Centrum Jazz Port Townsend
片山 士駿 4年 演奏学科 ジャズ専修(サクソフォン)
研修概要
研修機関:Centrum Jazz Port Townsend –The Workshop
研修期間:2016年7月24日~8月31日
担当講師:Sean Jones (trumpet)
研修目的
これまでの自らの学習内容、及び演奏経験を踏まえ、日本とアメリカのジャズ、音楽の違いを体感する点。また、現役のプレイヤーである講師陣による音楽理念、或いはアイデアを学ぶ点、そして、アメリカ全土より集まる幅広い世代の他の参加者との演奏の実践、交流である。
研修内容
今回私が参加した講習会にて、受講したものはcombo, workshop, master classの3つのクラスである。まずcomboについてであるが、オーディションの結果、私は幸いなことにレヴェルの高いクラスでの受講となった。初回の授業のみ、担当のSean Jones氏の到着が間に合わず、講習会のアーティスティック・ディレクターであるJohn Clayton氏のレッスンとなった。彼のレッスンでは、まずOscar Peterson Trio, Ray Brown Trioなどで用いられているピアノトリオの配置の仕方の合理性についての意見を聞くことが出来た。通常よく用いられる、ステージ向かって左から右にかけてピアノ、ベース、ドラムと配置するものでは、ピアノの蓋側にベーシストが立つこととなり、ピアノのブライトな音色を認識したベーシストが自身のアンプリファイヤーのボリュームを上げる要因になる。そしてドラマーはそれに音量を合わせるため、最終的にバンドのボリュームが非常に大きくなってしまう恐れがあるというのが彼の意見だ。ピアニストの背後にベーシストが立つOscar PetersonやRay Brownのトリオの配置は、ピアニストとドラマーのアイコンタクトの事を考えると少々非合理的であると考えていたが、ベーシストの立場から音量を考慮した意見であった為、あえてこの配置で行うことに至極納得がいったのである。また、Clayton氏はレコードからトランスクライブしたソロについては、書くことではなく覚えることが重要であるとも、我々に説いてくれた。
レッスンについて
初日2回目のcomboクラスから本来の担当であるSean Jones氏が到着し、彼のレッスンとなった。Jones氏のレッスンでは、主にBobby Watsonのアレンジと、自身のオリジナル曲を題材にアンサンブルの授業が行われた。曲に関してのアイデアを積極的に演奏者である我々に求めて、それを基に曲を作ろうとするレッスン内容がとても印象的だった。又、それぞれのインプロヴィゼーションの際の音数に関して指摘する場面もしばしばあった。
Workshopの時間で印象的だったのは、主にJay Thomas, Gerald Clayton, Kendrick Scott各氏による授業である。理論的な内容で新たな知識を得ることが出来たのは、Jay Thomas氏による3つのマイナースケールに関する講座である。Thomas氏はmelodic minorからなるminor 6thpentatonic scaleに関してのアイデアとharmonic minorのMajorコード上での利用についてなどを教えてくれた。Clayton氏は、歴史的録音であるMiles DavisのMilestonesを用いて、フロントのMiles, Coltrane, Cannonballの3者どのようなラインでDm7というコードに対してアプローチをしているか、また同録音上でのPaul Chambersのラインについても触れるなど、演奏或いは録音で何が起きていて何を聞くべきかにに関するワークショップを行っていた。ピアニストの右手と左手の話の際、Clayton氏がErroll Garnerの録音を用い、タイムのストレッチと左手がコンスタントに4分音符を刻む様を、“彼の左手のFreddie Green”と比喩していたのが印象的であった。
Scott氏のワークショップは基本的にドラマーに向けた内容であったが、彼のドラミングに関しての理念を理解することが出来、興味深かった。4way developmentでのダイナミクスレンジの重要性や、スネアドラム1つから15以上の音色を生み出せるかどうかなど、ドラムの可能性についての考察を彼ならではの視点から解説しており、ドラマーではないものの、非常に面白い内容のものであった。Master classでは、Jeff Clayton,Gary Smulyan, Grace Kelly, JD Allenの4氏をサクソフォンでの受講者が囲むような形態で行われ、それぞれのアイドルプレイヤーのルーツを知ることについての重要性について主に解説していた。JD Allen氏による全てのサクソフォーンプレイヤーは最終的にLester YoungとColeman Hawkinsに行き着くとする説などが話されていたが、こちらは終止トークショーのような雰囲気であり、高度な内容について触れることは無かった。しかし、歴史の重要性の内容の際、Gary Smulyan氏からPony Poindexterに触れる発言があったことが印象的であった。
研修を終えて
今回この講習会を受講して感じた大きな点は、一つの音楽教育としてのジャズが、既に大きく確立されている様子を見受けられたことである。10代の若いプレイヤー達は、私自身の同じ年頃のレベルとは比べものにならぬほどの演奏技術や、理論、歴史双方に関する知識も持ち合わせていた。暗に比較することは決して正しくはないと思うが、彼らの様を見て、私は改めてアメリカとのレベルの差を痛感したのである。
また、これはあくまで私自身の経験であるが、中学生・高校生の頃、近い年頃でジャズを志した者が私の近い環境では少なかった為、周りの大人がやたらとちやほやし、それにより自己の本来のレベルを錯覚することがあった。これはスキル向上の最大の妨げとなる要素であり、しかし自らでも知らず知らずにはまってゆく危険な点であると考える。だがこれはあくまで取り巻く環境による要因が大きいもので、私が今回シアトルで出会った多くの10代のプレイヤーに於いては危惧するに値しないものなのではないかと感じたのである。なぜなら、授業の一環としてジャズが取り入れられている学校もある様に、”ジャズを演奏する”ということは決して珍しいことでもなく、また希少なことでもない。日本の大人たちがするようなちやほやは、そこにはないはずである。ジャズそのものがアカデミックなものになってしまっているかどうかはさて置き、高校生くらいの年齢の若者たちが純粋にジャズを愛し、また自らの意志でそれを極めている姿勢に、私はとても感銘を受けたのである。今回参加した講習会に於いて、レッスンで多くの音楽的要素を得ることが出来たのは勿論の事、改めて日米双方でのジャズのあり方の違いを感じることが出来、また多くのプレイヤーたちと交流を持つことが出来たのは、非常に貴重な経験となったと感じている次第である。
池田 篤 先生のコメント
彼はとても積極的な性格で、いろいろな場に参加し研鑽を積んできました。しかし時として実力以上に先を急ぎすぎる傾向もあり、私は度々その事を懸念していました。
今回のミュージックキャンプに参加出来たことで、ジャズという音楽におけるアメリカ人の底力の様なものを通じて、基礎的な知識と技術の大切さを肌をもって感じてくれたのではないかと思います。そしてジャズはアメリカ発祥の音楽ですから、当たり前の様に存在する現地でのジャズの在り方と、日本におけるそれとのギャップに気付きショックを受けたことと思います。その延長線上にある問題点として、彼は研修報告書の最後で、彼らから見る大人世代の軽々しく若者世代をもてはやす行動によって日本のジャズ状況が悪化している事を厳しく非難しています。その事は私自身も日頃から強く感じていることで、その問題点を指摘し、焦らず先を急がず、若い頃にやるべき事を着実に身に付けていくことを彼らに伝えてきました。今回、同じ志しを持った多くのアメリカの若者たちと接し、日本人である自分はこれから将来どの様に自分自身そしてジャズ界を高めていけばよいのか、または日本とアメリカという垣根を越え、ひとりのジャズ・ミュージシャンとしての在り方、今後の生き方を考えるようになってくれたなら、今回の経験が卒業後にいよいよ始まる果てしない音楽人生を支えてくれる大きな力になってくれると信じています。