ウィーン夏期国際音楽ゼミナール(オーストリア ウィーン)
八角 百香 4年 演奏・創作学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:ウィーン夏期国際音楽ゼミナール
研修期間:2018年8月11日~8月27日
担当講師:ヴォルフガング・ヴァッツィンガー教授
研修目的
研修の目的は音楽の都と呼ばれるウィーンの街で本場の空気に触れながらレッスンを受講したり、演奏を聴いたりすることでより豊かな感受性、音楽性、表現力、想像力を身に付けたい。そして演奏会の雰囲気、客席の雰囲気、レストランなどの身近な場所で自由に奏でられる音楽といったウィーンの音楽環境を知り、日本と何が違うのか、ウィーンに住む人々が生活する中で音楽はどう活きているのかを身をもって感じることで、「クラシック音楽が日本人にとってもっと身近な存在になる場所を作りたい」という夢を実現するための道しるべを探したいと思い、この講習会に参加した。
研修内容
第1回目レッスン(8月14日)
ベートーヴェン:ピアノソナタop.53ハ長調「ワルトシュタイン」第1楽章
まず1楽章を通してみようとおっしゃったので通して演奏するところから始まった。
この曲は「熱情」と並ぶベートーヴェンの代表曲ともいえる曲だとワルトシュタインの曲についてお話してくださった。お話の後、まず最も大切なことは「響き」であるとおっしゃった。特にペダルが多いという指摘を受けた。ペダルでつくる響きだけではなくペダルを使わずに出る響きを活かさなければならないということだった。私はペダルの使い方が勉強不足であり、苦手なことの1つだ。そのためペダルの使い方についても伺おうと思っていたが、ペダルは使わない方がいいとおっしゃったので驚いた。和音の響きはもちろんのこと、16分音符のパッセージ1つ1つすべての音に神経をとがらせて聴いて、響きのバランスを理解していかなければならないことを学んだ。特にスタッカートの付いているところはただ切ったり、ペダルを使って響きを作ったりするのではなく、打鍵したときに生まれる響きを聴いて打鍵の仕方を考えなければならないと指摘を受けた。全ての音を聴いているようで聴けてなかったことに気付かされた。
そして指使いについてもいくつか指摘され、指使いを変えただけで響きが変わるのが分かった。さらに姿勢についてもつい体が前に行き過ぎてしまい、体が表現を制限しているとおっしゃったので、少し思っているよりも後ろにして肩と腕の力を抜くように意識すると出したい音色が少し出せるようになってきた。練習の時から常に意識して体が覚えていけるようにしていかなければと、体の使い方についても改善点を見つけることができた。
第2回目レッスン(8月17日)
バッハ:平均律クラヴィーア第1巻 15番ト長調
リスト:歌劇「ファウスト」のワルツ(グノー)
まずバッハを通すところから始まった。プレリュードは小さなフレーズの頂点と大きなフレーズの頂点を意識して、風が舞うように軽やかで自然な流れで弾かなければならないと指摘を受けた。それは拍感にもつながることで頂点を意識し、流れるように弾くと2拍目の裏拍で入る伴奏も重くならなくなり演奏しやすくなった。そしてフーガは音価が長い箇所の響かせ方について指摘を受けた。メロディーの時、内声で響かせる時、クレッシェンドの時など声部やそれぞれの出したい音色に合った響きを探すことが大切であるという意味だと解釈した。16分音符の時は指を想っているよりもアクティブに動かさなければ粒が埋もれてしまうため注意しなければならないとおっしゃった。
次にリストを演奏した。最初に中間部まで通した。そして今一番習得しなければならないことは脱力の仕方だとおっしゃった。腕の力、手首の力を上手く脱力することで音のエネルギーとして役割を果たすことができる。今はまだ指の力だけで何とか弾いている状態で疲れやすく、音も汚くなると指摘を受けた。和音を弾くときにゆっくり1つずつ脱力しながら弾く練習が必要である。そしてテンポがどんどん速くなってしまうとワルツのリズムが感じられずもったいないとおっしゃった。それを改善するためにまず左のバスの音、つまり支えとなる音を把握し、しっかり弾ききることでずっと安定感が出てくる。そしてワルツの弱拍となるところが弱すぎるとリズムが偏って聞こえてしまうので弱くなりすぎず、音の粒をはっきり発音するように演奏することではじめてワルツのリズムを感じられるのだと気づいた。裏拍のリズムと左の安定感を出すための支えは何かを意識して練習することがこれからの課題となった。
教授コンサート(8月17日)
ピアノだけでなく歌やチェロの演奏を聴くことができた。特にチェロの演奏は奏でる音からだけでなく演奏している姿からも心から音楽を楽しんでいることが伝わり、とても心に響く演奏であった。そして指導してくださっているヴァッツィンガー先生の演奏も聴くことができた。p,ppの音がとても繊細でキラキラと輝くような音色で私もこのような音を出せるようになりたいと勉強になった。
第3回目レッスン(8月21日)
リスト:歌劇「ファウスト」のワルツ(グノー)
前回は大まかに見てもらったが、今回は1つ1つ細かく見ていただくことができた。まず1曲全てを通して演奏した。今回指摘されたことは音の汚さ、脱力の仕方、音の響かせ方についてであった。
音の汚さに関しては和音のバランス、上手く脱力ができていないにも関わらず全ての音をfで弾きすぎていることでたたいた音になってしまうことであった。さらにペダルが前の音にかぶり濁ってしまっていることが大きな原因になっていた。そしてそれはペダルが濁るだけでなく、ワルツのリズムが重くなってしまうことにもつながっていることがわかった。
脱力の仕方については前回のレッスン同様、肩や腕の力を手首の柔軟性を使いながら指に連動させ音のエネルギーを作り出せるようにならなければならない。そして姿勢も大きく関わってくる。一番楽に脱力させ、表現しやすい体の使い方を見つけることが課題であるとおっしゃった。
音の響かせ方については今は音を大きく出そうとするのではなく、音楽の流れや響きに音を傾けることが大切だとおっしゃった。今はfのところをしっかり弾くことばかり考えとにかく音を出さなければという気持ちが先走っていた。弾くことに必死になり自分の音を聴けず、響かせ方を考える余裕すらなくなっていたからであると改めて気付かされた。
fの難しいところばかりを練習するのではなく、全体通してコロコロと変わるキャラクターを把握しアーティキュレーションの変化をつけることで、ただ大きいのではなく優しい音色、軽やかな音色、pの音色など様々な音色を出せるよう自ら音の研究をしていくことが今一番大切なことであると課題を見つけることができた。もっと客観的に音楽を感じていかなければならないことに気付くことができた。
ヴォルフガング・ヴァッツィンガー教授クラスディプロマ授与、おさらい会(8月22日)
ディプロマをヴァッツィンガー先生から1人ずついただいた後おさらい会があった。クラスの中から5人が演奏することになっており、私はその中に選んでいただいた。
バッハの平均律グラヴィーア第1巻15番ト長調を演奏してねと前回のレッスンで言っていただいた。この曲は大学の前期試験で思うような演奏ができなかったので、ここでリベンジができると嬉しかった。私は3番目に演奏した。緊張していたがレッスンで指導いただいたことを直し、落ち着いて演奏をすることができた。
先生からも前回弾いていた時よりもずっと良かったと言ってくださりとても嬉しかった。
そして私は「本番では緊張して足に重心がいかなくなり、浮いてしまうのですがどうすればよいのでしょうか。」と質問した。すると2つアドバイスをいただいた。1つ目は椅子が低い、2つ目は上半身を動かしすぎるということだった。意外なアドバイスであった。このような基礎的で、演奏するための根本的な問題になぜ気付かなかったのかと思ったが、この2つは意識して練習していれば直すことができると感じた。本番に強くなるためにも早く直そうと思った。
第4回目レッスン(8月23日)
ベートーヴェン:ピアノソナタop.53ハ長調「ワルトシュタイン」第2、3楽章
まずは2、3楽章を通した。2,3楽章も1楽章同様、ペダルの注意があった。特にpやppの部分では多く踏みすぎず音の粒をはっきり聞こえるようにしなければならないことを指摘された。
次にfの時には指を押すのではなく、指の脱力をしてハッキリ発音することを意識して弾くことが大切だとおっしゃった。fの時は音を出そう出そうとしなくても上手く脱力すれば指のエネルギーで十分出ていることを認識できた。
さらに和音のバランスについては右の上の音だけ出せば良いのではなく、左の上の音もすべての音を大切に聴かなければならないとおっしゃった。やはりここでも響きが大切であるという意味であった。1つ1つの音色を聴いてどんな響きにするかどんな出し方ができるのか深く研究していかなければならないと思った。
4回のレッスンを経てペダルの使い方、自由な表現がしやすい姿勢を保つこと、肩、腕、ひじの力をぬいて指のエネルギーに変えられる脱力の仕方を考えること、1つ1つの音の「響き」を聴いて表現の幅を広げること、これらを学ぶことができた。
最後のレッスンまでとても有意義な時間を過ごすことができた。
参加者コンサート(8月23日)
ピアノ、声楽、ヴァイオリンと様々な演奏を聴くことができた。声楽は歌声だけではなく多彩な表現力で演じる方が多く、素晴らしい演奏だった。ピアノは多彩な音の響きで繊細なコントロールがとても勉強になった。そしてヴァイオリンは高い技術だけではない表現力まで兼ね備えた演奏にとても刺激を受けた。自分もさらに精進していかなければならないと気持ちも引き締まった。
濵尾夕美先生のコメント
八角 百香さんは、「ウィーンでの音楽環境を知ることで、日本人にクラシック音楽がもっと身近な存在になる場所を作りたい」という夢を抱き、ウィーン夏期国際音楽講習会を2週間受講されました。Wolfganng Watzinger先生に、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53、J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第15番ト長調BWV860、リスト:歌劇「ファウスト」のワルツ(グノー)をご指導いただきました。姿勢や身体の使い方、脱力の仕方などを課題とした上で、ベートーヴェンでは、ペダルを使わない響づくりを活かすことを、バッハでは、フレーズの頂点に向かう表現法や長い音価の響かせ方を、リストでは、ワルツのリズムの弱拍の感じ方などを学ばれました。一つ一つの響きを聴いて、表現の幅を広げていく実感も得られ、大きな収穫でしたね。教授陣によるコンサートや参加者コンサートを聴き、ピアノだけでなく、声楽やヴァイオリンなどの演奏にも刺激を受けられました。これからも八角さんが、夢の実現に向けて邁進なさいますようお祈りいたしております。