国立音楽大学

リリカイタリアーナ イタリア・ベルカントツアー(イタリア・ベッルーノ)

工藤 麻祐子 3年 演奏・創作学科 声楽専修

研修概要

研修機関:リリカイタリアーナ主催 イタリア・ベルカントツアー
研修期間:2018年8月12日~8月28日
担当講師:ウィリアム・マッテウッツィ先生

研修目的

今回の研修の一番の目的はより良い発声を身に付けることである。特に自身の課題として挙げられるのが高音を出すときの発声であり、常に力んでしまいがちであった。そういった課題の解決、ならびに発声の基礎をより確実なものにし、さらなる技術向上につなげることが目的である。
また私は入学当初より、イタリア歌曲やイタリアオペラのアリアを中心に学んでおり、語学もイタリア語を学んでいる。日常の中でイタリア語に触れ、またその文化などにも触れながら学ぶことで、作品への理解や、声楽の技術面のみならず、音楽表現に生かし、自分の音楽をより豊かなものにしたい。

研修内容

研修はイタリアの小さな田舎町、ベッルーノで行われた。ベッルーノはヴェネト州にあるヴェネツィアから電車で 2 時間ほど離れた山に囲まれた長閑な都市であり、その一角にあるホテルにてレッスンを受講した。レッスンは約2週間毎日、1日30~40分、通訳付きで行われた。ホテルの大きな部屋をレッスン室として貸し切って使用していたため、他の観光客へも配慮し、基本的に自分のレッスン以外音出し・声出しは不可というなかなか厳しい状況であった。しかしその分レッスンで極力すべて解決しようとより集中して臨めたように思う。 研修の講師はウィリアム・マッテウッツィ先生の他、レナート・パルンボ先生、ヴィンチェンツォ・ベッロ先生、ステファーノ・ジベッラート先生がいらっしゃり、各先生によって多少のレッスン形態の違いがみられた。

レッスン1日目

ホテルに到着してすぐ、新人のクラス分けオーディションが行われ、ホテルにあるホールで一人一曲歌った。私はモーツァルトのオペラ≪Idomeneo≫から「Se il padre perdei」を歌い、無事にウィリアム・マッテウッツィ先生のクラスに入ることができ、今年はマッテウッツィ先生のクラスの受講生は合計10人となった。
この日は時間にあまり余裕がなかったため、ホールで歌った曲の講評と発声のレッスンをしていただいた。やはり全体的に力が入ってしまっていたようで、決して押して力で声を出さないこと、やわらかい息を回すことを中心に発声練習を行った。

レッスン2日目以降

2日目以降は約40分のレッスンの中で最初に発声練習を重点的に行い、その後余った時間で曲を見ていただく形が基本になった。発声は「m」や「n」を使うことで頭に響くハミングのポジションを意識して歌う発声や、ポルタメントを用いてフレーズをつなげ、最大限にレガートで歌う発声などバリエーションは様々で、毎日違う発声だったと言っても過言ではないほど、様々なアプローチで教えていただいた。

特に斬新だったのはレッスンが始まって 1 週間経った頃、早口言葉による発声を行ったことである。私はそれまでのレッスンで体に力をいれすぎて息を閉じ込めないようにと何度もご指導いただいていた。早口言葉の単語の一つ一つを一生懸命発音することに集中することで、体に力をいれることを忘れ― もちろんいれてはいけないのだが―今まで出なかった高音が出るようになった。
また発声のみならず、アリアを歌っているときにも「Cammina!」「Nuota!」と先生の声がとび、レッスン室中を歩き回ったり、特に左肩に力が入ることから腕をぐるぐると泳ぐように回したり、あるいは前に前屈したりと体力をつかうレッスンであったが、その結果体がほぐれ、息が流れやすくなったのを実感した。
はじめは慣れない発声やレッスンに戸惑うこともあったが、ほかの受講生のレッスンを聴講することで先生の求めていらっしゃることを冷静に客観的に学ぶことができ、自分のレッスンと同じくらい他の受講生のレッスンの聴講は非常に勉強になり、有意義な時間を過ごせた。

また、いつまでも左肩の力が抜けない私に「歌を歌うというのは、声の響きもビブラートの質や幅も体もすべてコントロールしなければいけないのに、左肩さえもコントロールできないでどうするんだ。」「まずは左肩に力を入れないコントロールをしてみようよ。」とおっしゃった先生のお言葉で、いつまでも慣れないことを理由にしてはならないと私の意識が変わるきっかけになったように思う。
この研修のレッスンで見ていただこうと用意して持って行った曲はほとんど見ていただくことができた。以前にこの研修に参加したことのある上級生の方々から、先生がレッスンで歌う曲を提示してくださる場合もあると聞いていたためひやひやしていたが、私は自分の持ってきた曲でいかに良い発声で歌うかを追求することになった。
課題であった高音の発声は、発声練習で何度も用いたポルタメントを曲中でも用いて、低い音から高い音へ音が跳躍する場合は特につなげ、かつ軟口蓋を上げることを意識して歌うことで、力を入れずぶつけないで出す感覚をつかんだ。

また高音から低音まで、あるいはどの母音でも同じ響き、音色で歌うために「u」の母音だけで旋律を歌い、響きを集める練習を曲中でも何度も行うなどと、発声練習を応用させて歌うことで、徐々に正しい発声とそうでないものとの違いに自ら気付けるようになった。

ピアノ伴奏によるコンサートに向けて

この研修の最後には選抜者によるオーケストラ伴奏コンサートと受講生全員によるピアノ伴奏によるコンサートが用意されていた。私は残念ながらオーケストラ伴奏コンサートには出られなかったため、研修の終盤はピアノ伴奏によるコンサートに向けて曲を完成させることに集中した。
ピアノ伴奏によるコンサートの数日前に、マッテウッツィ先生からピアノ伴奏によるコンサートではソロで歌いたいか、あるいは誰かと二重唱にするか考えておくように言われた。ただしソロで歌うと決めた際には完成度の高いものを披露するようにと付け足されプレッシャーもあったが、自分の課題と最後まで向き合いたく、ソロで歌うことを選択した。なおかつ私の声のためになる曲を教えてほしいと相談し、決まった曲がトスティの「Speak!」だった。

それまで英語の曲には触れたことがなかったうえ、先に述べたように研修場所は、基本的に自分のレッスン以外音出し・声出しは禁止されていた。そのため、日本でしているようにレッスンに持っていく曲をひたすらに歌って練習するようなことはできなかったが、頭の中で何度もリピートし、レッスンでご指導いただいた際、その場ですぐに改善できるよう試みるなど、大変ではあったが日本ではできない良い経験、勉強になった。

研修を終えて

ピアノ伴奏によるコンサートを終えて
ピアノ伴奏によるコンサートを終えて

研修が始まって1、2日目はレッスンを受けるだけで精一杯でしたが、いつの間にか1週間、2週間と経ち、気づいたら終わっていた、というほどあっという間に感じました。時には今までやったことのない試みに困惑し、一人考え悩み、苦しんだこともありましたが、日本に帰ってきて改めて非常に多くのものをこの研修で学ばせていただいたことを実感しております。研修の最後には私の声のためにこれからどういった勉強をすればいいのか、マッテウッツィ先生がレッスン時間外にも関わらず、時間をとって親身に相談に乗ってくださる機会もあり、この 2 週間の経験すべてが間違いなく私の貴重な財産となりました。今回奨学生としてこのような機会をくださった皆様、ご指導いただいた先生方、そして支えてくださった方々に感謝申し上げます。今後さらなる成長を遂げ、より良い演奏ができるよう、日々精進して参ります。

久保田真澄先生のコメント

今回の研修では、日頃本校で勉強している時に感じている発声の問題点を改善すること、そしてイタリア語で生活することにより作品への理解を深め音楽性の向上を目標にしたようだ。
研修1日目にオーディションがあり、マッテウッツィ先生のクラスに入ることができ早速レッスンで発声を中心に勉強が始まり、以後毎日レッスンを受けたとのこと。その中で発声について毎回違うアプローチでレッスンを受け、戸惑うこともあったようだが先生とコミュニケーションを取りながら充実した2週間を過ごせたようだ。
研修の最後にピアノ伴奏でのコンサートでは、ソロで歌うか重唱にするかの選択を求められ、自分の課題に向き合うためにソロに決め尚且つ新しい曲に取り組み出演した。

練習時間という点では日本にいる時の様に自由に時間を取ることは出来なかったようだが、そのような不自由な環境だからこそ自分の頭でよく考え、一回のレッスンに集中出来たことは工藤さんを成長させてくれたに違いない。勉強に対する意欲もさらに増したとのこと。これから彼女の歌がどの様に変わってくるか楽しみである。

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