ウィーン夏期国際音楽ゼミナール(オーストリア・ウィーン)
近藤 梓 3年 演奏・創作学科 弦管打楽器専修(フルート)
研修概要
研修機関 : ウィーン夏期国際音楽ゼミナール
研修期間 : 2018年8月22日~9月10日
担当講師 : ギゼラ・マシャエキ=ベア教授
研修目的
西洋音楽の発祥の地を訪れ、街並みや文化に触れたいと思った。そして、ウィーンの芸術に触れ、モーツァルトやベートーヴェンなどの作曲家とゆかりのある場所を訪れることで、演奏の際のイメージを膨らませようと考えた。また、日本を出て視野を広げること、ヨーロッパでの生活を体験することを目的とした。
研修内容
この講習会の会場はウィーン国立音楽大学で、期間中に60分のレッスンが4回、参加者や教授陣によるコンサートなどが行われた。マシャエキ先生のクラスの受講生は日本人4人、ドイツ人1人、セルビア人1人の計6人だった。
第1回レッスン
エネスコ《カンタービレとプレスト》
カンタービレを演奏し終わったところで、ブレスが浅くて息の入る量が少なすぎると指摘を受けた。鯉のように口を開けてお腹の底まで息を入れるイメージを持ってブレスをして、それができるようになったら表現も広がると教わった。
次に、ヴィブラートについて指摘された。私は喉でヴィブラートをコントロールする癖がついてしまっているために、喉に力が入って息の流れが止まっていた。喉の力は抜いてお腹で支えるための練習方法として、ノンヴィブラートで吹くことや、壁に上半身をつけながら吹くことを教わった。
プレストでは、口や喉に力が入っているために低音が出にくくなっていることを指摘された。ここでも口や喉の力を抜いてお腹で支えることや、あくびした時のように口の中を広くすることで豊かな低音を出せると言われた。
第2回レッスン
ボザ《イマージュ》
この曲でも、小さなブレスが多すぎるためにフレーズが壊れてしまっていると指摘されてしまった。ブレスは楽譜に書いて良いから計画的にとるようにと言われた。
そして、この曲で一番強く言われたことはリズムについてである。この曲は何年か前からやっていて自分のやりやすいリズムで演奏する癖がついてしまっていたため、メトロノームに合わせて練習するようにと言われた。自由に歌うところはもちろんあるが、そういったところも、いくら音楽的にしたいからといって楽譜に書いてあるリズムが失われないようにと言われた。私は3連符や5連符で走ってしまう癖があるが、これらはむしろ拍いっぱいに歌って魅せるところだと教わった。
そのほかに、この曲は典型的なフランスの印象派の影響を受けた作品のため、たくさんの色合いを出すことや、休符の中にもファンタジーを持つことを教わった。
第3回レッスン
モーツァルト《フルート協奏曲第1番》K.313
他の受講生のレッスンを聴講したところ、この曲をやっていたので、そこで学んだことも以下にまとめる。
◉第1楽章
まずヴィブラートについて、ウィーン古典派の作品が作曲された当時はヴィブラートはかけていなかったため速いヴィブラートはかけてはいけないし、フレーズの最後の音にはほとんどかけなくて良いと言われた。細かくかかってしまうヴィブラートを直すために、まずはノンヴィブラートで練習するようにと言われた。
そして曲の中で、ここは王様のように堂々と、ここはパミーナが悲しんで泣いているように、ここは喜びを表現して、ここはエスプレッシーヴォで、ここはドラマティックに、もっとfで、もっとpでといったようなことをたくさん言われた。さらに、モーツァルトのオペラを見て色々なキャラクターを知るようにと言われ、モーツァルトを演奏するには、私が今まで思っていた以上にさまざまな表現ができなければならないのだと知った。
その他、同じことを2回繰り返す時に同じように演奏しないこと、pの時でも発音やアーティキュレーションははっきりクリアにすることなどを習った。
◉第2楽章
この楽章でも、太陽のような大きなものが静寂のなかから堂々と現れるようにや、花がだんだん開いていくように、天使のように優しくといったように様々な表現を求められた。
さらに、私の演奏は表現しているのは分かるが全てが小さいから、大きなホールの1番後ろの観客にも伝わる演奏をしなければならないと言われた。そのためには、お腹を使う基礎練習をしてお腹を鍛えるようにと言われた。
その他、弦楽器の弓の使い方をイメージすることや、高音で支えを下にして豊かな響きをつくることなどを教わった。
第4回レッスン
参加者コンクールで演奏させていただけることになり、そこで演奏するモーツァルトの第1楽章とボザを再びみていただいた。さらにJ.S.バッハのパルティータBWV1013のコレンテとサラバンドもみていただいた。時間がなくてモーツァルトの第3楽章はできなかったが、聴講できたためそれもまとめた。
モーツァルト《協奏曲》第1楽章
拍ごとに小刻みに体を動かしたり円を描く動きをすると緊張感が失われるため、大きなフレーズを意識してひとつの方向を目指すようにと言われた。さらには、フレーズの終わりの四分音符は短く切らずに余韻のある音で、アーティキュレーションは場所によってはやりすぎくらいがちょうどいいからもっとやるように、そしてfのときに2mくらい大きくなったつもりでなどといったことを言われた。
ボザ《イマージュ》
ブレスに時間をかけすぎて曲の流れが途絶えないようにと言われた。また、低音が弱すぎて緊張感が失われていると何回か指摘されたため、低音の練習を重点的に行わなければならないと思った。
J.S.バッハ《パルティータ》BWV1013
◉コレンテ
まず、アーティキュレーションを考え直したほうが良いと指摘された。そのためにも曲の構成を理解することは大切だとおっしゃっていた。さらに、深刻な和音の時にスタッカートが軽くならないで余韻のある音で演奏するようにと教わった。
◉サラバンド
ゆったりと落ち着いた曲なのにヴィブラートが速すぎて緊張しているように聞こえると指摘を受けた。ヴィブラートはほんの少しかけるだけで良いと言われた。また、2声部になるところは声部ごとに強弱の変化をつけることを習った。
モーツァルト《協奏曲》第3楽章(聴講)
ウィーン古典派を演奏する時は、地面についているような豊かな響きで、フランス的な軽い音で演奏しないように。ドラマティックに演奏するところも、ヴィブラートを細かく速くかけてはいけない。主題が低音域で出てくる時に、重くなりすぎないようにするために少しチャーミングに演奏するように。曲の終わりのfは、ただ大きな音ではなくて響きで満たすように。
教授コンサート
歌やピアノ、弦楽アンサンブルの演奏が行われた。感情を強弱や色合いはもちろん全身で表現していて、古典派の音楽に対するイメージが変わった。私もあのように演奏したいと思った。そのためのテクニックを身につけて気持ち良く表現できるようになりたいと思う。
コンクール
このコンクールには各先生方から推薦された10人が出場した。年齢も楽器もさまざまで、日本人が多かったがヨーロッパの方も少しいた。私は本番でとても緊張して思うような演奏ができなかったが、ほとんどの出演者の演奏を聴くことができ、とても勉強になった。マシャエキ先生は、私の演奏について「レッスンで言ったことができていたし良い演奏だったけれど、表現が小さかったからもっと大きな音楽ができるように。」とおっしゃっていた。大きな音や豊かな音を出せないことがその妨げとなっているため、出せるようになるための練習やトレーニングの必要性を改めて感じた。
研修を終えて

マシャエキ先生のレッスンは、毎回非常に内容が濃く、レッスンを受ける度に自分の変化を感じることができた。正しい身体の使い方をするための練習法や、ウィーン古典派のヴィブラートや表現については特に勉強になった。呼吸のことなど今後の課題も多く見つかったので、熱心に取り組んでいきたい。
初めてのヨーロッパは、写真で見るよりずっと美しくて感動の連続だった。私が泊まったホテルはウィーンの中心地に近く、シュテファン寺院、王宮、国立歌劇場、シェーンブルン宮殿などここに挙げきれないほど多くの場所に行くことができ、全て鮮明に記憶に残っている。
研修期間中には何度もコンサートを聴く機会に恵まれた。セミナーの教授陣のコンサートや参加者コンサートをはじめ、教会でのオルガンとトランペットのコンサート、宮殿でのオーケストラのコンサート、フォルクスオーパーではモーツァルトの魔笛を見ることができた。教会のコンサートは無料、オーケストラのコンサートやオペラは学生だと格安で聴けて、ウィーンは音楽を学ぶには素晴らしい環境だと思った。路上演奏も何度か見かけて、多くの人が足を止めて聴いていて、本当にウィーンは素敵な街だと思った。
また、セミナーを通して多くの人と出会うことができた。日本人の受講生がたくさんいて、ほとんどの人はホテルが同じだったので、毎日一緒に食事をとり、観光を共にして、夜にみんなで集まって何時間も話をするほど仲良くなった。そして、ウィーンで音楽を学んでいる方たちとも知り合うことができ、留学の話を聞かせてもらい、住居を見せてもらって生活について教えてもらうことができた。日本人以外の受講生と話す機会もあったが、私の語学力不足のために残念ながらあまり多くは話すことができなかった。日常生活の中でも自分の語学力の低さを痛感したため勉強しようと思った。
今回初めて1人で海外に行き、日本で当たり前にできることができず最初は戸惑うこともあったが、多くの方々の助けに支えられて無事研修を終えることができた。本当に人の優しさ暖かさを感じた20日間であった。
そして、このような貴重な機会をくださった大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心にご指導くださる先生方に心より感謝申し上げます。この経験を生かして精進していきたいと思います。
大友 太郎先生のコメント
音楽の都と呼ばれている有形無形の歴史的財産の宝庫ウィーンは音楽を愛する者だけでなく世界中の観光客を引き付ける魅力ある地です。はじめて目にした自然豊かなヨーロッパの田園風景、美しい街並みやそびえ立つ教会、シェーンブルン宮殿等様々な場所に足を踏み入れた時の空間からは写真やテレビで見ただけではわからない想像を超える大きさと美しさを感じたことでしょう。このようなすばらしい経験により、演奏するときに大切な響きの空間のイメージがつかめるのではないでしょうか。
ウィーン音楽大学で開催された夏期国際音楽ゼミナールでのギゼラ・マシャエキ=ベア教授のレッスンで曲をつくり上げるために必要な音色を出すための様々なテクニックを教えていただきました。息を使うフルートにとってきわめて重要な呼吸法や、音楽表現にはとても大切なビブラートのコントロール等、これら学んだことが後期になってあなたのフルートの音色に大きな変化をもたらしました。また是非再びヨーロパへ勉強に行けると良いですね。新たに吸収した様々の基本を元に勇気を出してより良い音楽家を目指して頑張ってください。