ウィーン夏期国際音楽ゼミナール(オーストリア・ウィーン)
仁平井 彩圭 4年 演奏・創作学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:ウィーン夏期国際音楽ゼミナール
研修期間:2018年8月11日〜8月27日
担当講師:Wolfgang Watzinger 先生
ウィーン夏期国際音楽ゼミナールは、歴史と伝統のある講習会である。
ハインツ・フィッシャー氏の支援により開催され、ウィーン国立音楽大学を中心とした世界各国の教授が個人レッスンを行う。
研修目的
私はこの研修により視野を広げ、演奏の向上へ結びつけることを目的とした。また、ウィーンの地で生活することで、現在の語学力が専門分野と生活の両面において、どこまで通用するかを知り、不足部分を習得する機会としていきたいと考え、渡欧した。
研修内容
8月13日 第1回レッスン
Chopin, Frederic:Barcarolle Fis-Dur Op.60
セミナー初日。各担当講師の部屋に行き、自分のレッスンスケジュールを確認する。レッスン日は連日にならないよう組んであり、私の場合は初日から入っていた。
レッスン室のピアノはFazioliとBösendorferだった。
初回のレッスンでは、ショパンの舟歌を指導していただいた。
「楽器の弾き方については何も言うことはない。ただ、音楽の流れを壊さないショパンのルバートのかけ方というものをよく考えなくてはならない」とおっしゃった。強弱の付け方においては、pで弾いていたところを大きなクレッシェンドにするなど、私のこれまでの演奏解釈とは異なる演奏法に戸惑ったが、表現の幅を広げる方法とその可能性を知る。同時に、全ての音に意味を持たせて弾く大切さを改めて痛感した。ショパンの作品に表れている繊細さと気品さを表現できるよう、更に勉強していきたいと思った。レッスンの最後には、「あなたの他のショパン作品を聴くのが楽しみだよ」とのお言葉をいただけた。
8月16日 第2回レッスン
Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier Nr.28 A-Dur Op.101
この日はベートーヴェン ピアノ・ソナタ第28番の第1、2楽章を指導していただいた。「Gut,gut,gut!!」とおっしゃったあと、後期のソナタを弾くことの大切さと、この曲からベートーヴェンがシューマンのような書法を用いるようになったことを教わる。
私が表現を付け足すと、「君はなぜそうしたの?」とその理由を必ず聞かれ、その後先生の解釈を教えてくださった。小さな音量の和音であっても「響き」のバランスをよく考えて弾くことが重要だということ、そしてその練習法を学び得た。
8月20日 第3回レッスン
Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier Nr.28 A-Dur Op.101
前回のレッスンに続き、第3、4楽章をご指導いただいた。通して演奏した後には「Bravo!」とおっしゃってくださった。
和音の響きが変わるところを、どのように表現したら伝えられるかということを軸にレッスンが行われた。自分の中ではっきりと弾いているつもりでも、お客様の前で弾くときには更に意識して表現しないと伝わらないことを学んだ。また、和音の響きの作り方について、時間をかけてお教えくださった。
レッスンの最後には「とても、よかったです」と日本語で言ってくださり、とても嬉しく思った。
私は、Watzinger先生に選んでいただき、23日に行われる演奏会に出演できることが決まったと、レッスンの最後に伝えられた。ウィーンに住む方々の前で演奏できる機会をいただけたことは、とてもありがたく、本番に向けて身が引き締まった。
8月22日 第4回レッスン
J.S.Bach:Das wohltemperierte Clavier, 2 teil, 24 Praludien und Fugen Prelude und Fuge Nr.5 D-Dur BWV 874
最終回のレッスンでは、バッハの平均律第2巻 第5番をレッスンしていただいた。「Wunderbar!特に直すところは無い。フーガは特に気に入ったよ」とおっしゃっていただき、握手をしてくださった。バッハの音楽には、コンピュータのような動きの厳格な曲もあるが、この曲は違うということ、そして、この曲のプレリュードでは、踊りと動きの要素を表現することが大切だということを学んだ。「そこに意識を持って弾いてみても良いでしょう」とおっしゃった。
フーガにおいては、モティーフの最後の音への持って行きかたを教えていただいた。速い曲は「速すぎず、大きすぎず」、遅い曲は「遅すぎず、小さすぎず」弾くことが大切だと学んだ。
次の日の演奏会に向けて、前回指導していただいたベートーヴェンの終楽章を最後にもう一度聴いていただき、レッスンが終了した。
研修を終えて
ウィーンの地で、音楽を通して素晴らしい先生や友人と出会えたことは、貴重な経験となった。
はじめて教会のミサに参加したこと、旧市街から美しい夕陽を眺めたこと、美術館や宮殿で歴史を感じ、名だたる作曲家たちが住んだ家々に足を運んだことなど、この地で生活したからこそ学べた感覚がある。
セミナーの教授陣のリサイタルを聴いて深い感動を覚え、自身も出演させていただいたコンサートでは様々な国の受講生の演奏に刺激を受けた。
この研修を通して、さらに自分の演奏向上へのモチベーションが高まった。このような機会を与えてくださった国立音楽大学に、心から感謝している。
濵尾夕美先生のコメント
仁平井 彩圭さんは、ウィーン夏期国際音楽講習会に、「視野を広げ、演奏を向上させる」という目標を持って参加し、充実した2週間を過ごされました。Wolfganng Watzinger先生に、ショパン:舟歌p.60、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番イ長調Op.101、J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第5番ニ長調BWV874をご指導いただきました。舟歌では、流れを壊さないルバートのかけ方を学びつつ、全ての音に意味を持たせて演奏するということを改めて実感されました。ベートーヴェンでは、後期のソナタを弾くことの大切さ、和音の響きのバランスなどを、バッハでは、プレリュードに息づく踊りと動きの要素による表現を学ばれました。コンサートの出演者として選出され、成果を発表することもできて、本当に良かったですね。教授陣によるコンサートや様々な国の受講生との交流なども通して、多くの刺激を受けられました。演奏向上に向けてモチベーションが高まった仁平井さんの益々のご成長に心より期待しております。