草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル
藁科 杏梨 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(ヴァイオリン)
研修内容
研修機関:第34回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル
研修期間:2013年8月17日〜8月31日
講師:ウェルナー・ヒンク先生
研修目的
- 集中できる環境で曲数をしぼり勉強する。
- 音楽的表現、アプローチの幅を広げそれに伴い必要になる技術を磨く。
研修内容
レッスンまで
開講式、オープニングコンサートなどはアカデミー初日の17日から、大半のマスタークラスは18日から行われていたが、私の受講するW・ヒンク先生のクラスは少し遅く20日からのスタートだった。私は初日から参加していたので二つのヴァイオリンクラスを聴講しそれぞれ全く異なるクラスの雰囲気を感じ、同世代の受講生の様々な演奏を聴きとても勉強になっていた。
後からスケジュールを確認すると私のクラスには1日も休講がなかったので、この2日間をとても有意義に過ごすことができた。
8月20日(火)レッスン初日
レッスンはアカデミー本部のある天狗山レストハウスからバスで少し離れたレッスン室で行われた。ここで初めて受講生の人数を知るのだが、定員オーバーの15名で、全員年下の学生であった。噂には聞いていたが、これはもう聴講の長いアカデミーになりそうだと覚悟を決めレッスンに臨んだ。私は7番目の為3時間のレッスンで周ってくるのかこないのか不安になりながら聴講していたが、私の1人前の受講生で本日のレッスンは終了となり安心したのも束の間、明日の朝一番になってしまった。
8月21日
今度こそレッスン初日さて、いよいよレッスン日!と意気込みレッスンに向かう。最初はJ.S.バッハのシャコンヌから見て頂こうと決めていた為少し早めに向かい指慣らしをしてレッスンに臨んだ。そのお陰かとてもリラックスして弾くことができ、先生もとても喜んでくださった。「とてもよく弾けているから24日のナウリゾートホテルで行われるスチューデントコンサートに出してあげるよ」と推薦してくださり「より弾きやすくするために考えたフィンガリング(運指)で弾いてみて」とご自身の譜面を貸してくださった。テンポなどの注意を受けたが「僕の言いたいことは全て楽譜に君が書いているよ」と言われてしまったので改めて注意深く見直すことにした。
8月24日(土)ナウリゾートでのコンサート
22日のレッスンは聴講のみであったが、23日とコンサート当日である24日はシャコンヌを通して見て頂いた。先生は無伴奏パルティータの中で最も長いこの曲全体の流れを重視し、特にテンポは幾度か注意を受けた。また前回のレッスンで教えて頂いたフィンガリングでなぜ弾くのか、どのような効果が得られるのか、またヴァイオリンという楽器は小さな楽器だが表現、音色を変えるには様々な方法があることを教えてくださった。
この日の講師によるコンサートはヒンク先生が主体となり、ソロや室内楽など様々なものを演奏されていた。プログラムの中にはバッハのシャコンヌもあり、アカデミーに来るまでそれを知らなかった私は先生の素晴らしい演奏を聴いてから自分も演奏するのかとうろたえたが、先生の演奏を聴き、午前中に注意して頂いたこと、フィンガリング、ボーイングを変えるとフレーズにどのような変化が得られるのかが耳からも感じることができたので大変勉強になった。その後のスチューデントコンサートでは始まる前に先生は楽屋まできてくださり、「Toi! Toi! Toi!」と応援の言葉をかけてくださったのでとても安心して練習してきたことを踏まえた演奏ができた。翌日のレッスンで先生はとても褒めてくださった。そして、聴きにきてくださったことが何よりも嬉しかった。
8月25日(日)カルテット
この日からは他大学で学ぶアカデミー受講生と共に弦楽四重奏を組み29日の室内楽レッスンの為にドヴォルジャークの弦楽四重奏曲第12番“アメリカ”から第1楽章を選択し、練習を始めた。同世代の意欲的な受講生とのアンサンブルは大変楽しく刺激になった。
この日の夜に偶然ナウチャペルでパノハ弦楽四重奏によるHome concertが行われており“アメリカ”を聴くことができた。ナウチャペルはナウリゾート内にある小さな教会で席数も少なく、私は友人達と早めに到着しチケットを手に入れることができた。
演奏する前にパノハの方が「もう何百回弾いたか分からない」と言うぐらい回数を重ねてきた“アメリカ”は、細部に至るまでお互いの意思や演奏を知り尽くしているのではないかというくらい素晴らしいアンサンブルで、改めてこの名曲の魅力にきづかされた。また演奏者側も演奏する度に魅了されているような新鮮味を失わない、生き生きとした演奏だった。
また、アンコールで演奏したドヴォルジャークの“糸杉”は大変美しく本当に贅沢な時間をすごすことができた。
8月26日(月)モーツァルト
バッハの本番が無事に終わり、カルテットの練習に夢中になっていた矢先、レッスンが周ってきてしまった。完全に油断していた私は、次に見てもらう予定のモーツァルトのヴァイオリンソナタk454を思うように弾くことができなかった。この曲はモーツァルトのソナタを録音したヒンク先生のCDにも収録されている曲で、今回のマスタークラスで一番見て頂きたかった曲なので自分の演奏にがっかりしたのだが、先生は出だしの和音を取り出してfの和音は大きな鐘をイメージしてみることや、今できる限りの表現をつけようと必死に弾く演奏を聴いてモーツァルトに余分な表現はいらず、楽譜に書いてあることをシンプルに表現するのが一番良いことだと丁寧に指導してくださったので、余計に自分自身の準備不足を反省し次のレッスンまでに全楽章をきっちり見直そうと決意した。
8月29日(木)レッスンとフランチェスキーニ先生による室内楽レッスン
ヒンク先生のマスタークラスは30日までのため、29日が私の最後のレッスン日で、前回の反省からモーツアルトのソナタをもう一度1楽章から見て頂いた。1楽章ではAllegroに入り軽快なテンポになると8分音符の音の処理が雑になりやすいことや、前回注意をうけた和音はシャコンヌの時のように美しく響かせてほしいとおっしゃった。また弾いている最中に楽器が肩でぐらついているので音程のズレができることを指摘された。これは自分では癖になっていたので今まで気がつくことができなかった。2楽章のAndanteでは弓の速度によってsfzが効果的にできていないことや、ピアノとヴァイオリンという楽器の大きさの異なるアンサンブルで私の弾くpはただ音が薄く、弱くなってしまい音が埋もれてしまうなどの注意をうけた。
3楽章に入る時点で私のレッスン時間は終わっていたのだが、出だしだけでも!といってみてくださった。ここでは主にピアノとヴァイオリンの掛け合う部分や、合わせるタイミングが難しい部分のコツを教えてくださり、細かいレッスンとはいかないが曲の流れをおおまかに伝えてくださり東京に戻ってからも勉強しやすいようにしてくださった。中間部は時間の関係上とばしつつ最後まで弾くと先生は「ブラボー!とてもいいね!」と言ってくださり、私は最後のレッスンを終えた。
マスタークラスの後は室内楽レッスンの為レストハウスに移動した。草津のアカデミーでは現地で室内楽メンバーを集めることができれば一度だけレッスンを受けることができ、私の組んだカルテットは、この日の午後にヴァイオリンのフランチェスキーニ先生に見て頂くことになった。先生は演奏を聴き褒めてくださったが、この曲に対する知識がとても少ないことを知ると、作曲された当時のアメリカの様子や、人種差別の根強い時代であったがドヴォルジャークは黒人音楽を尊敬していたことなどを丁寧に説明してくださった。冒頭の有名なvaのメロディーや各パートの旋律は朗々と歌うように、その時内声は歌に和音を添えるように弾いてみてとおっりゃり、実際に私たちは自分の旋律を歌ってから弾いてみた。また規則的なリズムの部分を取り出し、ここは工業が発達したアメリカをイメージして機械の音を表現して弾いてみてなど、私達が捉えやすい例えを用いて分かり易く指導してくださり、最後まで見て頂く事はできなかったが、とても勉強になりなによりも楽しいレッスンだった。
オクセンホファー先生の室内楽レッスン
マスタークラス最終日、午前中は残る2人の受講生のレッスンを聴講し、先生から修了書を頂いてから急いでカルテットのメンバーとヴィオラクラスのレッスン室まで移動した。
実はどうしても練習した“アメリカ”を最後まで見て頂きたく、更にヴィオラが主役のこの楽章をぜひヴィオラの先生に見て頂きたい!と無理を承知でヴィオラのオクセンホファー先生にお願いしたところ快諾してくださり、短い時間ではあったがもう一度レッスンして頂けることになった。先生はとても熱心に教えてくださる先生で、冒頭のvaと1st vnのメロディーを何度も弾いてくださった。また遠慮がちになる内声をひっぱりだすように指揮をしながら指導してくださるので、アンサンブルに厚みができ全体に躍動感がでて曲本来の面白さが外側に伝わるのが自分でも分かり、大変楽しく興味深いレッスンであった。
そして、短い期間のカルテットであったがとても良いメンバーに恵まれた事を実感した。
研修を終えて
今回の講習会では、周りの受講生のレヴェルの高い演奏、知識の豊富さにとても刺激をうけた。他大学の受講生と話し、演奏を聴くだけで音楽を心から愛して真剣に意欲的に勉強しているのがよく分かり、同時に普段の自分の演奏、音楽に対する姿勢がいかに受け身でいるかがよくわかりとても考えさせられた。
レッスンでは様々な表現の仕方や、落ち着いて曲をしぼり勉強することができ、また本番も頂けたので、研修においての目標、目的は充分果たすことができた。
アカデミー期間の中でも特に室内楽は楽しく、これからも自主的に様々な作曲家の弦楽四重奏、ピアノトリオなど、室内楽曲を勉強し、演奏していこうと思う。