国立音楽大学

クールシュヴェール夏期国際音楽アカデミー

松田 萌  4年 演奏学科 弦管打楽器専修(クラリネット)

研修概要

  1. 研修機関 クールシュヴェール夏期国際音楽アカデミー
  2. 受講期間 2011年7月31日~8月11日
  3. 担当教授 ジェローム・ジュリアン=ラフェリエール教授

研修目的

大学に入学してからフランスという国に興味を持つようになり、徐々に『留学』を考えるようになった。とは言っても実際フランスがどのような文化を持ち、人々はどのように暮らしているか。そして何より、フランスの人たちがどのような音楽を奏でるのか、検討もつかない状況だったので学生のうちに現地で習得し、将来設計に役立てたいと思った。また、自分自身の語学向上のためとても大きな刺激になると考えた。

研修内容

レッスン

この講習会では1日おきで計5回のレッスンを受けた。

第1回: Debussy 「Premiere Rhapsodie」

講習会場が標高1850メートルの所にあるため、日本にいるときより息が全然もたず、リードも順応していなく最初は思うように吹くことができなかった。でも、先生はあえて苦しい曲を最初に選んだことを褒めてくださって少し気持ちが落ち着いた。先生はこの曲を大変細かく指導してくださった。テーマに入るまでに時間の半分を使うほどだった。まず、楽譜に書いてある強弱記号を忠実にすること。そしてテンポ設定を改めることでブレスの位置を理想的な場所でとる。(この日は思うように息が続かなかったが…)そして、指回しの練習方法を教わった。たくさんの音を一気に練習するのでなく、2個ずつのインターバルを練習し徐々に音を増やしていく、という方法で次回までに練習するようにと言われこの日のレッスンは終了した。

第2回: Debussy 「Premiere Rhapsodie」後半部分

この日はアンブシュアについて学んだ。まず、アンブシュアの変更は若いうちにしかできず、私の年でもギリギリだと言われた。具体的な改善方法はあごをもう少し張り、下唇をだすと言うこと。これはその場ですぐにはできないことだから、今後このことを意識して改善を試みることにする。

もう一つ改善しなくてはいけないのは「指」である。私は常に高い位置に指がある状態で早いパッセージ等を吹いているから動きに無駄があると指摘された。この練習方法は、スケール等をなるべく全ての指を押さえたまま吹くと言うことであった。(もちろん変な音がでてしまうが、それで構わないから。)これは毎日の基礎練習に取り組んで練習すればすぐに改善されるから、講習会期間に少しでも練習の成果がでればいいなと思った。

この日は、曲ではなく基礎的な事を中心にレッスンをしていただいた。

第3回: Stravinsky 「Three Pieces」/Debussy 「Premiere Rhapsodie」 伴奏合わせ

この日は1時間のレッスン時間を30分ずつに分けて午前と午後で2回行った。午前中はストラヴィンスキーを見ていただいた。

Ⅰは、とにかく譜面に書いてあることに忠実にと言われた。Ⅰはコンマ(ブレスマーク)が所々に書いてあり、そこでは息がまだ足りてても隙間を空けなくてはいけない。楽譜の最初のページに英語で説明書きがあり、そこには「ブレスマーク、アクセント、速度表示は厳密に守るべき」と記されていた。あと、Ⅰの最後のフォルテは汚くならないようにと言われた。

そして、「あなたは音楽性は優れているのに指に問題がある」と指摘を受けた。逆に言えば指をもっと練習すればもっともっとうまくなると言うことらしい。だから、先生はたくさんの練習方法を教えてくださった。これを元に自分で練習方法をあみだしていけるようにしなくてはならない。

午後のレッスンでは伴奏者との合わせのレッスンだった。まず言われたのが、合わせのときにお互いのテンポ感が合わなかったときはちゃんと態度で示さなくてはならないと言うこと。

伴奏者もフランス人でなかなかコミュニケーションがとれないなか、言葉が喋れなくても自分がやりたい音楽を表現する事はすごく難しくて悪戦苦闘した。だが、やはり本場の音楽性を持っている人たちに囲まれながら演奏するドビュッシーは今まで経験した事のない感覚ですごく心地よかった。

この曲はピアノとの音程が非常に重要で、クラリネットは高い傾向にあるからマウスピースと樽の間を抜くといいと教わった。

第4回: Debussy 「Premiere Rhapsodie」/Stravinsky 「Three Pieces」

伴奏合わせのレッスンをふまえて、ドビュッシーの最後のページをやる事になった。この期間中に何回も指が回っていないと言われているのに、わかっているのにレッスンで成果が出せずすごく悔しい。

でも先生は、3日後にコンクールがある訳ではないのだからゆっくり自分のペースで練習しなさいと言ってくださった。1日1メモリずつテンポをあげていけば10日で10もテンポが変わるじゃない!日々の練習がどれだけ大事かを教えてくださった。

ストラヴィンスキーでは、最終日にある受講生コンサートにこの曲で出演する事になったから細かく見ていただいた。

Ⅲは、楽譜上のミスがいくつかあるのでそこを正してもらうところから始まった。この曲に関してはプロの演奏を聴いてもその演奏が正しいとは限らないから楽譜に書いてある事を信じて吹くこと、と言われた。テンポを遅くして吹いたが、そのときに苦しいけど口をしめないようにすることが大事。ロングトーンをしているときは口がしまらないで吹けるだろうが、この曲みたいに早く勢いのある曲を吹くときは細心の注意が必要。

第5回: 最後のまとめ

この日のレッスンは最後のまとめとして、アンブシュアの形の確認、ストラヴィンスキーコンサート前のおさらいをしていただいた。アンブシュアは高い音の跳躍をしたときに崩れないようにする。口で吹くのではなくお腹を使って吹く事を意識する。そうしないとせっかく良いリードを使っていても良い音色がでないのではないかとおっしゃっていた。あと、リードの付け方も重要でちゃんとまっすぐつけないといけない。太陽の光(自然の光)でリードをつけたらまっすぐつく。

これからの課題として、まず暗譜の習慣をつけること。そして、20世紀の現代音楽をたくさんやらなくてはいけない。日本はかなり遅れているとおっしゃっていた。ストラヴィンスキーはもちろん20世紀を代表する作品だが、もっと今に近い作品を勉強する事でプラスになることがたくさん生まれる。特に、ドナトニ、ブーレーズ、ベリオは絶対にやらなくてはいけない。そして21世紀の作品(ベルクなど)もたくさん触れていくように、と今後の課題を言っていただいた。

次の日の午後、受講生コンサートでストラヴィンスキーを演奏し、先生も聴きにいらしていただき、「とてもよかったよ」とお褒めの言葉をいただいた。夜には、先生と受講生で送別会を行い講習会を終えた。

レッスン以外の過ごし方

この講習会では一日おきのレッスンであった為、レッスンがない日は練習はもちろんの事、他の楽器のレッスンを聴講した。

私のルームメイトがピアノの方だったため、そのクラスの聴講をすることにした。たまたま聴講したときは全員日本人の生徒であったが、どの人もレベルが高く驚いた。

一番衝撃的だったのがラヴェルの道化師の朝で、コンサートでもないのに先生がワンフレーズ弾いただけで涙がでてしまうほどであった。生徒もこの短時間でたくさん吸収したいという意欲がにじみ出ていてレベルの高いレッスンを繰り広げていた。

私はその空間にいられたことで満足であったと同時に私もこんなレッスンをしていただけるように頑張らなくては、と刺激を受けた。

その他にも、私が知らない曲をたくさん聴く事ができたのでとても勉強になった。ピアノは息を使って吹く楽器でないけれど、呼吸の仕方ひとつで音楽がかわっていくのだと言うことを改めて認識する事ができた。

講習期間中の過ごし方は、とにかくたくさん歩いた記憶がある。会場が山の中にあるいくつかのホテルで行われていたため、レッスン会場、食事をする所、寝る場所等の場所がすべて異なっており毎日これらの会場を往復していた。近くのスーパーに買い出しに行くときも山を一つおりなければならないため、東京の生活とはまるで異なった。気候も過ごしやすかったため、私はこれらの移動の他に毎日一時間ほど近くを散歩していた。おかげで、日本に帰ってきてから以前よりも息が続くようになった。夜には満点の星空が見え、東京よりすごく不便な生活だったのに、そんなことなど思いもせず毎日有意義な時間を過ごす事ができました。

コンサート

一日おきに、講師陣によるコンサートが行われた。絶対に他では見る事ができないメンバーで室内楽を演奏してくださったり、ソロを演奏してくださったりすごく楽しかった。

特に印象的だったのは、ハープのソロ演奏だった。私は普段ハープはオーケストラの中や吹奏楽の中でしか聴く機会がなかったため、初めてソロ演奏を聴いた。きれいで優雅なハープの印象を待っていたが、そのときはダイナミックで情熱的な曲を演奏していて印象を覆された。ハープについてどんどん興味が沸く演奏会となった。

そして、ジェロームは私の大好きなMozartの「クラリネット五重奏」を演奏してくださった。お世辞にも音響が優れているホールではなかったし、山の中だけあって虫がたくさん飛んでいたりする環境の中で完璧な演奏をしてくださったジェロームに感服した。こんなに素晴らしい先生に教われる喜びを感じた。

私もどんなコンディションであっても常に完璧な演奏ができるように日々の練習を怠らずコツコツ努力しなければならない事を痛感した。

研修を終えて

今回初めてフランスに行き、フランスの音楽を学んだが、とても刺激的な日々を送る事ができた。

講習会の特徴上、日本人が多くなかなかたくさんの国の友達を作る事は難しかったが、留学中の日本人からフランスの学校の情報や生活等、様々な話を聞く事ができた。

やはり言葉というのは自分で想像していたよりも重要で、幾度も「あ~〇〇がフランス語で言えれば良いのに」と思った。だから、留学を本気で考え始めたときに、まず語学を最優先にして学ぶ事が大事だと思い知らされた。

レッスンでは、すべてフランス物の曲を見ていただいたが、フランス人独特の感覚というのを間近で感じる事ができよかった。これはクラリネットだけではなくである。聴講に行ったピアノのレッスンでも強く感じた。そのレッスンではラヴェルの道化師の朝を弾いていたが、先生が演奏するラヴェルは今までに聴いた事のない演奏でフランスならではのリズム取りがすごく衝撃的だった。

他にも、一日おきで行われた先生方によるコンサートでも様々な国の曲を演奏していたがどの曲を聴いても衝撃をうけ、世界は広いのだと思い知らされた。

この先ずっと、この講習会で身に付けた事を軸に飛躍していきたいと思った。

最後に、このような機会を与えてくださった大学関係者の皆様、いつも親身になって支えてくださった学生支援課の皆様、ご指導してくださった先生方、支えてくれている家族、友人に心より感謝申し上げます。

この事が将来の糧になるよう、日々精進していきたいと思います。

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