国立音楽大学

ニース夏期国際音楽アカデミー(フランス・ニース)

淺井 伽映 2年 演奏・創作学科 弦管打楽器専修(フルート)

研修概要

研修機関:ニース夏期国際アカデミー
研修期間:2018年7月25日~8月14日
担当講師:ソフィー・シェリエ教授 / クロード・ルフェーブル教授

研修目的

2人の教授のレッスンでは多様な楽曲からできるだけ多くのことを学び、自分の音楽の幅を広げたいと考えている。また、世界中から集まる受講生とコミュニケーションを取ったり、お互いの演奏を聴くなどしてたくさんの刺激を受けたい。さらに講習会からだけでなく、美術館や街並み、演奏会など様々な場所へ積極的に足を運ぶことで以前から興味のあったフランスの文化を全身で感じてきたい。

研修内容

7月30日 レッスン打ち合わせ / 7月31日 第1回レッスン(Prof. Sophie Cherrier)

Jacques Ibert / Piece

受講生は12人おり、そのうち日本人が4人、他にはフランスをはじめドイツやメキシコ、ロシアなど比較的偏りなく、様々な国から参加者が集まっていた。レッスンは1回45分で1人4回見てくださるとのことだった。マスタークラスのような形式で行われ、いつでも聴講できるようになっていた。この日は打ち合わせが終わったあと、そのまま他の受講生のレッスンが始まったため、すべて聴講した。聴講からも本当にたくさんのことを学ぶことができ、自分が持っていかなかった曲のレッスンも多く聴くことが出来たのでとても勉強になった。

レッスンは、フランス語にまだ自信がなかったので、英語でやっていただけることになった。曲を吹く前に先生と一緒にスケール練習を行った。そこではまずサウンドについての指摘があり、少し息の音が混ざりすぎているためもっと芯が通ったサウンドにするようにとアドバイスを受けた。その後、曲を前半部分まで吹くと、音楽の構成や雰囲気はとても良いと褒めてくださった。しかし、サウンドについてはスケールを吹いた時と同様に多くの指摘を受けた。まず口の形について紙にイラストを描いてわかりやすく教えてくれた。私の場合、口の穴が大きすぎてうまく息がまとめられていないので、もう少し口をすぼめるような感覚で吹くようにと言われた。そして一旦曲からは離れてソノリテを先生と一緒に練習した。良いサウンドに近づくまで何度も私の口の形を見て丁寧に教えてくださり、先生の透き通った綺麗な音色をよく聴いてそれに近づけるよう調節をした。なかなかこのレッスンの時間内だけではサウンドを変えることが難しかったが、良いサウンドを鳴らすときの感覚を少しつかめたような気がした。また、その練習方法として毎日やるように勧められたのが倍音練習だった。まず最低音のドを鳴らして、指を変えずに唇と息のスピードだけで倍音を順番に鳴らしていく練習法で、先生が吹くと一つ一つの音を的確に当てていて運指を変えて吹いているのではないかと思うほど美しかった。曲に生かせるように鏡を見ながらサウンド練習をしっかりしたいと思った。

8月2日 第2回レッスン(Prof. Sophie Cherrier)

Henri Dutilleux / Sonatine

レッスンはピアノ伴奏つきで行われ、まず一楽章のカデンツァ前までを演奏した。今回も音楽表現についてよりも、サウンドについてのアドバイスが多かった。特に1からのメロディーはもっと広がりを持って明るい音色で吹くようにと言われた。他にもところどころディミヌエンドに伴って音が痩せていってしまい、聴いている人に音楽が届かないことがあるため、曲の場面ごとに合ったサウンドの作り方を教えていただいた。私は今まで唇やその周辺に無駄な力が入らないようにとなるべく脱力した状態でリッププレートを口に当てていたが、ソフィー先生に見ていただくとそれだと緩すぎると指摘を受けた。またもっと「噛むような感覚」で吹くようにといわれた。そのイメージは私にとってすごくわかりやすく、その状態で吹いたときに一気にサウンドが変わるのがわかりとても感動した。
また、先生に良いと評価を得るときはいつも自分が思っているよりも大げさに表現したり、ピアノと表記がある時でも少し思い切って吹き込んでみたときだった。私は今まで音が小さく、音楽がこじんまりとしてしまうことが悩みだったが、今回どれくらい吹けばどんな風に聞こえるのかを感覚としてつかむことが出来て、もっと吹いても大丈夫という安心感のようなものを得られた。もっと自分の音楽を積極的に、大きく表現しようという自信につながった。

8月3日 第3回レッスン(Prof. Sophie Cherrier)

Claude Debussy / Syrinx

まず、最初の2小節間にある主題部分を何度もレッスンしていただいた。なるべくまっすぐ、シンプルにフレーズをつなぐことを意識するよう指摘を受けた。1小節目の3拍目で音を押してしまう癖があったため、そこを歌いすぎないように注意した。他のフレーズでも細かい部分ごとに歌ってしまうときがあったため、もっと大きくフレーズをとり、そのフレーズごとにメリハリをつけて演奏できるようアドバイスを受けた。またブレスの位置の指摘も多く受け、それを変えたことでより音楽のつながりも良くなり、改めてブレスも含めた音楽構成を考える大切さを実感した。そしてこの曲はピアノ表記がとても多く出てくるが、その場面にあった「ピアノ」の音色を先生の演奏から学んだ。先生は、音量はしっかりと出ているのに、緊張感のあるピアノや静けさのあるピアノなどを表現されていて、本当に美しかった。その演奏を間近で聴いて、できるだけ多くのことを学び取れるようしっかりと耳で覚えた。
まだまだこの曲に足りない部分はたくさんあったが、それでも私の音楽を褒めてくださり、ソフィー先生のクラスが毎年行っているティータイムのロビーコンサートでシリンクスを吹かせていただく事になった。当日は思った以上にお客さんが聴きに来てくださりとても緊張したが、吹き終わった後には先生に「ブラボー!」と言っていただくことができ、本当に嬉しかった。自分の自信につながり、とても貴重な経験となった。

ソフィー・シェリエ先生と
ソフィー・シェリエ先生と

8月5日 第4回(Prof.Sophie Cherrier)

W.A. Mozart / Konzert in G 1st mov.

前半部分を吹き終わったところで、またサウンドについての指摘があった。前回のレッスンよりも良いと言われることが多くなったが、もっと噛むような感じで吹いてとアドバイスを受けた。ただその時に、唇を横に引っ張って吹くのではなく、歯を上唇で覆うような感覚で吹くように言われた。そしてそれを意識したまま曲に戻って吹くと、最初に吹いたときよりも自分の音が遠くまで飛ぶように感じられて、サウンドが変わった感覚を得ることが出来た。また曲の細かい部分については、16分音符の早い動きの時に、埋もれてしまう音がいくつかあり、均等に音を並べるよう注意された。また短調に転調している箇所が何度か出てくるのでそこではその明暗の違いを音色でしっかり表現するよう指導していただいた。
また、早いパッセージではどの音が曲の進行にとって重要かを考え、その音をしっかりとらえて吹く事が大切だと改めて実感した。そしてレッスンの終わりには、もう一度サウンドの練習のことについて丁寧にアドバイスしていただいた。音楽が良いと言われたことはとても自信になったし、あとはサウンドを教えていただいた通りにしっかりと実践できるよう練習していきたいと思った。
ソフィー先生のレッスンではサウンドについての指導をたくさんしていただき、4回のレッスンを通して良いサウンドが奏でられた時の感覚をつかむことが出来た。また耳から得たことも本当に多く、言葉で表せないほどたくさんの刺激を受けた。この貴重な体験と、このとき得た感覚を絶対に忘れないようにしたいと心から思った。

8月6日 レッスン打ち合わせ / 8月7日 第1回レッスン(Prof. Claude Lefebvre)

Georges Enesco / Cantabile et Presto

レッスン室へ向かうと、先に打ち合わせがあるのかと思いきや、もうすでに受講生のレッスンがスタートしていた。その後は特に打ち合わせもなく、それぞれのレッスンの日程についてはすでに先生が決めてくださっていて、その日の朝にだれが何時にレッスンがあるのかを教えていただける形だった。この日は私のレッスンはなかったため、他の受講生のレッスンを聴講した。クロード先生はとても几帳面で厳格な方で、レッスンもすごく情熱的にされている印象だった。

クロード先生は英語があまり得意ではないとのことだったが、私に合わせて主に英語を使ってレッスンしていただいた。ただ、フランス語でレッスンしていただくときもあり、わからないときは聴講していたフランス語のわかる日本人の方に通訳していただいたりして、スムーズにレッスンを受けることが出来た。
まず伴奏つきで一度曲を通すと、ソフィー先生の時と同じく、音楽やその雰囲気についてはとても褒めてくださった。しかし、サウンドについては息の音が多く、まとまっていないと多くの指摘を受けた。やはり圧倒的に私に足りていないのが「サウンドを極めること」なのだと改めて実感した。先生の音はソフィー先生よりももっと音の芯をしっかり出して吹かれる方で、音楽表現も全く違っていてこんな表現もあるのかと、新しい刺激がありとても勉強になった。冒頭からカンタービレの部分をすべて吹いてくださり、耳からも多くの情報を得られた。この部分はもっとエレガントに、いろんな色を出して、とアドバイスを受けた。プレストからはもっと一つ一つの音をしっかり出すようにと指摘を受けた。プレストの冒頭は低音のレから始まるため、最初からしっかり音を鳴らすことに苦戦していたが、その部分についても丁寧に教えてくださった。

8月9日 第2回レッスン(Prof. Claude Lefebvre)

Frank Martin / Ballade

この日はピアノ伴奏なしでのレッスンだった。まず最後まで通すと、音楽が良く、あなたがこの曲が好きなのが伝わってくると褒めていただいた。まずカデンツァの部分について、ブレスの位置やフレーズのとり方などを教えていただいた。そしてカデンツァが終わった後のメロディーはあまりビブラートをかけず、影のような暗いイメージで吹くようにと言われた。そして、テンポの速い部分では、タンギングのことについてレッスンしていただいた。スラーでつながった早いパッセージの中に出てくるスタッカートがどうしても埋もれてしまう箇所がいくつかあったため、それをはっきりと吹けるようにと指摘を受けた。これはソフィー先生のレッスンの時にも感じたことだが、2人ともタンギングがとても美しく、音の発音が驚くほど綺麗だった。フランス語は特に子音をとても大切にしているため、それが演奏にも生きているのだと思った。この発音の綺麗さを私も習得できるように、先生の演奏を耳で覚え、今後の練習に生かしていきたいと感じた。

8月10日 第3回レッスン(Prof. Claude Lefebvre)

W.A. Mozart / Konzert in G 2nd mov.


まず1楽章を伴奏つきですべて通したのだが、とても良いと評価してくださり、そのまま2楽章を演奏し、主に2楽章をレッスンしていただいた。まず冒頭部分のメロディーについて指摘があった。この部分のアーテュキレーションは、はっきりと切って演奏していたが、もっと滑らかに、大きなフレーズでつながるようにとアドバイスを受けた。また、テンポも少し早めに吹くよう注意を受けた。そしてブレスの位置や、楽譜には書かれていないダイナミクスについての指導をしていただき、新しい刺激を受けることが出来た。特に44小節目の4拍目からは、ディミヌエンドをかけていき、そのあとのメロディーを繊細に、美しく吹くようアドバイスを受けた。今までは比較的明るめに、しっかりと吹いてしまっていたので、音楽を違う視点からとらえることができてとても面白かった。この曲の中では2楽章に足りない部分が多いと思ったので、このレッスンで言われたことを生かして練習を重ねていきたい。

8月11日 第4回レッスン(Prof. Claude Lefebvre)

J.S Bach / Partita in A minor

アルマンドを一度通すと、まずテンポが少し遅いとの指摘があった。また、アーテュキレーションをあまりつけずに演奏していたのだが、ところどころアーテュキレーションをもっとつけるように言われた。テンポが遅かったこともあり、細かく歌ってしまい停滞気味だったが、先生の演奏を聴いたりして、スムーズに音楽が進むよう改善することが出来た。コレンテは、アルマンドよりも良い評価をしてくださり、流れもとても良いと褒めてくださった。ただ、16分音符の中で曲の進行にとって大切な音をもっとはっきりと吹くようにと指摘を受けた。また転調によるメリハリが先生は素晴らしく、とても得るものが多かった。サラバンドは、まず最初の4小節を1フレーズとしてしっかりつなげるようにと言われた。また私はビブラートをかけすぎてしまうことがあったため、もっと真っすぐ、遠くに飛ばすようにイメージするようアドバイスを受けた。先生のピアノはとても透き通っていて、その音色で吹くサラバンドはすごく美しく、音楽も独特でとても新鮮だった。時間の関係で最後の楽章まで見ていただくことができなかったが、バッハはどうしてもクロード先生に見ていただきたい曲の一つだったので、とても多くのことを得ることができ嬉しかった。

レッスン以外の過ごし方

レッスンのない時のほとんどは聴講に時間をあてていた。聴講では客観的に見ることで、様々な演奏から自分の音楽につなげられることがたくさんあり、とても勉強になった。また、フランス語でのレッスンが多く行われていたため、語学の勉強にもなり、本当に充実していた。それ以外の時間では自主練習を行ったり、クロード先生の週では保都玲子先生という方がレッスンされているピアノ伴奏のクラスにソリストとして行かせていただいたりもした。保都先生のレッスンではフルートの曲の伴奏をよくレッスンされていたため、自分がソリストとしてレッスンを受けたときはもちろん、聴講していても、伴奏という違う目線からその曲について学ぶことができとても面白かった。

また3週目の時には、約1日おきにシミエ修道院という場所で野外コンサートが行われ、教授陣による素晴らしい演奏を聴くことが出来た。どの日も21時ごろから演奏がスタートし、終わるのは23時頃だったため、寮に戻るのは24時近くなることもあった。それでもほとんどすべての演奏を聴きに行き、音楽漬けの毎日を送った。特に印象に残っているのは主にソフィー先生が演奏されたコンサートで、1曲目のドビュッシーのシリンクスは本当に素晴らしく、ギリシャ神話の牧神の物語を一気に想像させられた。この感覚は今でも鮮明に覚えている。

研修を終えて

クロード・ルフェーブル先生と
クロード・ルフェーブル先生と

この2週間、レッスンからはもちろん、それ以外のことからも多くのことを学ぶことが出でき、すべてが私にとってかけがえのないものとなった。初日は言語のことや、慣れない環境のこともあり不安だったが、講習会が始まると徐々に受講生のみんなと話す機会も増え、友だちも出来た。みんなとても親切で、そのおかげもあり本当に楽しく過ごすことが出来た。また、様々な国の人とコミュニケーションをとることで言語の勉強にもなったし、とても多くの刺激を受けることが出来た。こんなにも音楽漬けの日々を過ごしたことはこれまでにあっただろうかと思うほど音楽に浸ることが出来た2週間だった。このとき感じた気持ちや感覚を本当に大切にしていきたいと思う。ここで感じてきたことすべてを、少しずつ自分の音楽や演奏につなげられるよう、努力を重ねていきたい。

大友太郎先生のコメント

ニース夏期国際音楽アカデミーは恵まれた環境の中で超一流の講師陣による講習会として、音楽を学ぶ者にとって憧れの地です。ソフィー・シェリエ教授は現代作品の演奏で世界的に知られた方で、パリ国立高等音楽院で長年にわたり多くの優秀な演奏家を育ててきました。本学の森岡有裕子先生もその一人です。
淺井さんは常日頃から本学での勉強の中で音色や音量の変化をさせるための技について苦労していましたが、おそらく今回の短い講習期間にもかかわらずソフィー・シェリエ先生の的確なアドヴァイスにより解決の糸口が見えてきたのではしょうか。後期になってからの音色は見違えるほどによくなりました。またクロード・ルフェーブル教授による曲ごとに要求される様々な細かいニュアンスについてのご指導のおかげで音楽をより深く考えるようになったように感じます。

日本国内にいてはわからないヨーロパの環境の中で深呼吸して見た景色、聴いた音楽、肌で感じた空気、出会った友人との会話、美味しい食事等、この夏に得たものはこれからのあなたの演奏に大きく影響し、表現力がより豊かになることでしょう。これからもまた機会を見つけてヨーロッパで積極的に多くのことを学び未知の世界に挑戦してください。

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