国立音楽大学

リエクサブラスウィーク

弘中 優大 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(ユーフォニアム)

研修概要

  1. 研修機関 Lieksa Brass Week/国際ユーフォニアムコンペティション
  2. 受講期間 2011年7月20日~7月30日
  3. 担当教授 B.Bowman, T.Flaten, J.Myllys, S.Sykes, H.Lidsle, R.Ampuja

研修目的

金管楽器のアカデミーやフェスティバルは世界的にみてとても珍しいものである。さらには今回2回目の国際ユーフォニアムコンペティションが開催されるということで参加を決めた。世界各地の有名講師陣をはじめ、各国際コンクールで多くの入賞を果たしている奏者、ユーフォニアム以外の有名音楽家が一同に集まる音楽祭・コンペティションに参加することにより、自らのスキルアップを目指し、また卒業後の米国への留学に向けて様々な国の音楽に触れモチベーションをより一層高めることが研修の大きな目的である。普段触れる事のない音楽や文化、各国の参加者と交流することで自分の視野を広げたいという強い思いを持っていた。

研修内容

国際コンペティション

国際コンクールへの参加は今回で2回目であった。昨年は済州島で行われたブラスコンペティションでセミファイナルまで進むことができたが、今回のコンペティションは世界各地の有名奏者が多く参加し激戦が予想されていた。学生として参加したのも私をはじめ国立音楽大学の学生と他国の学生数人であった。

1次予選の課題曲は2年生の後期に取り組んだヴィヴァルディのチェロソナタ6番と新曲のスリーユーフォニックス。事前の伴奏合わせのピアニストはフィンランドで有名で多くのプロ奏者と共演しているカリ氏で緻密な充実した合わせを行うことができ、演奏に対しての不安がなくなった。私の出番は2日に渡って行われる1次予選の初日の最後から2番目。昨年も日本人最後の出番だったので、その経験を活かし、しっかり集中し本番に向けてモチベーションを高めることができたと思う。本番は落ち着いて演奏することができたが、自分の不得意な p や pp の表現が上手くできなかったのが大きな反省として残った。結果は翌日発表なのでその日は1次予選を終えた参加者と夕食を共にし、残りの時間を過ごした。

翌日はコンペティション会場に足を運び他の参加者の演奏を聴き、各国奏者の様々な演奏表現から多くのことを学びとった。その後リエクサの音楽学校の教室で第一次予選の結果発表が行われた。結果は予選通過ならず。日本人は卒業生で米国アラバマ大学大学院に留学している安東京平さんが唯一2次予選へと駒を進めた。それから各講師陣から講評やアドバイス、手ほどきを多く受けた。

アメリカのB.Bowman博士からは「フォルテの表現と豊かな音色はいいが全体を通してすこし音量が大きい為優しい部分が成り立たない。日本人は丁寧に構成をしていてとても良いと思うが国際コンクールという舞台ではもっと個性的かつ魅力的な表現技法を用いなければならない。」という言葉を頂き、楽譜に示されていることを無難に吹くだけでなくもっと自分の解釈を明確にし、自分の表現として演奏しなければならないことを痛感した。

地元フィンランドのJ.Myllys氏からは「フォルテは素晴らしい。場面展開をもっと明確に。無伴奏の曲ではフレーズ間に間合いをとることはとても効果的だが曲全体の曲想が失われてはいけないしコンクールでは大きく評価が分かれるだろう。決められた枠組のなかでいかに美しく誰が聴いても良い音楽を奏でる事のできるように。」とのアドバイス。今回スリーユーフォニックスではオリジナルの表現法として間合いを上手くつかい表現しようと練習を積み重ねてきたのだが、コンクールであるが故に評価されない表現も多くみられてしまった。国際コンクールではいくら面白い表現法を用いても万人受けしないといけないことを学んだ。

ノルウェーのユーフォニアム奏者のT.Flaten氏からは「力強い表現は好感が持てるがもっと差をつけよう。せっかくフォルテが良いのにそれではもったいない。ペダルトーンになるとアンブシュアがゆるむ時があるので注意してすべての音がムラなくきれいに響かせる事のできるように。」とのアドバイスを受けた。T.Flaten氏の演奏は直前にCDを聴いた事があったがとても力強く、かつ繊細な表現で魅力的な演奏だった。人柄も同じ様にとても温かみのある方で丁寧にアドバイス、指導をしてくれた。自分の弱点を克服するにはこのような練習をしたら良いと具体的に手ほどきも受け、とても勉強になった。

最後に講評を伺ったのはイギリスの金管バンドのチューバ奏者のS.Sykes氏。「ヴィヴァルディの冒頭がとても感動的だった。君の事はすごく印象に残っている。とても豊かな音色で私の好みの音色だがやはりフォルテが主張しすぎていた。もっと p を大事にしないと。日頃大きい声で喋るんじゃなくて小さい声で喋るんだよ!」と笑いながらアドバイスをしてくださった。Sykes氏は私の演奏をすごく評価してくださり、お褒めの言葉をたくさん頂いた。その後も町やコンサート会場で会うたびに私のことを気にかけてくださりいつも声をかけてくださった。

コンクールの結果は残念なものに終わったが多くの参加者がいる中で印象に残る演奏ができたのは今回の一番の収穫であったと思う。またそれと同時に私の演奏の弱点「p の表現」「明確な展開」「ペダルトーン」がさらに浮き彫りになり、今後の課題が多く見つかった。管楽器奏者にとってfを出すのは比較的容易だがp の美しい表現は本当に難しいと感じた。またユーフォニアムは響きが多くもやもやすることがよくあるので、それを感じさせない明確さやペダルトーンの正確性など私の演奏の問題点を克服しなければ世界では通用しないことを思い知らされた。

講師陣からたくさんのアドバイスを受けた後は2次予選に駒を進めた安東さんの練習を聴講させて頂いた。2次の選択曲は安東さんと同じ曲を選んでいたので聴いていて「このような表現もあるんだ。」「心に響く演奏だなぁ。」と様々な事を感じる事ができ、逆に安東さんから「ここの部分はどうしたら良いと思う?」とアドバイスを求められたりして、音楽についてたくさんのことをお話させていただくことができた。

2次予選は1次予選の3日後に同じくカルチャーセンターというリエクサ市内のホールで行われた。2次予選に駒を進めた8人の演奏を聴いたが同じ曲でも様々な表現があり驚きや発見がたくさんあった。大胆すぎるように思えた表現も全体を通して振り返るととても素晴らしい構成になっていたり、考えられた魅力的な演奏を多く聴く事ができた。結果は安東さんとアメリカ人のグレッグ、ベルギー人のグレンが本選に駒を進めた。それから2次予選で落選してしまったが昨年の済州島コンペティション1位のスペイン人のジョセフと話をする機会があったのだがとても勉強熱心なことに驚いた。日本の弓道からヒントを得て本番までの集中力の高め方に工夫をしたと話していた。私も海外の奏者からたくさんのヒントは得てきたが、文化のことを演奏に結びつける事はあまり思い浮かばなかった。ジョセフの話を聴いてとても素晴らしいと感じたので、私も文化や音楽以外の分野にも注目してそのことを自分の演奏に結びつける事ができるようにしたいと強く思った。

2次予選の翌日には音楽学校でB.Bowman氏によるアンサンブルのクラスが開講された。今までユーフォニアムのアンサンブルは何度も取り組んできたが海外の奏者と一緒に演奏するのは初めてであった。アンサンブルをする上で大事な事をたくさん学んだ。各国の奏者でそれぞれ癖や独特な歌い回しがあるというのも発見し、吹いていてとても楽しかった。初めて取り組んだ曲ばかりだったが、さすがは国際コンクールに参加するレベルの奏者が揃っていてとても有意義なレクチャーであった。レクチャー終了後、B.Bowman氏が誕生日を期間中に迎えられたのでみんなでお祝いし、私は日本から持ってきた扇子をプレゼントした。とても嬉しそうにしてくださり、先生の温かい人柄にとても惹かれたひとときであった。

さらにその翌日27日には本選出場者のバンドリハーサルを聴く事ができた。場所を教会に移しさらに響きのある会場での演奏となったがどの奏者もバンドと緻密なリハーサルを行いさすがだと感じた。ベルの向きや身体の使い方、バンドとの合わせ方。なかなかユーフォニアムのソロのバンドバックのリハーサルを聴く機会はないのでとても貴重な体験をすることができた。そして28日の本選では安東さんが3位、グレッグが2位、グレンが1位という結果になった。本番でも魅力的な演奏を聴く事ができ彼らの素晴らしさに感動した。

今回私は1次予選で敗退という悔しい思いをしたが、昨年の国際コンクールよりもすばらしい体験を多くすることができた。多くの審査員から今後につながる具体的なアドバイス、手ほどきを受けたり、アンサンブルレッスンを受けたり、リハーサルを間近で聴く事ができたり数えきれないほどの経験をした。私は卒業後は留学し、将来的には地元の九州・山口で活動したいと考えているが、これからのことについてしっかり考え、自分の視野を広げる事ができたと思う。今後ともこの経験を活かし精進していきたい。

ブラスウィーク

ブラスウィーク期間中はリエクサ市内の至るところで様々なコンサートが行われていた。ユーフォニアム協奏曲の初演やイタリアのゴマランブラスクインテットの魅力的な演奏、トランペットの名手アレン・ヴィズッティ氏の演奏をはじめ多くの素晴らしい演奏に毎日触れることができた。どの演奏会にもたくさんのお客さんが集まり賑やかだった。また演奏会の他にもブラスウィーク参加者と食事にいったり、湖にいったり、一緒に練習をしたりと毎日がとても充実していて、海外の演奏を聴いたり、参加者と話していると本当に音楽に夢中になれて幸せだった。日本での学生生活はどうしても音楽以外のことで時間に追われたり、独特の忙しさがあるがこのように海外でのびのびと音楽に打ち込めるのはとても有意義であった。海外でも学んでみたいという気持ちがより一層強くなった。

研修を終えて

今回研修奨学生として参加することができとても感謝している。非常に有意義な日々を送ることができた。今回のブラスウィークで昨年出会った仲間と再会したり、新しい仲間と出会って、その仲間たちとの交流からはとても良い刺激をたくさん受けた。自分の視野を広め、自分をみつめ直しこれからの練習の仕方や本番への持っていきかたについてすごく考える事ができた。日頃は日本人に囲まれて生活しているが、国境を超えて様々な国の人と一緒に過ごすのは本当に楽しかった。講師陣からも様々な意見やアドバイスを頂き、海外でもっと勉強してみたいという気持ちがより一層強まった。金管楽器はこのような音楽祭や世界的な交流の場が多くはないのでどうしても他の分野に比べるとチャンスは必然的に少ないがこのような音楽祭には今後も積極的に参加していきたいと思う。レッスンやコンペティションだけでなくたくさんのコンサートなどで様々な視点から音楽についてたくさんのことを感じ、学んだ経験を活かし今後の進路に向けて頑張っていきたい。

最後にこのような貴重な機会を与えてくださった大学関係者の皆様、学生生活委員会の方々、学生支援課の方々、日頃からお世話になっている先生や友人、先輩や後輩、そして家族。皆様のおかげで充実した日々を送る事ができ、無事研修を終える事ができたことを心より感謝いたします。本当にありがとうございました。

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