浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバル
白柏 幸恵 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(フルート)
研修概要
- 研修機関 浜松国際管楽器アカデミー
- 受講期間 2011年7月30日~8月3日
- 担当教授 アンドラーシュ・アドリアン教授
学生及びプロの演奏家を対象に開かれ、本年、第17回を迎える。世界的なアーティスト13名の教師陣によるハイレベルな個人レッスンを受講することができる。さらに、会期中に開かれるガラコンサートは世界一流の演奏家による管楽器を中心とするここでしか聴けないものとして、高く評価されている。
アドリアン教授はブダペスト生まれ、コペンハーゲン育ち1974年以来ミュンヘン在住。最初は歯科を学び1968年歯科医の資格を取得した。フルートはオーレル・ニコレ、ジャン・ピエール・ランパルに師事した。1987年からはケルン音楽大学教授、1996年からミュンヘン音楽大学で教鞭をとっている。
研修目的
私がこの浜松国際管楽器アカデミーに参加するにあたり、音楽の都である浜松で日本にいながら世界各国の名プレーヤーからレッスンを受けることが目的であった。また、審査を受け、日本全国から選抜された受講生達の中で学ぶことは、新たな飛躍につながる。
研修内容
レッスン
第1回 カルク・エラート/ソナタ アパッショナータ
まず通して演奏し、「エラートは奏者にやってほしいことを全部書いているよ」と仰られて冒頭からエラートが記した細かな速度表示、ニュアンス表示を先生と一つ一つ確認することからレッスンは始まった。一通り調べてあったが、先生と確認していくと辞書の意味とは微妙にニュアンスが違っていて、今までの曲のイメージと違い少し動揺してしまった。 同時に日本人との感覚の違いをとても感じた。「表示されていることが速度のことなのか、ニュアンスのことなのかよく考えて」との指摘を受け、冒頭からワンフレーズずつ速度とニュアンスを確認しながら進んだ。この曲は「アパッショナータ」という名の通り、とても情熱的で人間的な感情の変化を感じる場面が沢山ある。しかし私は、ニュアンスが変わる時に速度まで変えてしまっていた。先生は「atempoはメトロノームのように正確に」と仰られて最初はあまりにもカチカチっとしていて機械的なので違和感を感じたが、レッスンの最後に先生が仰ったことに気をつけ、もう一度通してみると出るべきところは出て、引き締まる部分は引き締まりとてもスッキリした演奏ができた。「アパッショナータ」だからといってただ激しく吹く、自由に表現するだけでなく縦横、高さ、深さがきちんと定まった中で演奏する難しさと大切さを改めて感じた。
第2回 J.ムーケ/フルートソナタ「パンの笛」 第1・2楽章
第1楽章
レッスンが始まり、演奏し始めた時伴奏のピアノとテンポがなかなか合わず違和感を感じていると「stop、ちょっとテンポが合わないね。テンポをどういう感じにしたい?」と先生。私はもう少し流れるように今より速く吹きたいと答えると、「僕は早すぎだと思うけどな。試しに少し遅く吹いて!」と言う。テンポ表記は2/2拍子Allegro giocoso二分音符=80で快活なイメージがあったので先生が仰るテンポに戸惑いつつ吹き始めると、だんだんと慣れてこのテンポの方がよりじっくり歌えるしアピールできることが分かった。中間部の細かい動きのところでは「鳥が飛んでいるように吹くんだよ」と具体的なイメージを持って吹くことで、ただ指を正確に動かし音を並べるだけになりがちな細かなパッセージも、とても音楽的なフレーズを感じることができた。また、tr(トリル)の感じ方や練習方法を教えて頂き、今まで苦手意識のあったtrも克服でき、美しいtrを体得できるかもしれないと思った。
第2楽章
鳥のさえずりを表したこの楽章では、主にアウフタクトのとり方、ピアノとのかけあい等自然に音楽が流れる方法を教えて頂いた。特にゆったりとしたテンポ、Pでロングトーンでフレーズが終わるところが多く、ピッチのとり方が難題であった。先生は「オウカクマク!(横隔膜)」と日本語で仰りながら注意を促して下さった。常に意識はしていたが「もっと深く」という指示のもと、さらにお腹を意識して吹くと、「ほら、こんなに良い音でできる」と自分でも音が力強く、安定して伸びやかに響いていると実感した。
第3回 J.ムーケ/フルートソナタ「パンの笛」 第3楽章
3楽章を通して吹き終えると、「ブラボー!」と先生が仰ってくれた。正直、2回目のレッスンまで至近距離で聴講生がずらっと並んだ環境でのレッスンに緊張してしまい、なかなか思うような演奏ができてなかったので今回やっと楽しんで演奏でき、先生も楽しんでくれて嬉しかった。
この楽章ではアクセントをどのように強調すれば効果的か、またタンギングが細かいところではメンデルスゾーン作曲の「夏の夜の夢」のスケルツォを参照しながら教えて頂いたり、とても分かりやすく尚且つ楽に吹けるようになった。また、この曲でも表記されているニュアンスの辞書で調べた日本語での意味と先生が考える意味とで異なる部分があり、先生が仰る意味の方がとても腑に落ちる表現でよりハッキリと表現できるようになった。
第4回 W.Aモーツァルト/フルート協奏曲 ト長調 第1楽章
モーツァルトはとても細かく見て頂いた。「最初はティンパニを堂々と鳴らすように、そして2小節目は歌うように」と冒頭の2小節だけでもの凄いエネルギーと集中力を使った。ワンフレーズごとに進んでいき、基本的にモーツァルトは上向型、下向型で素直に強弱をつけること。ただしオーケストラとの兼ね合いで下向型の時にクレシェンドしていくところもあり、オーケストラの伴奏まで熟知した解釈に納得させられた。
最後にカデンツァを吹くと、「そのカデンツァは誰の?」と先生。私はアカデミーが始まる直前まで誰のカデンツァを持っていくか迷っていて結局ゲイリー・ショッカー作曲のカデンツァを吹いたのだった。先生はゲイリー・ショッカーと聞くなり「そのカデンツァなら吹かない方がいいよ。君が作曲したってことなら良いけどね。」と冗談まじりに仰った。今までカデンツァは自分で作ろうと思いながら作曲の知識が無いことを言い訳に後回しにしてきてしまったので、学生のうちに作曲科の生徒や先生に助言をもらいながら作ってみようと思った。
選抜オーディション
8月2日のプレミアムコンサートに出場するオーディションがフルートクラスは、工藤重典先生クラスとアドラーシュ・アドリアンクラス合同で発表会形式で行われた。受講生には、さまざまなコンクールで優勝され活躍されている方や、名前をよく耳にする方、すでにドイツやフランスで勉強されている方々に混ざり演奏をさせて頂くことは、とても緊張するとともに勉強になった。私は、J.ムーケ作曲「パンの笛」より第1楽章を演奏した。やはり、とても緊張したがレッスンして頂いた内容を思い出しながらこの曲の持ち味を表現したいという前向きな気持ちで演奏することができた。また、さまざまな方の演奏を聴き、それぞれの音楽、演奏スタイルを見て感じることができ、とても刺激になった。
発表会の後、余った時間でアドリアン先生がドイツから持ってきたアドリアン先生の師匠であるオーレル・ニコレや各国の名プレーヤーが集まったアンサンブルの様子が収められた貴重なDVDを鑑賞した。リハーサル風景も収められており、巨匠クラスの人たちの音楽に対して誠実で熱心で何度も何度も同じところを練習したりと、エネルギッシュな姿が映し出されていた。
このアカデミーで私が師事したアドリアン先生の師がフルートの神、オーレル・ニコレ氏であり、つながっていく師弟関係、人との繋がりにとても感動した。
研修を終えて
私がこのアカデミーで感じたことは、音楽に対する誠実な心、聴いてくださる方に対して感謝し、届けようとする気持ちがプレーヤーにとって一番大事だということです。勿論、レッスンでは解釈の仕方、テクニック、体の使い方、様々な表現方法を学ぶことができました。沢山の演奏を聴き、思ったことは、やはり1人として同じ音や音楽は無く、演奏する姿にはプレーヤーの精神、経験、感じてきたこと、何を思って演奏しているのか全てがさらけ出るということです。
最後のレッスンで先生はオーディションでの私の演奏を「良いパンの笛だったよ。ユキエはお客さんに聴かせようとする見せ方がとても良いよ。前に進もうとする力があるし、気合を感じる。どんなに偉い先生に習ってもそういうものは教えられないんだ。だから大切にしていきなさい。」と仰って頂いた。とても嬉しかったし、これまでどこか自信が持てずにいた自分の演奏スタイルや気持ちが間違ってはいないと思えた。指を正確に、音を間違えないで楽譜通りに演奏するということはもの凄く大切で基本ラインであると思う。ただ、それ以上に大切にしたいことは、どんな気持ちで何を伝えたいか素直で強い心を持つことであり、このような考えが生まれたアカデミーでの一週間を忘れずにいたい。
最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えて下さいました、学生生活委員会の先生方、学生支援課の皆様、いつも素敵な音楽の世界へ導いて下さる先生方、そして日々支えてくれる家族・友人に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。