浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバル
田中 真梨絵 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(フルート)
研修概要
- 研修機関 浜松国際管楽器アカデミー
- 受講期間 2011年7月30日~8月3日
- 担当教授 アンドラーシュ・アドリアン教授
研修目的
今まで私は国内の先生のレッスンしか受けたことがなく、ずっとヨーロッパの先生のレッスンを受けてみたいと思っていた。今大学で勉強しているクラシック音楽はヨーロッパの文化であるが、日本とヨーロッパでは文化に大きな違いがある。文化が違えば、考え方や感覚もまた違ったものになると思うので、ヨーロッパの人の感覚に実際に触れることでフルートを演奏する上での技術や表現の幅を増やしたいと思った。また、大学とは別の環境で音楽を勉強することで、新しい発見があるのではないかと思い、このアカデミーの受講を希望した。
研修内容
今回私はアンドラーシュ・アドリアン先生のクラスを受講した。1クラス8人の受講生がいて、受講生は高校生、大学4年生、大学を卒業した方、大学院生、ミュンヘン音楽大学でアドリアン先生のレッスンを受けている方など様々だった。受講期間中は4回のレッスンがあり、自分のレッスン以外の時間は他の受講生のレッスンを自由に聴講できた。また、先生方によるフルート・ライブやガラ・コンサートがあった。
スケジュール
- 7月30日 開講式、クラス顔合わせ、第1回レッスン
- 7月31日 第2回レッスン、フルート・ライブin浜松
- 8月 1日 第3回レッスン、ガラ・コンサート
- 8月 2日 第4回レッスン、オーディション
- 8月 3日 プレミアムコンサート、閉講式
レッスン
レッスンに持っていく曲は、シューベルトの〈しぼめる花〉の主題による序奏と変奏と、モーツァルトのフルート協奏曲ト長調を用意した。どちらもフルートを勉強するのに重要なレパートリーで、特にシューベルトに関しては、4年生になったら絶対に勉強すると決めていた曲だったので、この講習会はちょうど良い機会だった。
第1回レッスン F.シューベルト/〈しぼめる花〉の主題による序奏と変奏(序奏、主題、第1・第2変奏)
最初に序奏を吹くと先生は、「序奏と主題、どっちの方がテンポが遅いの?」とおっしゃった。Andante(序奏)とAndantino(主題)なので序奏の方が遅く演奏するのだが、私は緊張のせいか、普段練習していたテンポより明らかに速いテンポで演奏してしまっていた。主題を演奏する時のテンポを考えてから序奏のテンポ設定をするようにと注意をうけた。序奏も主題も、16分音符や32分音符の入れ方、アーティキュレーションなど、基本的なことではあるが、曲を演奏する上でできていなければならないことを、より確実にするためのアドバイスをいただいた。また先生は、「音の変わり目をよく聴いて指を替えるタイミングを合わせて音の並びを均等にするように」とおっしゃった。音の変わり目は、キーを押すのと上げるのでは微妙に速度が違うため(上げる方がバネの働きで速くなる)、上げる方の指は意識して上げなければならないと教わった。
第1変奏では、アクセントとdim.の違いを判断しなければならないと教わった。シューベルトはアクセントとdim.の違いを区別しておらず、ほとんどがアクセントの記号で書かれてしまっている。その中で、どのような時がアクセントなのか、又はdim.なのかを教えていただいた。
第2変奏はピアノもフルートも f であるため、「ピアノに負けないくらい大きく!」とおっしゃった。いくら吹いても大きくならず、その原因として、ヴィブラートを喉でかけてしまう傾向があるからだということだった。喉を開けることでヴィブラートが減り、音量が出るようになるとアドバイスをいただいた。
1回目のレッスンから沢山のことを教えていただけて、とても勉強になった。
第2回レッスン F.シューベルト/〈しぼめる花〉の主題による序奏と変奏(第3~第6変奏)
前回のレッスンの続きから始めた。第3変奏を吹くと、先生は「このバリエーションは内面的な静かな演奏をしなくてはならない。あなたの演奏は秘密がオープンになっている。」とおっしゃった。綺麗な旋律で1番好きなバリエーションだが、音色や吹き方など、他のバリエーションよりもかなり神経を使わなければならず、とても難しいと感じた。
第4変奏と第5変奏では、6連符を吹いた後の音のリズムが6連符のリズムを引きずってしまっていたので、6連符とその他の音のリズムの差をはっきりつけるようにとご指摘いただいた。
第6変奏は私が思っていたテンポより遅いテンポを指定された。この第6変奏は最後の1つ前の変奏で、「シューベルトの時代は最後の曲・楽章の1つ前は必ずゆっくりなテンポのものがくると皆が知っていた」とおっしゃった。また、最後の変奏にAllegroと書かれているのは「テンポを元に戻す」ということだと教えていただき納得できた。しかし、私が参考に聴いたいくつかのCDの演奏には、先生が指定されたテンポほどゆっくり演奏されているものがなかったため、そのテンポに慣れることがなかなかできなかった。これからの練習でちょうど良いテンポを探していこうと思う。
2回のレッスンを終えて、自分で演奏していて意識して聴けばわかるようなことでも、私は本当に適当で自分の音を何も聴いていないのだなと感じた。
第3回レッスン F.シューベルト/〈しぼめる花〉の主題による序奏と変奏(第7変奏)
第7変奏を1回通すと先生は「君は満足していないようだけど、それはどうして?どこが満足できないのか教えて。自分で自分の演奏を批評することも大切だよ。」とおっしゃった。自分の思うような演奏ができなくて満足していない顔をしてしまったが、具体的にどこがということを指摘できず、自分の出す音に対する意識が足りないと反省した。次に、この曲の元の歌曲の物語について聞かれた。この〈しぼめる花〉の歌詞の最後は『五月が来たんだ、冬が去ったんだ』という希望の見える歌詞だ。先生から「君の演奏は希望が見える感じが出ていない。もっと元気に楽しそうに演奏して。」とご指摘いただいた。元気に楽しく演奏することを心がけ、他の細かいところを直すと自分のイメージしていた演奏に少し近づけた気がした。
第4回レッスン W.A.モーツァルト/フルート協奏曲 ト長調 1楽章
最初に前半を吹くと、「綺麗に吹いているけどフレーズが短く切れてしまっている。舌をつく時に音を止めてしまっているのではないか。」とご指摘いただき、私はタンギングをする時の癖で、タンギングをはっきりさせようと舌をつく度に無意識に音を止めてしまっていたことに気付かされた。そこで、息の流れは止めないようにタンギングをすることを意識するようアドバイスをいただいた。その他にも、前打音の入れ方やアーティキュレーションなども前後の流れを考えたものを教えていただき、どうしてその吹き方にするのかということも詳しく説明して下さったのでとても勉強になった。モーツァルトは様々な解釈があり、どれが正しいか迷ってしまうことがよくあるのだが、この曲の他の楽章や他の曲を演奏する時は、自分で前後の流れやモーツァルトの音楽を考えながらどのように演奏するか選択していくようにしようと思う。
レッスン中に先生がおっしゃった「レッスンの時は先生が聴いてくれるけど、普段の練習の時に、自分で聴いて気付いて自分で指摘できるようになるのがベストだ。自分で自分にレッスンできたら毎日がレッスンになるよね。」という言葉が、何気ない言葉かもしれないが、今まで自分で自分にレッスンという発想がなかったためとても衝撃的だった。それを聞いた時に、普段いかに自分の音を注意して聴いていないかということを実感させられた。最初にレッスンに持って行ったシューベルトを細かく見ていただいたため、レッスンはシューベルトとモーツァルトの1楽章のみで終わってしまったが、4回ともとても内容の濃いレッスンをしていただき、とても勉強になったし沢山のことに気付くことができた。
レッスン聴講
自分のレッスン以外の時間は他の受講生のレッスンを聴講していた。どの受講生のレッスンも、細かく基本的なところから見直していくようなレッスンでとても参考になった。特にバッハとモーツァルトのレッスンは、『なぜこのように演奏するのか』など詳しく説明されていて、これから自分で練習していく時に参考になるアドバイスを沢山聞くことができたのでとても良かった。他の受講生のレッスン中、先生が何度もおっしゃっていたのはお腹(横隔膜)を使ったタンギングで、以前私が行っていた基礎練習と方法が似ていたので、またその練習を取り入れるようにしようと思った。レッスンを聴講していると、自分にも当てはまることが沢山あり、客観的に聴くことで先生のおっしゃっていることをより理解することができたように思う。また、どのレッスンもとても興味深く、朝から夕方まで聴講していても飽きることなく充実した時間を過ごすことができた。
プレミアムコンサート オーディション
4日目の夕方、フルートのもう1つのクラスと合同で最終日に行われるプレミアムコンサートのオーディションが行われた。コンサートの出演者がこのオーディションで各クラス1名ずつ選抜されることになっている。各クラスのレッスンの最初と最後の人でじゃんけんをして順番を決めることになったが、その結果私は1番に演奏することになってしまった。演奏は、1番だという緊張とレッスンで教わったことを忘れないようにしなくてはと考えすぎてしまい、楽譜にかじりつくようにして演奏してしまったため、納得のいく演奏とはほど遠いものになってしまった。他の受講生の演奏を聴いていて感じたことだが、どの受講生も堂々と演奏していて自分の音楽を魅せる力があった。しかし私は緊張した時に縮こまってしまい、自分の音楽がなくなってしまっていると感じた。このままでは『聴いてくれる人に何か感じてもらえるような演奏をすることができない』と悔しい気持ちになった。
オーディションの結果、アドリアン先生のクラスからは高校生の受講生が選ばれた。彼女の演奏は、自分の世界があって、聴いている人を惹きつけるものであった。演奏を聴いた時にこの高校生が選ばれるだろうと思っていたので納得できた。
私の演奏に対する先生からの講評は、「1番というプレッシャーもあったと思うが、とても怖がっているように見えたし演奏もそうだった。音程もあまり良くなかったね。それからヴィブラートが気になった。レッスンでは君に良い印象を持っていたから、オーディションの演奏はとても残念だった。」というものだった。自分でも感じていたことだったので、先生の講評はとても納得できたし、今後私が人前で演奏する上での大きな課題だと思った。また、ヴィブラートについては以前他の先生からもご指摘いただいたことがあったので、これからもっと研究していかなくてはならないと改めて感じた。
コンサート
受講期間中は全部で3回コンサートがあった。そのうちの2つは先生方によるコンサートで、とても素晴らしいものだった。音色も表現も音楽の流れも聴いていて心地よく、私も先生方のように、聴いている人に心地よいと感じてもらえる音色、表現力等を身に付けたいと強く思った。3つ目のコンサートはオーディション合格者によるプレミアムコンサートだった。どの受講生も楽しそうに演奏していて、聴いていて私も楽しい気分になれた。そして、私より年下の受講生が選ばれ、堂々と自分の音楽を表現しているのを見て、私ももっと頑張らなくてはと刺激を受けた。
研修を終えて
このアカデミーに参加して、レッスンやコンサート、他の受講生との交流を通じて沢山の良い刺激を受けることができた。今まで私は演奏が上手くいかず、このままではいけないとわかっていても、どこをどう直したら良いのか、何が足りていないのかがあまり明確になっていなくてとにかく不安だらけだった。しかし、レッスンやオーディションで自分に足りないものに気付き、これからの課題が今までより少し明確になり、より一層頑張ろうと思えた。受講期間は5日間であっという間ではあったが、音楽について様々なことを勉強でき、とても楽しく充実した時間を過ごせた。このアカデミーで感じたものを、これからも忘れずに音楽と向き合っていきたい。
最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えて下さった、学生生活委員会の先生方、学生支援課の皆様、熱心にご指導下さる先生方、いつも私を支えてくれる母や友人に心より感謝申し上げます。この経験を少しでも多く、演奏に生かしていけるよう努力していきたいと思います。本当にありがとうございました。