国立音楽大学

ウィーン夏期国際音楽ゼミナール

小山 祥太郎 4年 演奏学科 声楽専修

研修概要

研修機関:ウィーン夏期国際音楽ゼミナール
研修期間:2013年8月12日〜8月23日
担当講師:Oskar Hillebrandt先生

研修内容等

私の参加したウィーン夏期国際音楽ゼミナールは毎年7月中旬から9月後半まで5ブロックに渡りウィーン国立音楽大学で開かれる講習会である。クラスは弦、管、打、声楽、室内楽、指揮等幅広く開かれている。私の参加した第3ブロックでは声楽が2クラス、ピアノが4クラス、室内楽、クラリネット、ヴァイオリンが1クラスずつ同時に行われていた。

講習期間8月12日から23日までの2週間でレッスンは毎日、1人45分で行われた。私がいたOskar Hillebrandt先生のクラスには私を含め8人の受講生がいた。日本人が4人、アメリカ人が1人、イタリア人が2人、フィンランド人が1人。その中でイタリア人の2人とフィンランド人はすでに声楽家として活動しているプロであった。講習会には日本人はとてもたくさんいた。私のいたクラスのアシスタントピアニストは日本人で、同じクラスの日本人3人の通訳も兼ねていた。私は通訳を申し込んでいなかったがどうしても先生の言っていることが分からない時などは通訳をしてくれて、自分の語学力で努力しながら分からない時には助けをだしてくれるとてもよい環境で勉強することができた。

この講習会では受講生全員が1人1回はコンサートに出られるように配慮がされていた。コンサートは全部で3回あった。1つ目はハイドン生誕の家に行って、生誕の家の中にあるコンサートサロンでのコンサート、2つ目はコンクール、3つ目は最終日に行なわれた参加者によるコンサートである。コンクールはクラスから2人が出ると決まっていてそれは先生によって決められた。私はハイドン生誕の家でのコンサートに参加した。

1日目

講習会初日はまず受講生の声聴きから始まった。私はSchubertの“Winterreise”から“Die Krähe”を歌った。全員の歌が終わると1人ずつのレッスンになった。先生は優しく熱心に教えてくれるとても良い先生だった。レッスンの最初は先生の発声のメソッドから始まった。先生のメソッドは声を頭の後ろからまわして出す、口を開けて息を吸った時に冷たくなるところから声が出てくるイメージ。私は発声を見てもらった時aの母音にoが混ざっていると言われかなり直してもらった。発声を変えると声がかなり体から身離れしていく感覚を感じた。発声が終わると曲のレッスンへ、この日はMendelssohnの“Paulus”から“Gott sei mir gnädig”を見てもらった。この日に言われたことはレガートを意識すること。私が歌っていたのはかなりマルカートに近いようであった。意識して直そうとするのだが、思うようにレガートが作れずもどかしかった。

2日目

Hillebrandt先生のレッスンは45分のうち発声が最初に10分程度、その後35分程度の曲のレッスンになる。2日目のレッスンも発声から始まった。今日はカバーの方法を教えてもらった。私は以前までカバーというものを全く知らず、一切やっていなかったので発声の際にfの音まで今まで通りしていたら「君はテノールになりたいの?」と聞かれた。カバーをしないとすぐに声はだめになると言われカバーをしなさいと言われた。最初カバーをするとかなりのどに負担がかかっているような感覚になったが、先生曰くそれでのどを壊すことはないとのことだった。曲は“Die Krähe”をみてもらった。この曲でもやはりレガートのことを強く言われた。レガートに歌うために一息で歌わなければならないところもたくさんあった。ブレスを取りすぎていた時より、一息で歌うところを増やした時の方が音楽全体が繋がっているようになり、音楽的になったと感じた。伴奏がpで書いてあるとpで歌うことに力と使ってしまうがそれが先行してしまうとだめだと言われた。語ること、説明をすることの方が先行すべきと言われた。

3日目

3日目は発声で頭の響きをよく使うことを指摘された。私は体の支えはよく使えているようだが頭の響きを全然使えていなかったようだ。頭の響きを使うように意識するとレッスン室に声がかなり響いていくようになった。曲はDonizettiの“La Favorita”から“Vien, Leonora”を歌った。指摘されたのはフェルマータで音をのばした後テンポへの入り方を指揮者にちゃんと伝わるように入ること。カデンツァをもっと自由に歌うことである。「ただきちっとしたカデンツァでは全くなく自由にゆらした面白いカデンツァにしなさい」と指導をうけた。レガートももちろん重要で、レガートで歌いながらカバーをして凸凹しないようにすることはなかなか難しい。

4日目

この日はハイドンの家でのコンサートに出ることが決まり、曲を決めなければならなかった。Mahlerの“Lieder eines fahrenden Gesellen”から“Ich hab’ ein glühend Messer”とMendelssohnの“Elias”から“Ich bin genug”を持って行って結局Mendelssohnに決まりそのままレッスンになった。Ich bin nichtのレガートと重みがある言葉への持って行き方と発音を指摘された。先生曰くbesserのeはSeeleのeと同じように狭めのeらしく、Zebaothのeは広い方が良いらしく私の今までの感覚と全く違っていた。テンポの速い部分では言葉の重みをおくところが違っていてBundという言葉をかなり強く発音した。

5日目

2週目初回のレッスンではSchubertの“Winterreise”から“Das Wirtshaus”を見てもらった。1本の線になるように指摘を受けたがそれがなかなか難しかった。Totenakkerなどの2つの単語が繋がっている単語をリエゾンしないように歌い分けることが意識をしていてもできず、それでレガートを壊してしまっていた。先生に言われ優しくpで歌おうとすると子音がかなり鈍くなり、聞こえにくくなってしまった。子音を明確に出しながら角の立たないpのレガートを歌うことが可能なのかと試行錯誤した。またこの日は「グロティス」と言う技術を教わった。グロティスとは、イメージでは声帯を一瞬しめて母音をはっきり発音させるような技術のことである。“Das Wirtshaus”では冒頭のeinenやunbarm等に使う技術のようだ。

6日目

6日目は前日の続きの“Das Wirtshaus”とMahlerの“Lieder eines fahrenden Gesellen”から“Wenn mein Schatz Hochzeit macht”を見てもらった。fになるとのどが絞まってしまうのでpでの声出しもした。Mahlerはテンポがよく変わる曲で、レッスンに持って行ったが伴奏との合わせがやはりうまくいかず、合わせながらのレッスンだった為、効率がよくなかったように思う。この日の晩には講習会で招待券を配っていた王宮でのコンサートへ行った。Hillebrandt先生もそのコンサートに出演していた。先生自身もそのコンサートを楽しんでいて、引き寄せられる力がすごかった。

7日目

この日はMozartの“Le nozze di Figaro”から“Se vuol ballare signor Contino”を歌った。いつもレガートのことを言われていたのだが、この日レガートが少し分かった。私は無意識のうちに、単語や母音が変わる時に言葉と一緒に息も少し止めてしまっていたようだ。意識をして息を流したまま、その合間に子音や母音を変えるとレガートに聞こえるようであった。Mozartではiの母音が狭くなってしまうと指摘を受けた。かなり意識をしていないとあいていかなかった。また先生は「旋律の一番最後に大事な音があって、それまでの最高音は頂点ではなく飛び出させてはいけない」と言っていた。実践すると旋律の充実感が増し、凸凹もしにくくなったように感じた。

8日目

最後のレッスンはコンクールがあるため30分だった。この日はWagnerの“Tannhäuser”から“Wie Todesahnung”を歌った。この曲は先生の十八番の曲で譜面を見ることもなく、発音でもレガートでもたくさん指導をしてくれた。細かい指導がたくさんあって全く先には進まなかったが、旋律1つ1つの繊細なニュアンスを教えてもらった。私は母音が変わると口を変えてしまうらしく、それがかなり癖になっていた。レッスン後にはコンクールと参加者コンサートにも行った。コンクールは部門に分かれているわけではなくすべて混合で行なわれた。同じクラスのプロのイタリア人女性も参加していて、何人かいた1位の1人になった。参加者コンサートでは同じクラスの人の歌やピアノやヴァイオリンが聴けた。

9日目

講習会最終日のこの日はレッスンがなく、クラス内コンサートを行い、全員1曲ずつ歌った。先生が途中ピアノの弾き語りをしながら終始和やかなムードだった。クラス内コンサートが終わると近くのレストランに行き、全員で昼食を食べた。その後は「なんでも困ったことがあったら電話してきなさい」を言っていただき講習会を終えた。

研修を終えて

レストラン前にてHillebrandt先生と
レストラン前にてHillebrandt先生と

今回の研修では予想以上にたくさんのことを学ぶことができたと思う。発声、レガート、カバー、グロティス、発音の細かい違いなど今までに勉強してこなかったことや、してきていたが間違っていたことを学び、これからの学びにいかすことのできる力となった。Hillebrandt先生に卒業したらウィーンに来なさいと言っていただけたことは自分の大きな自信になった。また先生にはバス・ブッフォを学びなさいと言われた。例えばドン・ジョヴァンニではウィーンで仕事はないがレポレッロやマゼットなら可能性があると教えていただき、これから学んでいく1つの方向を教えていただいた。

語学の能力というのは重要であるとこの研修で再び実感をした。ドイツ語は今まで熱心に取り組んできた語学ではあったが、やはりレッスンで先生の言わんとしていることをきちんと理解するためにはまだまだ勉強が必要である。

この研修でレッスンでは語学能力がさらに必要と実感したが、語学能力の他に必要と思う能力がもう1つある。それはコミュニケーション能力である。これは語学の能力に比例しそうだが、案外そうでもないことを今回気づかされた。日本でもそうだが、日本語を堪能に話せるからといって全ての日本人とコミュニケーションがとれるわけではない。自分から相手に対して関心を持って向かっていく力が私には欠如している。実際に英語もドイツ語もさほど話せないが、先生や講習会の仲間とコミュニケーションを取ることができたくさんの友達を作ることのできる人がいた。ある意味ではこの能力は言葉の違う海外では、語学より重要なものなのではないかと思う。音楽を続けていくのに海外はもちろん、日本でさえこの力は必要だ。この先音楽の力を高めるのと同時にコミュニケーション能力も高めていきたい。

最後にこのような素晴らしい機会を与えてくださった大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心にご指導くださる小川先生、講習会参加や語学でお力添えいただいた宮谷先生、家族、友人に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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