カリアリ国際音楽アカデミー(イタリア・カリアリ)
萩 智美 4年 演奏・創作学科 声楽専修
研修概要
研修機関:カリアリ国際音楽アカデミー
研修期間:2018年8月20日~9月6日
担当講師:ルチアーナ・セッラ
研修目的
- ベルカント唱法の習得
- 語学力の向上
- イタリアの風土やイタリア人の気質を肌で感じること
研修内容
会場周辺
講習会はイタリア半島の西に位置するサルデーニャ島の最南端、カリアリで行なわれた。会場はカリアリ音楽院で、音楽院の生徒も多数講習会に参加していた。ホテルから講習会会場までは徒歩20分ほどで、途中にスーパーや薬局などがあり、人々は穏やかで治安も良く、とても過ごしやすい環境であった。
クラス概要
講習会初日、クラスメイトとルチアーナ先生で顔合わせの後にレッスン・スケジュールを決める予定であったが、先生のマネージャーが完璧に全日程分のスケジュールを作り上げていたためすぐにレッスン開始となった。クラスメイトは14人で、その内私含め6人が日本人、残りは全員イタリア人であった。
語学について
自分のレッスン日以外もよほど疲れていない限り、イタリア語向上の意味も兼ねて常に他の人のレッスンを聴講するようにしていた。クラスに日本人が多くいたためか、イタリア人の生徒のレッスンであっても先生はゆっくり聞き取りやすく話してくださった。そのため語学力に少し不安のあった自分でもある程度理解することができた。しかし込み入った説明の時は理解できないこともあったので他の日本人参加者に助けてもらった。(6人中3人がイタリア在住者)どうしてもまわりに助けてくれる人がいない時は英語も交えて説明してくださった。しかし自分の力だけで十分にイタリア語を理解しきれなかったことがとても悔しく、帰国してからのイタリア語学習の大きな原動力となっている。
講習会参加者のほとんどは講習会斡旋の同じホテルに泊まっており、イタリア人の参加者と朝食、夕食をともにすることもしばしばあった。彼らが日本に対して非常に興味を持ってくれこともあり、拙いながらもなんとかイタリア語で楽しくコミュニケーションを取ることができた。ホテルのスタッフもとても親切で時折イタリア語を教えてくれたりした。
またホテルの部屋は二人部屋を指定していたためフランス人のヴァイオリン専攻の18才の少女と同室で過ごした。(声楽クラスはイタリア人と日本人ばかりだが、他の器楽クラスはフランス人講師が多数いたことから講習会全体としてはフランス人が非常に多かった。)彼女とは英語で会話し、どのように二人で部屋を分け合うかを決めた。恥ずかしながらイタリア語どころか英語すらも得意とはいえないが、ここでもなんとかコミュニケーションを取りながら共存することができた。
レッスンについて
レッスンは8日間中6回、一回40分だった。4曲のアリアを用意しており、その他にもう1曲講習会中にレッスンしてもらうことができた。先生は繰り返しこのように仰った。「歌うことは世界で最も自然なことです。息を送ったら出口の唇から音が出て頭蓋骨に共鳴する、ただそれだけです。話すときと何も変わりません。近頃本当に色々な発声法があるけれど、決して流行りに乗らずトラディショナルな発声を見直すこと。」自分は発声について頭で考えすぎる癖があり逆に自分の首をしめることが多々あるのだが、この言葉で声を出すことについてシンプルに考えることができ、無駄な迷いが減った。
発声についての具体的な指導だが、先生はほとんどの生徒に「NON spingere!!(押さないで)」と口を酸っぱくしていたが自分はそのように言われることはなかった。逆に喉の奥を開けることを意識し過ぎるせいか鼻がつまったような声になり、響きが前に出ないことが問題だったのでそこを重点的に指導してもらった。先生曰く響きのポイントは上の前歯の辺りにあると言う。響きのポイントは人によって違うとも言うが、あまり聞いたことがない場所だったので半信半疑であったが試してみると確かに音を外に放せている感覚があり、聴いていた先生もとても良くなったと仰っていた。なぜ上手くいったのか自分なりに考えた結果、話す時の響きのポイントと同じであるからではないか。前述したとおり歌うときと話すときに大きな違いはないと先生は仰っていた。自分はオペラアリアを歌うとレチタティーヴォの方が曲よりも良い声だと言われることがあるが、それは話す時の響きの位置により近いからだと思う。(あくまでも感覚的な話なので確実ではないが)ベルカント唱法はとても難しい技術であるが、あくまでも楽器は人間の身体であって根底には非常にシンプルな身体の機能があるということを忘れてはならない。これが今回の研修で得た一番の教訓である。
学生コンサート、修了コンサート
講習会の間ほぼ毎日、音楽院の近くにあるTホテルの水上ステージにて講習会参加者によるコンサートが行なわれており、クラスのほとんどが一度ずつ演奏の機会を得られた。野外のステージだったため、強風で歌いながら口の中が乾燥してきたり、伴奏者の楽譜が風でめくれるなどハプニングも多々あったが落ち着いて演奏することができた。また、コンサートの観客はほとんどがホテルにヴァカンスで来ている一般のイタリア人で、そのような方たちの前でイタリア語を歌う機会を持てたことは何にも代えがたい経験となった。
また、講習会最終日にルチアーナ先生から修了コンサートのメンバー3人に選抜され、大きな自信につながった。しかし、肝心のコンサートは緊張から息が上がってしまい後悔の残る演奏になってしあったためひどく落ち込んだが、演奏後のBrava!!!!の声に励まされた。緊張しても身体を固めないようにすることは大きな課題である。
イタリア人
私は今回初めてイタリアを訪れたのだが、出発前はテレビに出てくるような”いかにも”といったイタリア人を想像していた。しかし、出会ったイタリア人と話したり観察する中で思ったことは、人間として根底に流れているものは日本人となんら変わりないということだ。確かにリアクションの大きさや人と人との距離感、考え方など文化的・環境的側面から来る違いはあると感じたが、基本的な感情の動きや他人への思いやり、また人間誰しも持つ汚い考えや行動、これらに大きなギャップは感じなかった。当たり前のことだと言われるかもしれないが、日本から出たことがなく、イタリア人のことを全く日本人とは違う生き物のように想像していた自分からすると驚きであった。そもそも私の現在の語学力では彼らのことを深く理解できようがないので気付いていないことがたくさんあるのだろうが、現時点ではイタリア語のオペラを歌うときに必要以上に自分とイタリア人との距離を感じる必要はないと考える。それはドイツ語だろうがフランス語だろうがきっと同じことだと言える。
久保田真澄先生のコメント
今回の研修では、「ベルカント唱法の習得」「語学力の向上」「イタリアの風土やイタリア人の気質を肌で感じること」を目的にしたようだ。
14人の受講生と共に初日からレッスンがスタートしたとのこと。8日間のうち40分のレッスンを6回受講し、5曲のアリアの指導を受けたとのこと。セッラ先生から「歌うことは世界で最も自然なこと。話すことと変わりはありません。」との言葉をもらい萩さんの中にあった迷いが減ったようだ。この言葉は私も強く共感する。
レッスン中セッラ先生は「押さないで!」ということをよく言われていたようだが、萩さんに関しては喉を開けようと意識しすぎて響きが前に出ない傾向があったため、響きのあてるポイントについて、上の前歯のあたりを意識するようにとレッスンが行われ、萩さん自身も納得のいく結果を体験できたとのこと。
研修中はほぼ毎日ホテルでコンサートが開かれ、一回は皆演奏する機会を得られ、萩さんは研修修了コンサートに出演できる3人にも選ばれ演奏したようだ。
また語学についても積極的に受講生やホテルの方々とコミュニケーションをとり、自分の未熟さを感じながらも充実した時間を過ごしたとのこと。その中で今回の研修の目的でもある「イタリア人」については日本人であろうがイタリア人であろうが人は皆同じといった結論に至ったようだ。とても頼もしい。
研修を経験し勉学に対する意欲が増しているようだ。今後の成長に期待したい。