国立音楽大学

ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー(フランス・ティーニュ)

岩政 志穂 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(クラリネット)

研修概要

研修期間:ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2016年7月31日~8月11日
担当教授:ロマン・ギュイオ教授

研修目的

 海外の音楽教育の現場に身を置き、本場の空気を肌で感じながら音楽と向き合い、考えを深め、視野を広げる。世界的クラリネット奏者であるロマン・ギュイオ先生のレッスンを受講することで演奏技術や音楽表現の向上を図る。

研修内容

10日間で5回、1回60分のレッスンが行われました。

初回のレッスン

 Saint-Saensのクラリネットソナタ1楽章をみていただき、この曲の空気感、テンポの設定の仕方について説明していただきました。この曲はAllegrettoというテンポ表記であるが、Andanteで演奏している人がプロでも多いこと、世間で出回っている演奏の印象、固定概念を一度捨てて、作曲家がどのようなテンポでどのように演奏してほしいと言っているか楽譜から読み取ることが大切だと仰っていたのが印象に残っています。これはこの曲だけでなく、どんな曲を演奏する時でも考えなければいけないことだと感じました。曲の雰囲気を説明する際、先生は物語のようにして実際に演技をして見せて下さいました。

2回目のレッスン

 Debussyの第一狂詩曲をみていただきました。全体を通してから先生は「タンギングに問題がある。そしてあなたが自分のタンギングの音に納得出来ていないこともよくわかったよ。」と私のタンギングに問題があることを指摘してくださいました。私は前々からタンギングをした際の音が綺麗に出ないことに悩んでいたため、その事に気付き、そう言葉をかけて下さったことがとてもうれしかったです。この回のレッスンで私のタンギングが上手くいかないのには、舌に力が入りすぎていたこと、それによって口の中が狭くなってしまっていたことが原因だとわかりました。それらを改善するための練習方法も教えていただくことができました。
 音楽的な面ではこの曲で一番大切な色彩感の出し方について説明していただきました。先生は曲の雰囲気を出すためのコツをいくつか教えてくだり、そしてどうしてこうやって演奏するのかということを楽典的な面からも説明してくださったので、とても理解しやすく、自分でもこうやって演奏する際のポイントを見つけられるようになりたいと思いました。

3回目のレッスン

 ピアニストの方に伴奏をつけていただき、Debussyの第一狂詩曲を見ていただきました。前回教えていただいた練習をしていった成果もあり、タンギングや曲想について改善がみられると言っていただきました。この回はピアニストの方がいらしたこともあり、ピアノとの絡み方や和声、倚音の扱い方について教えていただきました。
 この曲は技術的にも音楽的にも非常に難しい曲であり、それぞれの部分で明確にキャラクターを設定し表現する必要があることを教わりました。先生の曲に対するイメージを教えていただいたのですが、先生の演奏からはその言葉通りのイメージが伝わってくるのがとても素敵で素晴らしいと思いました。

4回目のレッスン

 BrahmsのクラリネットソナタOp.120-2の1楽章を見ていただきました。この回もピアニストの方に同伴していただきました。この曲は、日本でかなり作りこんで行ったかいもあり、お褒めの言葉をいただくことができました。そして、この曲の作曲の経緯やブラームスの生い立ちなどから、演奏するうえでどのように工夫をしたらもっとブラームスらしさが出るのかということを教えていただきました。作曲者の周りの環境を知ることや、どのような思いでどのような状況でこの曲を書いたのかを知ることが如何に大切かということを改めて思い知らされました。また、この曲は演奏者によって解釈が分かれやすい曲でもあるため、そのような裏付けが必要なことであることも学びました。先生は「あなたが感じたように、好きに演奏すればいい。ただ、必ずその演奏に自信が持てる根拠と、どうしてそう演奏したのかを説明できるようにしなさい。」と仰っていたのがとても印象に残っています。

5回目のレッスン

 Brahmsのソナタの後半から見ていただき、音と音のつながり、音の終わりから始まりまでの間の取り方を中心に教えていただきました。私は、音をまっすぐに吹き続けてしまったり、ちょっとした休符で息が緩んでしまう癖があり、それらを指摘されました。音をまっすぐに吹くことはもちろん大事ですが、曲の表情をつけるためには音を抜くことも必要だと教わりました。また、曲を吹いている際、ブレスを取る時以外は常に息を吐いているべきだと仰っていました。私は短い休符でも息を止めてしまっていたためそれが原因でフレーズごとのつながりが薄れてしまうのだと思いました。

 最終日には受講生の中から推薦していただき、スチューデントコンサートに出演しBrahmsのソナタを演奏しました。終演後、先生から講評をいただくことができ、レッスンで言ったことを意識して演奏出来ていたが、まだ「学生」の演奏な感じがすると言われました。今までは演奏だけに必死になってしまっていたが、これからプロを目指していくなら、楽器の事はもちろん演奏会の際の立ち振る舞いもプロ意識を持つ必要があることを認識させられました。

 

受講生全員で先生と
受講生全員で先生と

武田忠善先生のコメント

 岩政さんは、国立音楽大学入学前からレッスンしていますが一言で言うならば、大変な努力家です。クラリネットの成績は常に上位(1番2番)にいます。そうした優秀な彼女ですが、まじめさゆえに表情、表現が硬い所があります。そういった弱点を克服すべく今回の研修に参加したと思います。
 帰国して成果として表われたことがありました。それは8月の終わりにおこなわれた日本管打楽器コンクールでのことでした。私も審査員でした。なんと、表現の幅が増えたことか。表情さえ違って見えました。そして大変柔軟性のあるDebussyでした。
 岩政さんにとって大変有意義な体験だったということがよくわかりました。今後の活躍が期待されます。

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