国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー

加畑 奈美 3年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修概要

研修機関:モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2013年8月7日〜8月28日
担当教授:Prof. Olivier Gardon

研修目的

日々、大学生活を送る中で感じている、「自ら積極的に行動する」という自分の課題を克服し、憧れのヨーロッパの地でピアノに向き合い、勉強したいと思い、私はこの研修で、「将来の夢に向かいまず一歩、行動すること」「西洋音楽の本場、ヨーロッパの伝統・文化に積極的に触れ、その環境の中でピアノに向き合い、学ぶこと」そして、「世界各国から受講生が集まるこのモーツァルテウム夏期国際音楽アカデミーに参加し、他の受講生と積極的にコミュニケーションを取り、演奏を聴くことで、刺激を受け、レベルアップを目指すこと」を目的とした。

研修内容

オーディション

講習会前日の8月11日に講習会受付と、オーディションの日の練習室の手続きを行った。講習会初日8月12日にオーディションがあり、私の希望するギャルドン先生のクラスのお部屋に行くと、日本人の方が大勢いて驚いた。全員が部屋へ入り、軽く出席を取られると、1人5分程度のオーディションが始まった。先生も、他の受講生もとても温かい雰囲気で聴いてくださっていて、あまり緊張せず弾くことができた。自由曲だったので、私は、ベートーヴェンのソナタ1楽章を弾いた。「1時間後に結果を出すので、少し待っているように」と言われ緊張しながら結果を待ったが、無事ギャルドン先生のクラスに入ることが出来た。レッスンは1回50分、2週間で5回になった。

8月13日第1回目レッスン

ベートーヴェン ピアノソナタ第21番 Op. 53 1楽章

オーディションで弾いたときの講評を言われてからレッスンが始まった。「よく弾いている。コントロールもよく効いていて、素直な音楽が見えてきて良かった。でも、コントロールされすぎていて、冷たい感じも受けた。テンポももう少し前向きに弾いてみたらどうかな?」と言われ、テンポに気をつけながら一度通して弾いた。躍動的に!ひとつひとつのパッセージを遊ぶように楽しそうに!など、先生の言葉、表情、弾いてくださる音、指さばきから伝わってくる生き生きとした表現が、ひしひしと伝わってきて、楽譜に書かれているひとつひとつのパッセージや強弱、調の移り変わりなどを自分でもっと楽しんで表現しないといけないと感じた。

8月14日第2回目レッスン

ラフマニノフ 音の絵 Op. 39−1

まず通して聴いていただくと、「よく練習してあるが、もっとagitato感が欲しい。方法はいろいろあると思うが、僕は、拍どおりに弾くのではなく、少しテンポをつめたり、ゆるめたり、自由自在に弾くのが良いと思う」とおっしゃった。また、この曲は半音階が多くちりばめられた曲であるが、私の演奏は、「和音の連続の中に出てくる半音階や、少し複雑に出てくる半音階の輪郭がぼんやりしてしまっている」また、「テンポがゆるんできてしまったり、効果のないところでのルバートがあったり、本当に聴かせたい音を響かせられていない」などの指摘を受けた。難しいパッセージや、強弱にばかり注意を向けがちであったが、小さいところばかりを見るのでなく、音楽を少し遠くから、大きな流れや、フレーズ感、形式を分析し、表現を考えることが、私の課題であると感じた。

バッハ 平均律第2巻より21番 B-dur

プレリュードは「スラーがとてもきれいで流れもよいが、もっと緊張感のある場所や、盛り上がってくるところを意識してつくるように。注意しないと、平坦でつまらない演奏になってしまう」と言われた。ギャルドン先生はレッスン中、「僕の弾き方はこうだけど、ひとつの方法であって、それを全て真似してとは言ってないよ」とよく言われた。色々な表現の仕方や、感じ方、を教えていただき、表現の幅が広がったように感じた。

フーガはアーティキュレーションについて、また和声の移り変わりを感じて表現することについて重点的に指導を受けた。強弱がほとんど書かれていないバッハだからこそ、自分でそれを読み解き、表現を工夫することで、演奏に説得力が生まれることに改めて気づき、考えさせられた。

8月16日第3回目レッスン

ブラームス 創作主題による変奏曲 Op. 21−1

一度通して聴いていただくと、「この曲は、演奏効果を出すのがとても難しいんだよね。繰り返しも多く、工夫しないと聴いていて飽きてしまう」と言われた。ひとつひとつのバリエーションごとの特徴とその特徴を表現するためのタッチ、ペダリング、テンポ感を指導していただいた。また、ブラームスの奥深い、重厚な響きをうまく出せず、指摘されることが多かった。バスの響かせ方、響きの聴き方が課題であると感じた。先生の弾いてくださる音には、さまざまな色があり、バリエーションごとに異なる表情で聴こえてくるテーマが美しく、改めて変奏曲の魅力を感じ、この曲が好きになった。バリエーションごとに出したい表情を自分の中でしっかりとイメージし、それを伝えるためのタッチ、ペダリング、テンポを工夫し、磨いていかなければならないと感じた。時間の都合上、Var.5まででレッスンが終わった。

8月21日第4回目レッスン

ラフマニノフ 音の絵 Op. 39−1

翌22日に、クラスコンサートを控えており、そこで弾くラフマニノフ 音の絵をもう一度見ていただいた。「この間より良くなったよ。でもまだテンポが後ろ向きになりがち、歌うのも大事であるが、agitato感は保ったままで」と言われた。先生の手拍子や一緒に弾いてくださるメロディにひっぱってもらいながら、テンポを重点的に指導していただいた。そして、どこに盛り上がりの頂点を持っていくのか、どの音を大切に表現するのかについて指導を受けた。agitatoの勢いの中で、大切にする音、盛り上げる箇所をもっと明確に持ち表現することを学び、明日の本番までに少しでも良い演奏ができるようにしようと思い、レッスン後、練習した。

8月23日第5回目レッスン

ブラームス 創作主題による変奏曲 Op. 21−1

3回目のレッスンの続きから見ていただいた。引き続き、バリエーションごとの表情と奏法について教えていただいた。私の苦手であったVar.9の十六分音符の弾き方を指導していただいた。最後の拍にあるから、気持ちがすぐに次の小節に行ってしまって、焦って弾きがちであるが、テンポをしっかり守り、4つのかたまりを2つずつに感じて弾くと良いと言われた。苦手意識からあまり好きでなかったVar.9であったが、先生に指導していただいて、曲想をもっと考え工夫し、Var.9のもつかっこよさを表現できるようになりたいと練習する意欲が高まった。各バリエーションで必要となるさまざまなタッチや表情について学ぶ事ができ、「音」を追求していくことが、今後の課題であると、改めて感じた。

クラスコンサート

ギャルドン先生のクラスコンサートは、8月22日モーツァルテウム大学内のスタジオにて行われた。
私は、ベートーヴェンのソナタ1楽章とラフマニノフの音の絵を弾いた。少し緊張したが、先生はじめ他の受講生、お客さん、皆さんが温かい雰囲気で聴いてくださっていて、楽しく演奏することができた。ギャルドン先生のクラスは、オーストリア、フランスなどへ留学されている日本人の方が多く、またレベルの高い受講生ばかりで、聴いていて圧倒された。特に印象的であったのが、皆さんの楽しそうに演奏している姿だった。演奏することを心から楽しみ、笑顔で弾いていたり、こう表現しようという気持ちが伝わってくる素敵な演奏ばかりで感動し、たくさんの刺激を受けた。

クラスコンサート終了後、先生を囲んでお食事をした。クラスコンサートでの演奏についてや、受講生それぞれが通っている学校についてお話したり、一緒に写真を撮ったりと、とても楽しい雰囲気の中、交流を深められ有意義な時間であった。

レッスン以外の過ごし方

練習室はとても広く、スタンウェイ、ベーゼンドルファーのピアノという贅沢な環境であった。エアコンの有無やピアノの状態などで、ランクがあり、料金が異なっていた。練習室の確保はオーディション直後に自分で行った。朝8時〜10時、午後3時〜6時の1日5時間を確保できた。練習室の確保は早いもの勝ちで、私は朝8時〜10時の部屋はエアコン無しの部屋しか取ることができず、毎朝暑い中練習するのが辛かった。

聴講が自由であったので、自分の先生のレッスン、他の先生のレッスン、また歌のレッスン、と積極的に聴講に行った。練習方法までも丁寧に指導される先生や、大声で熱く指導される先生、曲のイメージを、宇宙に例えるなど、丁寧に言葉で伝え指導される先生など、色々なレッスンを見ることができ、楽しかった。また、受講生のレベルの高い演奏を多く聴き、レッスンを聴けたことは、とても勉強になり、刺激的で有意義なものであった。

先生方の演奏会、また推薦された受講生しか出演できないアカデミーコンサート、友人が出演するクラスコンサート、ザルツブルグ音楽祭のポリーニのリサイタルなど、たくさんの演奏会に行くことができた。

講習会で知り合った受講生と食事に行ったり、お話できた時間も、とても有意義であった。留学生活のお話を聞かせてもらったり、日本での大学生活の話をしたりと、とても楽しく、たくさんの方との出会いに恵まれ、充実した毎日を過ごすことができた。

時間があるときには、旧市街や、少し足を伸ばし電車やバスを乗り継いで、観光に出かけた。歴史を感じる建物や、美しく広大な景色に感動し、憧れていたヨーロッパの空気、雰囲気を肌で感じることが出来、幸せだった。日曜日の朝には、寮近くの教会でミサに参加した。ドイツ語の神父さんの言葉、ミサ曲、パイプオルガンが響く、神聖な雰囲気であった。

講習期間中は、学校から徒歩7分ほどの、Haus Mozartという寮で過ごした。スーパーやパン屋さんが近くにあり、朝食のヨーグルトや、パン、ソーセージ、お水などを買いによく利用した。部屋は個室で、各部屋にシャワー、トイレ、キッチン、冷蔵庫もあり、鍋や食器、洗剤やスポンジ、バスタオルまでもが揃っていた。1週間に1度、シーツとバスタオルを取り替えてくれた。清潔に保たれており、とてもおしゃれな内装で大変快適な寮であった。地下に練習室とランドリーがあった。洗濯は、受付でチップを借り、自販機でチャージして行った。練習室は開放されており、自由に使ってよかった。6部屋あり、内2部屋にアップライトピアノがあったが、調律が狂い、とても練習できるようなピアノではなかった。コンロや、ランドリーの使い方など、わからないことが多く戸惑ったこともあったが、寮の方がとても親切で優しく、英語、ドイツ語で丁寧に説明してくれたので、安心して過ごすことができた。また、講習会の時期には、他の受講生も多く泊まっているため、寮内で知り合ったり、仲良くなることも多く、有意義に過ごせる寮であった。

研修を終えて

レッスン室にてOlivier Gardon先生と
レッスン室にてOlivier Gardon先生と

緊張や不安でいっぱいだったが、毎日が充実しており、3週間は本当にあっという間だった。カルチャーショックを受けたり、語学力の足りなさで聞き取れなかったり、伝えられなかったり、音楽面でも自分の未熟さを痛感したりと辛かったこともあった。しかしそれ以上に、学べたこと、新しく発見できたこと、そしてなにより、たくさんの出会いに恵まれ、音楽にどっぷりと浸かった環境の中で自分と向き合えたことが私の中でとても大きく、この3週間の研修は本当にかけがえのない貴重な経験となった。この経験を大切に、これからもっと努力し成長していきたいと思う。

このような機会を与えてくださった、大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心に指導してくださる花岡千春先生、江澤聖子先生、お世話になった先輩方、友人、家族、すべての方々に心から感謝します。本当にありがとうございました。

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