国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー

岡田 麻衣 3年 演奏学科 声楽専修

研修概要

研修機関:モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2013年8月12日〜8月25日
担当講師:レナーテ・ファルティン教授

研修目的

  1. 現地の言葉を介して現地の音楽を学ぶ。また、自分の音楽や語学のレベルを体感し、新たな課題を見つける。
  2. 現地での生活、文化を体感することで作品をより自分に近いものとして表現できるようになる。
  3. 現地での生活や学びを通し、将来の留学希望先であるドイツ語圏の国での生活が自分に合うかどうかを実体験し今後の留学準備に役立てる。

研修内容

講習開始前日 8月11日

15:00より大学に赴き、一時間ほど並び、受付を済ませた。その際、教授ごとのオーディションの時間が書かれた紙と受講カードをもらい、オーディション前の練習室(一人30分)を確保した。

講習初日 8月12日

8:30より大学の練習室で発声を済ませ、10:00からのオーディションに合わせて会場へ向かった。前日の講習受付の際には日本人が多く目立っていたので、きっと自分のクラスも日本人ばかりだろうと思って教授のレッスン室に向かうと、案外そうでもなく、中国人が多く目立った。

Faltin教授はほとんど英語が話せないのでドイツ語のみでレッスンを行う旨を話された後、おそらく全員を受講生として採るだろうと仰ったうえでオーディションが行われた。私は〈Der Freisch.tz〉からÄnnchenのアリア“Trübe Augen”を歌った。念願の海外で歌えていることがとても嬉しかったのと、ピアニストのMarcusが伴奏で引っ張ってくださり、とても楽しく歌い終えることができた。全員のオーディションが終わると、Faltin教授からレッスンについてのインフォメーションがあり、そのまま公開レッスンの形でレッスンが始まった。教授は前もってオーディション当日のレッスン予定を組んで来られており、私はなんとトップバッターでレッスンを受講することになった。

レッスン1日目 8月12日 12:00〜12:30

〈Die Jahreszeiten〉より、Hanneのアリア“Welche Labung für die Sinne”

主に“e、i”母音が平たくなってしまうこと、また、それを意識したときに暗すぎてしまうこと、“o”母音が深くなりすぎてしまうことを指摘され、それを直すことをメインに行った。

※レッスンを終え、すぐさま練習室を予約しに行ったが、オーディション直後に練習室を予約しに行けるクラスが多いため、レッスンを終えてから向かった私は希望の時間(9:00〜11:00)で抑えることが出来ず、8:00〜10:00の予約となってしまった。

レッスン2日目 8月14日 12:30〜13:00

〈Die Lustige Weiber von Winsor〉より Annaのアリア“Wohl denn! Gefaßt ist der Entschluß”

朝8:00より練習室で発声を済ませ、少し早目にレッスン室に向かい、2人ほど聴講した。

自分の番になると、真っ先に教授は私を一週間後のアカデミーコンサートに推薦したい旨を仰った。アカデミーコンサートなど私には無縁だと思っていたので最初は教授が何を仰っているのか全然わからなかったが、簡単な言い回しにしてくださり、ようやく理解できた。嬉しくて夢のようであるのと同時に物凄いプレッシャーを感じ、それから一日中フワフワしていた。

選曲の際、前レチのついているアリアはレチタティーヴォから歌わねばならないと言われ、前レチを今までに勉強して来なかった2つのアリアは排除され、ウィンザーのアンのアリアか、魔弾の射手の1幕のエンヒェンのアリアのうちいずれかを歌うということになり、手始めにウィンザーを見ていただくことになった。一度通して歌うと、曲がマイナーな割に凄く綺麗で、私の声にも合うと仰ってくださり、エンヒェンを歌う前にアカデミーコンサートで演奏する曲がウィンザーに決定した。

レッスンでは長いフレーズの歌い方や、ポジションのことを主に指摘された。

レッスン3日目 8月15日 10:30〜11:00

〈Die Lustige Weiber von Winsor〉より Annaのアリア“Wohl denn! Gefaßt ist der Entschluß”

前日に引き続き、アンのアリアをみていただいた。前日は曲の前半部分を中心にみていただいたのに対して後半部分に重点を置いてみていただき、歌いまわしや、発声や母音の問題について多くのアドヴァイスを得ることができた。

レッスン4日目 8月16日 11:30〜12:00

〈Acht Lieder〉Op.10より 8. Allerseelen

この日は違う曲を、とのことだったので、シュトラウスのAllerseelenを見ていただき、歌いまわしやアゴーギクのかけ方をメインに教えて頂いた。楽譜に書かれていることを基本に、歌詞の内容に応じて緩急をつけ、そこに強弱記号を効果的に生かすことによって平坦な私の音楽がいきいきとした。どんな歌曲を歌うときにでも応用できるようになりたいと思う。

レッスン5日目 8月17日 9:30〜10:00

私はこの日一番の受講生であり、伴奏者がいらっしゃらなかったため、教授は私の発声の問題と解決法、レッジェーロとして歌っていくためのテクニックの取得法を時間をかけて細かく教えてくださった。

レッスン6日目 8月19日 11:30〜12:00

〈Die Lustige Weiber von Winsor〉より Annaのアリア“Wohl denn! Gefaßt ist der Entschluß”

この日もアカデミーコンサートに向けてウィンザーのアリアを見て頂いた。やはりe、i母音が浅くなりすぎてしまうことを多く指摘され、それを治すことに時間を費やしてしまった。頭でわかっているつもりでもなかなか治すことができない自分が物凄くもどかしかった。

レッスン7日目 8月21日 11:00〜11:30

〈Der Freischütz〉よりÄnnchenのアリア“Kommt ein schlanker Bursch gegangen”

急遽クラスコンサートでこのアリアを歌うことになり、急いで準備した。歌いまわしの変更など、よりよく音楽を生かすためのアドヴァイスを頂き、話し言葉であるオペラアリアの中でいかに言葉を生かすことが大切であるかを学んだ。

Akademiekonzert  8月21日 18:00〜

〈Die Lustige Weiber von Winsor〉より Annaのアリア“Wohl denn! Gefaßt ist der Entschluß”

コンサートはAlte Mozarteum内のWienersaalで行われた。響きがとてもよく、欧州らしい古めかしい素敵な内装のホールで、そこで歌わせて頂けたことだけで本当に幸せであった。プレッシャーに押し潰されそうになりながら一週間弱でなんとか間に合わせた演奏には不十分な点もあったが、伴奏者のMarcusがしっかり音楽面でサポートしてくださり、会場のお客様も雰囲気で盛り上げてくださった。演奏後には拍手が止まず、再びお辞儀をしにステージに戻るという普段の私のクオリティではあり得ない経験をさせていただき涙が出た。

会場にはFaltin教授も駆けつけてくださり、賞賛の言葉と課題と講評をくださった。コンサートが終わるとFaltin教授はピアニストのMarcusと自分のクラスの出演者を飲みに行こうと誘い、旧市街の一角にあるカフェで小さな打ち上げをした。

そこにいたのは4人のドイツ人とドイツに留学されている中国人だったため私のみが言葉のハンディを抱えていたが、皆とても親切で気にかけてくださった。現地人の会話のテンポについていくのはなかなか大変で基本的には言葉のシャワーを浴びながらただただ相槌をうつことしかできなかったが、それが逆に語学の勉強へのモチベーションとして良い刺激を頂いた。

レッスン8日目 8月22日 11:00〜11:30

〈Der Freischütz〉よりÄnnchenのアリア“Kommt ein schlanker Bursch gegangen”
〈Der Freischütz〉よりÄnnchenのアリア“Einst träumte 〜Trübe Augen”

レッスン最終日はクラスコンサートで歌うエンヒェンの 1幕のアリアを集中的に見ていただく予定であったが、教授がオーディションで歌った3幕のアリアもレッスンしたいと仰ってくださり、1幕のアリアをざっと通し、本番に向けての細かいアドヴァイスを頂いた後、3幕のアリアも見て頂いた。

やはり、教授はこのアリアを歌うには前レチが欠かせないと仰り、初見でも良いから一度歌ってみようということになり、ほとんど初見のような状態で前レチも見て頂いた。変な癖や迷いが生まれる前に内容を踏まえた歌い方を教えて頂いて、帰ってから真っ先に勉強したいという意欲が湧いた。アリアでは今まで教授に指摘頂いたことの総まとめのようなレッスンをして頂き、課題がクリアになり、モチベーションを高めて頂いた。

Werkstattkonzert 8月23日 17:00〜

11:30頃から伴奏者と合わせを行い、その後、コンサート会場であるStudienkonzertsaalでGPを兼ねたレッスンが行われた。GPの後は時間があったので帰宅し、メイクや着替えなどの準備を行った。コンサートの前に教授から挨拶があり、その後ディプロムの授与があった。コンサートではまだまだ集中力の足らない、今一つ課題の残る演奏をしてしまったが、普段気にしていることは一先ずリセットして、自分の歌いたいように歌うことと、こっちで学んだことを最大限に生かすことができるよう心掛け、それについては達成することができた。

コンサート終了後はFaltin教授が一人ひとりにお褒めの言葉と課題をコメントしてくださり、その後はクラス全員でオーストリア料理のお店に行き、打ち上げを行った。私は二次会まで参加したが、先生、伴奏者、受講生が本当に良い方たちばかりで、言葉の壁を越え、盛り上がり、とても楽しく別れが本当に惜しかった。

コミュニケーションについて

先生が英語の引き出しも持たないドイツ人だったため、レッスンやそれ以外の会話も全てドイツ語で行われた。最初はなかなか慣れず、先生の仰っていることを理解するのに時間がかかったが、2日もすると少し慣れたのか先生の伝えたいことの大筋はくみ取れるようになった。私は3年前より語学学校に通っており、そこでは周りが日本人なため、ドイツ語で会話をしていても反応や相槌を日本語で(「へぇ〜!」「えっ?」等)とってしまう癖があり、現地でも日本語で反応してからドイツ語で話してしまっていたが、途中で自分の癖に気づき、反応や相槌をドイツ語でするように心がけたところ、コミュニケーションが少しだけ円滑に進むようになった。

ドイツで実際に生活している人の会話のテンポについていくのは大変だったが、現地で過ごしているうちに耳も慣れ、その人の言いたいことの大筋だけは理解できるようになった。

また、毎日のレッスンが音楽はもちろん、語学の勉強の場であり、レッスンでわからない単語が出てきたらメモを取ったり、レッスンの録音を復習のためにその日のうちに聞く中で、耳から入った情報からスペルを予測し、辞書で調べる作業を毎日行うことで語彙力を上げることができた。

日本で外国語を学ぶ際はあくまで語学であり、勉強になってしまいがちだが、現地で実際に言葉を話すと、言語はコミュニケーションをとるための手段であると感じた。

生活について

レッスンがすべて午前中だったため、7:00頃には起床し、練習室を予約した8:00〜10:00に大学で発声やエチュードを主に練習し、レッスンに行き、帰宅し昼食をとってまた練習し、夜は自炊したりコンサートなどに出かけたり…と、本当に毎日が規則正しく音楽漬けで自分が向き合いたい理想の形で音楽と向き合うことが出来た。

寮について

モーツァルテウム大学から徒歩8分のところにあるHaus Mozartという寮で過ごした。広く、清潔で、各部屋にトイレもシャワーもついており、駅やスーパーも近くにあり、市内の観光も全て歩いてまわれる大変便利で快適な寮であった。ただ、ホームページにはあると書かれていたWi-Fiが入っていなかったこと、キッチン用品が中途半端であったのが少し残念だった。

講習中のフリータイムについて

空き時間は聴講に行ったり観光に行ったりした。同じ声楽はもちろん、他の専攻のレッスンを聴講することで別の角度からの音楽へのアプローチを知ることができ、表現の上で新たな発見があった。日曜日は毎週、近くの教会のミサに参加し、荘厳な雰囲気を味わい、夜はできるだけコンサートなどに行った。

現地で聴く音の響きは日本では感じ得ないものであり、とても刺激的で、魅力的であった。また、徒歩で一流の演奏家の演奏を聴きにいくことができる環境は本当に幸せであった。

人との出会いについて

この講習会には本当にさまざまな方が参加されていた。大多数は私のような学生であったが、趣味として音楽を学んでいる方から、大学院を卒業し更に研鑽を積まれている方やプロとして活躍されている方までいた。

大学卒業後の進路に留学を考えている私は特に、ドイツ語圏に留学されている方と知り合えたことがとても大きく、実際に留学されている方から留学準備や留学生活、大学や先生の絞り方、現地の大学、大学院を卒業後のVorsingenのことまで詳しくお話を聞かせてもらうことが出来たのは自分の将来を考える上でとても有意義であった。

研修を終えて

Werkstattkonzert終了後、Faltin教授(左)と伴奏のMarcusと
Werkstattkonzert終了後、Faltin教授(左)と伴奏のMarcusと

講習先のザルツブルグをはじめドイツ語圏で過ごした日々は毎日が新鮮で夢のようであった。街中に響き渡る教会の鐘の音、見渡す限り広がる自然や美しい建造物、空気、教会のミサでの厳かでかつ暖かい空気や響きなど、日本の普段の生活では感じ得ないものや、逆に日本の良さも知って帰ってくることができた。

やはり、現地に行くことで大学卒業後に留学したいという私の希望は明確な目標になり、現地で出会った沢山の方々とのコミュニケーションによってリアルに捉えることができるようになった。

また、大学という狭い社会から離れ、様々なキャリアを持つ人がいる中に身を置くことで、自分を客観的に見ることが出来、冷静な目で今の自分に足らないものや課題、良さを発見することが出来た。

今回現地で学んだことや感じたことをもとに、焦らず、でも着実に、精進していけたらと思う。

最後に、日ごろから優しく、時に厳しくご指導くださる経種先生はじめ、申し込み手続きの際相談させてくださった宮谷先生、奈良先生、奨学金のこと全般でお世話になった学生支援課のみなさん、日ごろから私を支えてくださる家族や友人に心から感謝いたします。

国内外研修奨学生としてこのような沢山の貴重な経験をさせて頂き、本当にありがとうございました。

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