ロンドン・ミュージック・サマースクール
小林 莉菜 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:ロンドン・ミュージック・サマースクール
研修期間:2013年8月9日〜8月23日
担当教授:William Fong先生、Christopher Elton先生、Ilya Itin先生、Irina Osipova先生、Richard Ormrod先生、Tessa Nicholson先生、Timothy Barratt先生、Katarzyna Borowiak先生、Fazliddin Husanov先生
研修目的
世界各地でコンクールの審査員を務めていたり、ソロや室内楽で現在も活躍されているクリストファー・エルトン氏に教わりたいと思い、この講習会を選んだ。また、海外で音楽を学び、日本の視点とは違った海外の音楽を全身で感じ、吸収し、自身のレベルアップをはかりたいと思い、研修を希望した。
研修内容
オーディション
受講初日、まず会場に着くとすぐにレッスン室に案内され、グレード分けのオーディションがあった。部屋はいくつにも分かれていて、各部屋に先生が一人ずついらっしゃって、持ってきた曲を全て聴いて頂いた。おそらく、40分程度見て頂いたと思う。今回受講した講習会は受講したい先生を希望するのではなく、グレード分けされグレードにあった先生に割り振りあてられ、毎レッスンごとに違う先生に教えていただける講習会だった。
1日に30分のレッスンが2回あり全10回レッスンだった。
レッスン
第1回レッスン(8月12日)
Haydn Pianosonata in C Hob XVI:50 1st mov.
初回レッスンはWilliam Fong先生にハイドン作曲のソナタ(ハ長調)1楽章をみて頂いた。このレッスンはレッスン室でなく、ホールで行われたので、響きをとても感じることができた。「この曲の普通ではない所はどこでしょう」と問われ、フレーズの歌い方を指摘された。出だしのタッチが重いなどの細かい指摘もされながら、全体的にはダイナミックをもっと大げさになどの注意をされ、私の演奏が平坦だったことが浮き彫りになった。
第2回レッスン(8月12日)
Haydn Pianosonata in C Hob XVI:50 1st mov. 3rd mov.
2回目のレッスンはChristopher Elton先生にハイドン作曲のソナタの1楽章と3楽章をみて頂いた。Christopher Elton先生は私がこの講習会を選んだ理由でもある先生なので、レッスンして頂くことができてよかった。一度通した後に「音が綺麗だ」と言って頂き嬉しかった。しかし、テンポが揺れてしまうことや、Happyな曲なのに悲しく聴こえるなどの指摘もしていただいた。日頃から言われている「音に対するイメージをもつ」ということがまだできていないことを痛感した。
第3回レッスン(8月13日)
F. Liszt Fantasia and Fugue on the Theme B-A-C-H
3回目のレッスンはIlya Itin先生にリスト作曲のバッハの主題による幻想曲とフーガをみて頂いた。大切な音を意識してはいたのだが、「もっと響きが欲しい」と指摘された。先生の音はpでもピンとはりがあり、少しでも先生の音に近付きたいと思った。フレーズの意識の仕方や雰囲気を私の演奏と共に歌いながら指導して頂き、新たな発見があるレッスンとなった。
第4回レッスン(8月13日)
F. Liszt Fantasia and Fugue on the Theme B-A-C-H
4回目のレッスンはIrina Osipova先生にリスト作曲のバッハの主題による幻想曲とフーガをみて頂いた。テーマのフレーズ感を常に考えるようにと言われた。そして、テーマを更に響かせるための練習方法など教えて頂いた。そして、ペダルの使い方など細かい注意もして頂き、演奏がとても明瞭に変化した。
第5回レッスン(8月14日)
B. Bartok Klaviersonate Sz. 80 1st mov.
5回目のレッスンはRichard Ormrod先生にバルトーク作曲のピアノソナタの1楽章をみて頂いた。リズミカルな曲なのだが、私の演奏だと重くなっていたので、もっとダンスするようにと言われた。そして、クレッシェンドをもっと急激にして荒々しい感じを表現するようにと言われた。曲の歌い方など私の解釈と少しズレがあり、私の手の大きさでは弾けない奏法を言われた時は驚いたが、レッスンを終えてみると、レッスン前より勢いのある演奏になり、音楽が生き生きとした。また、このレッスン室のピアノの椅子がとても変で、1番高い位置に設定しても低すぎて思い通りの演奏ができず、私の語学力ではそのことを先生に伝えることができなかったので、そのことが心残りだった。
第6回レッスン(8月14日)
B. Bartok Klaviersonate Sz. 80 2nd mov.
6回目のレッスンはTessa Nicholson先生にバルトーク作曲のピアノソナタの2楽章をみて頂いた。「面白い曲を持ってきたのね、この曲はとても難しいわよ」と言われた。「バルトークの有名な組曲で私はバルトークを学んだから、ぜひ聴いてみてね」とアドバイスを頂いた。テンポが遅く、つまらなくなりがちだが、強弱をかなり大げさにして、painfulな感じが出てくるようにと指導して頂いた。曲想作りに悩みをもっていたので、沢山提案していただけてとても参考になった。
第7回レッスン(8月16日)
F. Liszt Fantasia and Fugue on the Theme B-A-C-H
第7回レッスンはTimothy Barratt先生にリスト作曲のバッハの主題による幻想曲とフーガをみて頂いた。もっと広がりを大きくした方が良いと言われた。具体的にはリズミックな所でのポーズ(休み)の使い方や、よりリズムをクリアにするためにペダリングを気を付けたほうが良いと言われ、演奏と共に歌いながら熱のこもった指導をしてくださった。ブレスが浅い所が多かったのだが、先生の呼吸に合わせて弾くと、演奏に深さが出てきた。
第8回レッスン(8月16日)
Haydn Pianosonata in C Hob XVI: 50 1st mov.
第8回レッスンはIrina Osipova先生にハイドン作曲のソナタ(ハ長調)1楽章をみて頂いた。最初に通して演奏すると「休符をもっと正確に入れなさい、なんか私の好きなテイストじゃないのよね」と言われ、初日のレッスンを受け私なりにまとめたはずだったので、困惑してしまった。ピアノの音でなく、他の楽器やオーケストラの音を想像して、もっと音の色や音の幅の種類を増やしなさいとアドバイスを頂いた。フェルマータの伸ばし方について指導され、きちっとカウントするようにと言われた。
第9回レッスン(8月17日)
Haydn Pianosonata in C Hob XVI: 50 1st mov.
第9回レッスンはKatarzyna Borowiak先生にハイドン作曲のソナタ(ハ長調)1楽章をみて頂いた。ファイナルコンサートでこの曲を演奏する予定だったので、再び同じ曲を見て頂いた。今回のレッスンでは、「フレーズごとの差をはっきりと表現してね、サプライズな感じよ」とわかりやすい表現で話して頂き、イメージがしやすかった。変化をつけるときに大切なのは休符だと言われ、私は休符の使い方が苦手なのだと認識することができた。
第10回レッスン(8月17日)
Haydn Pianosonata in C Hob XVI: 50 1st mov.
第10回レッスンはFazliddin Husanov先生にハイドン作曲のソナタ(ハ長調)1楽章をみて頂いた。最初に通して演奏すると「アーティキュレーションの付け方や歌い方が違うよ」と言われた。この講習会だけでもこの曲を見て頂くのが5回目だったため、5人の先生の意見を取り入れながら作りあげていたので、とても戸惑ってしまった。しかし、先生は古典派の得意な先生だったので一度先生の弾き方に直してみようと思い、先生が教えて下さった奏法で弾いてみると、演奏にハリがでて、生き生きとした。そして、自分がどのような音楽にしたいのかが見えてくるレッスンになった。
コンサート
年齢ごとに分けられたクラス(20人程度)で行われるコンサートが1週間の間に2回あった。部屋は6号館の試験で使用されている部屋くらいの大きさで、FAZIOLIのピアノだった。1回目はインフォーマルコンサートという形で私服で行い、私はハイドン作曲のソナタ ハ長調3楽章を演奏した。このコンサートのことを当日知らされたので、とても緊張したが、他の生徒の演奏も聴くことができ、温かい雰囲気の中で演奏が楽しめた。
2回目はフォーマルコンサートという形でフォーマルスタイルだった。私はリスト作曲のバッハの主題による幻想曲とフーガを演奏した。他の生徒は同年代といっても、もう大学を卒業して演奏活動をしている人もいたので、内容の濃いコンサートで聴いていてとても楽しかった。演奏も楽しく演奏することができた。
クラスごとのコンサートの他に、参加者全員が演奏するファイナルコンサートがあった。ファイナルコンサートは1部と2部に分かれており、2部にはファイナルコンサートのオーディションで選ばれた生徒が演奏した。オーディションでは5分以内の曲でなくてはいけないということを前日に伝えられ、完成していないハイドン作曲のソナタ ハ長調3楽章での参加になった。残念ながら私は1部での演奏だったが、良い緊張のなかで演奏できた。未完成だったため、自信がなかったが、ロシア人の女の子に「あなたのハイドンすごくよかったわ」と言ってもらい、とても嬉しかった。この講習会の主催のMichael Schreider先生にも「最後の演奏とてもよかった」と言って頂き、1週間頑張って良かったと思った。
レッスン以外の過ごし方
レッスンが2人で1時間という割り振り方だったので、一緒になった人のレッスンは聴講をした。それ以外の時間9時〜16時までは練習室が割り振られていた。寮の部屋にもピアノが置いてあり、21時まで十分に練習することができた。19時からはコンサートの時間となっており、自分たちのコンサートでない時は、先生たちのコンサートやFazliddin Husanov先生のリサイタル、Ilya Itin先生のリサイタルがあった。
すべて学校内で行われ、基本的には寮から外出禁止だった。その他にレコーディングもあり、最終日に記念としてCDをいただいた。
寮
講習期間中は学校の敷地内にある寮に宿泊した。部屋は3畳ほどのワンルームでベッドと机とアップライトピアノが置いてあった。洗面台やトイレ、シャワールームは共同だったので、少し不便だった。しかし、ピアノの練習時間は十分に確保できたので、その点はとても良かった。
研修を終えて
私は今回初めて講習会というものに参加しました。過去の報告書や先輩の話を聞いて、講習会のイメージをふくらましていたのですが、想像していたものとは大きく違い、はじめは戸惑いましたが、結果的にはとても良い経験になったと思います。講習会はかなりハードスケジュールでしたが、素晴らしい先生方や様々な国籍の友達に恵まれ、講習を受けられたことに本当に感謝しています。語学面ではやはり日本人が一番英語ができていない印象でした。実際私も長く英語を勉強していましたが、聞き取ることができても、思ったことを喋れないことが多く、相づちを打つことしかできない場面も多々ありました。また、多国籍の人が集まっているので、英語をしゃべっていても色々な地方のなまりがあり、お互いに聞き返してしまうことも多く、コミュニケーションをとるのが非常に大変でした。たった1週間の講習ではありましたが、得るものは大きく、いろんな意味で成長できたのではないかと感じています。
最後に、国内外研修奨学生としてこのような機会を与えて下さった、大学関係者の皆様、色々な相談にのって頂いた学生支援課の皆様、いつも温かくご指導くださる加藤先生、ご尽力いただいた全ての皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。