されていて、演奏を聴く機会も多くあった。
また、この時期は世界規模の音楽祭ともされているザルツブルク音楽祭が開催されていて演劇、オペラ、コンサートなどのプログラムが連日行われていた。ソコロフのリサイタルに行くことも出来た。
講習期間中は、大学からバスで15分程度のところにある、Internationales Kollegという寮に滞在していた。少し大学から距離はあったが毎日バスで通うのは、色々な景色が見れて良い時間であった。また、この寮の停留所はバスの車庫になっていて、バスの本数が少ない土・日でも比較的多くの本数があり、コンサートで遅くなった時にも夜中までバスがあったので安心してコンサートに行くことが出来た。
寮の部屋は個室で、各部屋にお風呂、トイレ、がありキッチンは廊下に各自ロッカーみたいなものがあり、そこで炊事が出来た。冷蔵庫、冷凍庫、スポンジ、まな板、食器などは揃えられていて、とても綺麗で衛生的であった。一週間に一度タオルとシーツの交換もあり、とても快適に過ごすことの出来る寮であった。
また、敷地内に練習室も完備されていて8時~22時までは音だしが可能であった。練習室のピアノは良い状態とはいえなかったが、数台アップライトピアノなどが置いてあった。また、講習会中は人も多かった為、知り合いがいると挨拶をしたり、困っていると助けてくれる人もいて、同じ階には友人もでき、毎日話したりするのが楽しく、沢山の出会いにも恵まれ充実した生活を送ることが出来た。
研修を終えて
ザルツブルクでの3週間は毎日がとても新鮮なことばかりで、違う環境の中で音楽を学び素晴らしい景色や、建物、環境の中で学べたことは自分自身にとって、とても良い経験となった。講習中は慣れないことや言葉の壁、生活や、レッスンにおいて落ち込むことや、自分の弱さを見つけたり、悩むこともあったが、この環境の中で学び、3週間自分自身と向き合い経験したことは、私にとってかけがえのない時間であり大切な時間であった。また、世界から集まった人たちの演奏を聴くことで、世界には色んな人がいて、私が知っている世界はやはり狭いと感じた。色々な経験をしたことによって自分の見聞も少し広がったかと思う。
今後も、この経験や学んだことを大切に生かしこれからの糧とし学んでいきたい。
最後に、国内外研修奨学生として貴重な経験を与えてくださいました大学関係者の皆様、講習会に向けサポートしてくださった学生支援課の皆様、いつも優しく見守り、熱心にご指導くださる先生方に心より感謝申し上げます。そして、お世話になった先輩方、友人、いつも応援して支えてくれている家族、全ての人に感謝いたします。本当に有難うございました。
進藤郁子先生のコメント
森谷瑞木さんは、モーツァルテウム夏期国際アカデミーに参加され、念願のヨーロッパで音楽を学び、感じ、考え、自分自身と向き合い、大変充実した3週間を過ごされました。
ウィバウト先生のレッスンでは、日頃の課題でもある、姿勢や身体の使い方を、分かりやすく指導して頂き、それを実践すると身体が楽になり、音色も変化したことが実感でき、充実した様子が伝わってきました。練習の時から、身体のどの部分を意識し、使うかを考えて取り組む必要性を、自分自身で得られたことは、今後の発展に繋ると思います。表現方法では、先生の「幸せなところや嬉しいところは表情などだけでなく、お腹のなかから幸せな気持ちになって弾いてみて」の言葉から、自分が思っている以上にもっと表現しなければならない、の気付きは大切な学びです。
クラスコンサートでは、受講生のレベルの高い演奏にも触れ圧倒されるなど、刺激を受け貴重な体験をされました。
若い感性には、この滞在全てが心に響いた事と思います。この経験を生かし、益々音楽の素晴らしさを探求なさってください。今後のご発展を楽しみに期待いたしております。