草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル
千金楽 岬 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:第34回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル
研修期間:2013年8月17日〜9月1日
講師:クリストファー・ヒンターフーバー先生
研修目的
世界で活躍する著名な音楽家を講師に招いて行われるこのアカデミーは、毎日午前中にレッスンが行われ、毎日夕刻には講師による演奏会が行われる。そんな「音楽漬け」の2週間で一流音楽家からの指導を受け、自己の演奏技術習得や、音楽に対する思いを深めることを目的とする。また、各地から集まる受講生と交流することで刺激を受け、自己を見つめなおすきっかけにもしたいと考える。
研修内容
ヒンターフーバー先生クラスの受講生は11人だった。午前中に約45分のレッスンを4人行い、期間通して全員が4回ずつになるようにレッスンをしてくださった。
第1回レッスン(8月19日)Gounod:Liszt/ファウストのワルツ
初回のレッスンは、リスト編曲作品のひとつであるファウストのワルツをみていただいた。一曲を通して最初に注意されたことは、姿勢についてだった。弾いているときに体と鍵盤が近いことと、左足が動くのでそれが気になるとのこと。左足が動くと踏ん張れなくなり、音も安定しないとおっしゃった。そして、「いつも体の中にワルツを感じていること。特に、中間部に出てくるmeno mossoの部分から歌うことに気を取られすぎてしまい、ワルツが止まっている箇所がある」と教えてくださった。フレーズを大きくとらえ、常にワルツを意識することでその箇所は解決することができた。
右手にトリルが続くところは、先生が演奏するときは少しカットをするそうだ。同じフレーズが何度も続くので、カットしないと聴いている人は飽きてしまうし、作品の中に間延びした部分ができてしまうという理由からだ。この時期のリストはたくさん編曲をしていて、今とりかかっている作品をやっているうちに次の作品のことも考えていたので、あまりよく考えられずに編曲してしまった部分もあるそうだ。しかし私は卒業試験でこの曲を演奏しようと考えているので、試験でそのようなことをしてよいのか不安になり、うかがったところ、「何の問題もない。『私の編曲です』と言えばいいんだよ」と明るくおっしゃった。
ペダルをフルとハーフで使い分けることや音のバランス、ワルツ独特のリズム感などを1時間ほどかけて教えていただき、第1回目のレッスンは終了した。
第2回レッスン(8月23日)C. Franck/Prelude, choral et fugueよりPrelude
この曲はオルガンの音楽であることを忘れてはいけないと注意された。そして、ロマンティックな部分もあるが、バッハのように演奏する部分もある。そのためPreludeの32分音符は揺れすぎてはいけない。モチーフの最後の全音符はオルガンをイメージしてよく響かせること。そして、ダブルバーからのa capriccioは、自由に、先に先に音楽を進めてのめり込むように演奏するようおっしゃった。
Preludeで最も注意されたのはペダルだった。長いフレーズの中で細かく踏み変えながら少しずつ上げていくが、音はクリアに聞こえるように、と。なかなかすぐに習得できなかったが、今までとは異なるペダリングを教えていただきとても勉強になった。ヒンターフーバー先生はどの受講生にも共通してペダルのことをよく教えていた。より演奏効果を高め、響きを豊かにする先生の考えぬかれたペダリングは、どの受講生のレッスンを聴講していても得るものがあった。
第3回レッスン(8月27日)C. Franck/Prelude, choral et fugueよりchoral
この部分は全体を通して4分音符が並んでいる。そのため、4分音符に方向性を持たせることが重要で、「遅いマーチ」にならないこと。そして、Poco Allegroからはフーガのテーマが隠されて出てくることを意識して弾こと、と先生はおっしゃった。アルペジオのところは腕を柔らかく使って、鍵盤を押していないかのようなタッチで弾くよう言われたときに、先生が聴講している人全体に向かって、「ルービンシュタインは『どうしたらそのように美しく弾けるのですか』と聞かれたとき、こう答えました。『ただ右手のメロディーを大きく弾いて、左手の伴奏を小さく弾いているだけ』と」とおっしゃった。そんな単純なことだが、自分の出す音をよく聞き、聴衆にどう聴こえているか常に考えなくてはならないと教えられた気がした。
第4回レッスン(8月29日)C. Franck/Prelude, choral et fugueよりfugue
この日が最後のレッスンになった。フーガは構成をしっかり理解して弾くことが重要であり、曲の中で次に何が起こるか考えて弾くことと先生はおっしゃった。そして、ハーモニーは変わっていくが結末が見えないところは緊張感を持続させ、その緊張をどこに持っていくか考えるよう言われた。
この曲は3年の後期実技試験で弾いた曲であり、小さな動機が発展されて構造されていることは把握していたつもりだったが、色合いの変化やペダル、さらに一曲の中でオルガンや弦楽器、管楽器、歌声等、さまざまな音色が求められるので、それらをピアノでどう表現するかの研究がまだ足りないと実感した。
聴講
草津アカデミーのマスタークラスは自由に聴講できるスタイルだったので、様々な先生のレッスンを聴講しに行った。ピアノの岡田博美先生、ブルーノ・カニーノ先生、ヴァイオリンのウェルナー・ヒンク先生、声楽のジェンマ・ベルタニョッリ先生、オーボエのトーマス・インデアミューレ先生。特に印象に残っているのは、ベルタニョッリ先生の「最初に音を読んではだめ。何度も何度も詩を読んで、詩の感情を理解してから音を読むの。そうするとどうしてその言葉にその音がつけられているかの意味がわかるわ」という言葉である。わたしは学校でアンサンブルピアノコースの声楽系に所属しているため、普段から歌曲の勉強をすることが多い。そのため、先生のその言葉に「伴奏も同じだ」と感じ、心に響いた。
生活について
アカデミー期間中は草津町内のペンションに宿泊した。アカデミーの会場となっている天狗山スキー場周辺へは少し距離があるのだが、毎朝ペンションのオーナーが車で送ってくださった。午前中のレッスンが終わると午後の公開レッスンを聴講しに行くか、ペンションに戻り16時からの演奏会まで練習をしていた。この毎日行われる演奏会を私は全て聴きに行ったのだが、本当に素晴らしいもので毎日幸せだった。2週間、一流の音楽をたくさん聴くことができる環境がとても贅沢であったし、その非日常の空間がとても心地よかった。演奏会が終わるとペンションに戻り、夕食を済ませ練習をした。
草津町内には「町湯」と呼ばれる無料の温泉施設が10か所以上あり、私も期間中はたくさん利用させていただいた。連日の疲れを取るには最高で、心も体もリフレッシュでき、「また明日からも頑張ろう」といい気持にしてくれた。町湯は地元の方が多く使うので、そこでの交流もまた楽しい思い出となった。
レッスンでは通訳がいるので言葉に困ることはないが、それ以外の生活の場面で意思疎通が図れず悔しい思いをした。例えば、他の受講生が先生と楽しそうにおしゃべりをしながら昼食をとっているのを見たときや、演奏会後にその先生に感動を伝えたくてもうまく言えないとき、偶然観光地で先生にお会いしたとき。様々な場面で「もっと外国語が話せたら……」と思った。正直、研修に行く前は言葉でそんなに困ることはないと思っていたが、いざ行ってみると例であげたような場面で言葉の壁を実感した。しかしここで悔しい思いをした分、「外国語を勉強しなくては」という気持ちを持つことができた。
研修を終えて
二週間、本当に刺激的な毎日を送ることができた。ヒンターフーバー先生のレッスンはとても熱心なもので、また、とても丁寧であり、曲について違う角度からの視点で見ることもできた。聴講している人にもわかりやすい説明をしてくださるので、他の受講生のレッスンを聴講することもとても勉強になった。
アカデミー受講生には音大生ばかりでなく、様々な年代・職業の方が全国から集まっていたので、年上の受講生にどのような形で音楽を続けているのかを聞いたり、私の相談にものってもらったり、そのような交流もまた自己を見つめなおすきっかけとなり、価値のあるものだった。
最後に、今回、国内外研修奨学生としてこのような素晴らしい機会を与えてくださった大学関係者の皆様と、いつもご指導くださる有森先生、ご協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げます。この経験を活かし、さらに成長できるよう努力していこうと思います。