国立音楽大学

ニース夏期国際音楽アカデミー

伊藤 花奈美 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修概要

研修機関:第56回ニース夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2013年7月29日〜8月12日
担当教授:ミシェル・ベロフ教授、フィリップ・アントルモン教授

研修目的

フランスの文化や芸術に直に触れながら、感性を磨き視野を広げる機会とし、フランス音楽に対する理解につなげる。また著名な教授のレッスンを受講、聴講できること、さらに世界各国から集まる同世代の受講生と交流することで多くの刺激を受け、自らの音楽を見つめ直し、発展させていくことを目的とした。

研修内容

〈1週目〉Prof. Michel Beroff

7月30日 打ち合わせと第1回レッスン

C. Debussy Bruyères / Les Fées sont d’exquises danseuses

ベロフ先生のクラスは16人の受講生がおり、その多くを日本人が占めていた。45分のレッスンを4回していただけることになり、私はこの日の午後、1回目のレッスンとなった。

まず先生からどのような曲を持ってきているか質問され、レッスンが始まった。2曲を通し終わると「やりたいことや感じていることも分かるけれど、考え過ぎなところがあるから、もっとシンプルにしていった方が良い。そう思ってもう一度弾いてみて」とおっしゃり、1曲目をもう一度弾いた。「さっきよりドビュッシーらしいけれど歌いすぎないように」そう言うと先生が冒頭を弾いて下さった。先生の演奏は空間の広さが感じられ、またとても洗練されていた。脱力についてもレッスンしていただき、音色の変化をつけやすくなったように感じた。

2曲目は、方向性は良いから曲想の変化を大袈裟につけるようアドバイスをいただいた。そのためにはペダルの助けも必要で、ペダルを工夫することで得られる効果についてや、ペダルとタッチの関係などについて細かくレッスンをしていただき、よく耳を使いタッチと同じようにペダルの踏み方も研究しなければならないと思った。

8月1日 第2回レッスン

C. Debussy Feuilles mortes / Les tierces alternées

1曲目を通すと、「この曲はハーモニーが美しいからそれを出すには手首や腕をもっとうまく使って和音を響かせなければならない」とおっしゃり、実際に手首などを持って教えて下さった。弾く直前に体が緊張してしまい腕全体に力が入っていることがよく分かり、それをなくすと以前よりも深みのある音になったように感じ、先生からは手首など柔軟なのだから、それをもっとうまく利用するよう言われた。また一つ一つの響きについてやることも大切だが、それにとらわれ過ぎると流れがなくなるので、風のイメージを持つと良いというアドバイスもいただいた。

2曲目は打鍵のスピードを上げることや、この曲のように練習曲のようなものはフレーズが疎かになりがちなので気をつけるよう注意を受けた。打鍵のスピードに関しては以前からの課題で、今回先生からは指自体を鍛えていくことも大事だが、打鍵の角度や位置なども重要であると教えていただいた。まだまだ反応が鈍く今後も時間をかけて取り組む必要があると感じた。フレーズはテヌートのついた音がよく響いていなことに問題があり、これは前回のレッスンで教えていただいた手首を意識することで軽減されたように思った。

8月4日 第3回レッスン

C. Debussy Brouillards / Feux d’artifice

1曲目は情景が想像できる良い演奏であったとおっしゃって下さり、あとはメロディーをもっとうまく浮き立たせられるタッチや指使いがあると思うので研究するようアドバイスをいただいた。先生の指使いで弾くとドビュッシーの書いた奏法の指示も表現しやすくなり、メロディーも品良く浮き立った。弾きやすさばかりを重視した指使いになっていたので見直そうと思った。またペダルはドビュッシーの指示通り長く踏むことを勧められたが、今のタッチでは響きに負けてしまっているので注意が必要であり、バランスも十分に気をつけなければならないと感じた。

2曲目は一度通すと「きちんと弾いているが鮮やかさや大胆さが足りない」とおっしゃり、これも打鍵のスピードや体をうまく使うことができれば解消され、音楽も大きくなると思うと言われた。具体的には、速いパッセージをかたまりで捉えすぎている点や体の切り替えが遅い点などをご指摘いただき、全体にスケールを拡大していくことを目的としたレッスンをしていただいた。

8月6日 第4回レッスン

C. Debussy Général Lavine-eccentric / Hommage à S. Pickwick Esq. P.P.M.P.C. / Canope

1曲目は「音色や雰囲気はでているから、この曲の表情を誇張してみて」とおっしゃり冒頭を弾いて下さった。先生の演奏は2拍子の軽快でめりはりのあるリズムがとても表現されていてユーモアにあふれていた。細かく書かれた奏法の指示を大袈裟につけて弾いてみると、「その方が断然面白いよ」とおっしゃり、なにより自分も弾いていて楽しかった。曖昧になっていた奏法記号などもあり、楽譜を読み直さなくてはならないと思った。

2曲目、3曲目を通して弾くと、どちらも響きが足りないとおっしゃり、特に3曲目は響きで繋げなさいとご指導いただいた。時間となってしまったため終わりかと思ったが、最後に先生がCanopeを弾いて下さった。冒頭はppだが響きは豊かで、連打音は不吉さを出し、とても神秘的な演奏であった。

〈2週目〉Prof. Philippe Entremont

8月6日 打ち合わせと第1回レッスン

C. Debussy Bruyères / Les Fées sont d’exquises danseuses

アントルモン先生のクラスは10人の受講生がおり、うち3人が日本人であった。全員が集まるなりすぐに「みんな何を持ってきているのかな? 順番に弾いてみて」と先生がおっしゃり、全員1曲ずつ演奏した。その後打ち合わせとなり、アントルモン先生にも45分のレッスンを4回していただけることとなった。

打ち合わせ後1回目のレッスンをしていただき、1曲目を通すと「美しくて気持ちが良い、でももう少しゆったりしていても大丈夫」とおっしゃり、落ち着いて響きを味わいながら弾くよう言われた。体は動かしすぎずその分腕を開放する方法を教えて下さり、動かないことで和音などが立体的に感じやすくなり、自分の音もよく聴こえてきた。この曲に限ったことではないので、他の曲でも実践してみようと思った。

2曲目は全体的にpやppが多いのに繊細さが足りないとご指摘をいただき、頭が下がっているのとタッチも関係しているとおっしゃった。私は指先にばかり意識がいっていて、頭が下がりきちんと音を聴けていなかった。タッチについてはベロフ先生からもご指導いただいたが、俊敏さを磨いてppでも通る音を研究すると良いとアドバイスをいただいた。

8月8日 第2回レッスン

F. Chopin Ballade No.4 op.52

始めに通した後、この曲の冒頭は難しいから注意深くなってしまうのは分かるけれど、ホールなどで弾くにはもっと広がりが必要だとおっしゃり、呼吸のことに触れながら腕の重みを有効に使って広がりのある音にする方法を教えていただいた。第1主題は歌い方や左手の音色についてご指摘をいただき、これから展開されていくから感情を出しすぎないようにとも言われた。また、テンポが揺れてしまうのが気になるとおっしゃり、それはフレーズの最後まで緊張感を保てなくなってしまうことに原因があり、手だけではなく体で音楽をつなげる意識を高めた方が良いとご指導いただいた。

8月10日 第3回レッスン

C. Debussy Brouillards / Feuilles mortes

2曲を通して弾き終わると、響きを学ぶのに良い曲だねと言い、音のイメージはそれで良いから響きを増やした方が良いとおっしゃり、1曲目では一番美しい音の混ざり方になるよう左手、右手、ペダルのバランスを研究し、それをホールやピアノによって調整していかなければならなく、それには足の技術を磨くことも並行してやることが大切であるとご指導いただいた。

2曲目はレガートをうまくやる必要があるとおっしゃり、まずは和音一つ一つの色をもっと出し、それから響きでレガートをつくるときれいにつながるとご指導いただいた。次の音へ移るときの最後の響きを注意深く聴くことでハーモニーの変化を感じることもでき、つながりもでてきたように思えた。また響きを立体的にするにはバスが重要であり、弾く際には腕だけでなく肩も意識するようアドバイスをいただいた。

8月11日 第4回レッスン

C. Debussy Feux d’artifice

音量が増してくると力んでしまっているから音がとんでこない、花火の光の部分がまだ足りていないよとおっしゃり、冒頭や途中でてくるppで響きをつくる部分は正確性や繊細さが出ていて良いが、ダイナミックな部分とのコントラストに欠けるとご指摘をいただいた。メロディーだけでやろうとせず、響きで音量を増していくよう言われ、実際にやってみると音量と思うより響きを意識した方が自然に豊かに聴こえ、音量も増していた。響きを聴いているせいか体も不必要に動かず安定した音が出ていたように思う。またフレーズについてもバラードの時のように体でつなげることを意識するようご指導をいただき、レッスンは終了した。

レッスン以外の過ごし方

レッスンがない日は、聴講や練習に時間をあてていた。聴講は自分のクラスだけでなく、開講している全てのクラスが聴講可能であったため、ピアノに限らず声楽、ヴァイオリン、フルート、室内楽など様々なクラスのレッスンを聴講した。客観的にレッスンを見ることで自分の演奏にも活かせる多くのヒントを得ることができ、また語学の勉強にもなった。練習は与えられた練習室で1日3時間まで行うことができた。

コンサート

シミエ修道院では約一日おきに教授陣による野外コンサートが行われ、ほとんどが薄暗くなる21時から始まり、寮へ戻るのは23時過ぎであった。私は全てのコンサートに行ったが特に印象深かったのはシャルリエ教授によるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、教授の音楽に引き寄せられ、活気あふれる演奏に呆然と聴き惚れたことを今でも鮮明に覚えている。

研修を終えて

レッスン室にて、ベロフ教授と
レッスン室にて、ベロフ教授と

この2週間、私にとっては新鮮なことばかりで、不安など感じている暇もないくらい充実した日々でした。またベロフ先生、アントルモン先生のレッスンを受講できたことはもちろんですが、世界各国から来ている受講生と語り合ったり、演奏を聴いたりして得ることができたことも非常に多く、刺激的でした。今後もここでの感動や体験を忘れず研究していきたいです。

最後に国内外研修奨学生として貴重な機会を与えて下さいました大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心にご指導下さる先生方に心より感謝申し上げます。これからもこの経験を活かし日々精進していきたいと思います。ありがとうございました。

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