国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー

山本 有紗 4 年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

オーディション

講習会初日、私が希望するDina Yoffe先生のオーディションは16時半からの予定だった。時間が近づくとレッスン室の周りに40人ほどの希望者が集まっていた。想像していたより日本人がとても多く(30人近く?)驚いた。時間を少し過ぎるとスタッフが現れ紙をさらっと貼る......オーディションは17時からに変更された。先生が現れると希望者は全員レッスン室に入った。名前順でオーディションが始まった。1人2曲、だいたい5分程度の公開型だった。2曲弾くということにかなり戸惑ったが、それ以上に私の名前の頭文字がYだったため、3時間近く緊張しながら待っていなければいけない状況が辛かった。先生はタイプの異なる曲を2つ聴きたいとおっしゃっていたので私はプーランクとバッハを演奏した。

結果が出たのは翌朝。お弟子さんを連れてきていたこともあり、今回は私を含め10人しか合格にならなかった。私のレッスンは1回45分、2週間で5回になった。

レッスン

第1回レッスン Poulenc ナゼルの夜会

一度通して弾くと「面白い曲ね〜。とても表情豊かで方向性は間違っていないわ」と言ってくださった。そこから抜粋してそれぞれの曲について先生がメロディーを弾いたり歌ったりしながら指示してくださった。すると自然と音楽の流れができ、緊張せず弾くことができた。また題名の意味を一緒に確認し、キャラクターをもっと明確にした方が良いとアドバイスを受けた。時間の関係で4曲ほどしか見てもらえなかったが、表現力の幅が広がったと実感できた。

第2回レッスン Bach 平均律第2巻より3番 Cis-dur / Chopin 練習曲 作品25-5

Bachを一度通して弾くと、「プーランクで弾いていた表現力がこっちには全然活かされてない。プレリュードは音楽の流れを、フーガは手首を動かさず、指を使って打鍵をした方がいい」とおっしゃった。プレリュードに関してはペダルのことにも触れた。四声の弾き分けをする際、まずペダルなしでよく聴いてごらんと言われ、実践してみると、私はその違いに気づくことができた。もともと自分自身で問題視していた部分でもあったが先生に指摘されたことでもう一度頭をクリアにして取り組むことができた。

Chopinエチュードは左手のフレーズをもっと音楽的に意識して弾くよう注意された。片手のみのときは意識できていてもそれが両手になると疎かになってしまうことに気づいた。

また中間部はもっと繊細に。先生が弾いてくださるChopinはうっとりするほど美しく、しかし芯のある音だった。ひとつひとつのことを忠実に再現しなければ聴いている人には伝わらないと思った。

第3回レッスン Mozart ピアノ協奏曲第20番 二短調

先生がオーケストラのパートを弾いてくださった。この曲に関しては音色、フレーズについて注意された。「右手の16分音符でころころと回るフレーズは、ただ綺麗に弾いてはならない。もっと一音一音に緊張感のある音で弾きなさい」とおっしゃった。それは前回指摘された指の打鍵のスピードやタッチの強さを意識することで少し改善することができたが、これは今後の大きな課題だと思った。

第4回レッスン Bach 平均律第 2 巻より 3番 Cis-dur

前々回のレッスンで、「もう一度この曲を持ってきてね」とおっしゃられていたので、練習の成果を聴いていただいた。一度通して弾くと「別の女の子が弾いているみたい。私が言ったことは間違っていなかったわ。たった2日間でこんなに変わるなんて......私はすごく嬉しい」と言ってくださった。私は練習している間、これで合っているのかな。先生はどういう反応をなさるのかな......とすごく不安に思っていたので、練習の方向性が間違っていなかったことにほっとした。特にフーガはタッチがすごく良くなったと言ってくださり、「これができれば、MozartだってChopinだってなんでも弾けるのよ。だからこれは忘れないでね」とおっしゃった。私に必要な大きなポイントを教えてくださり、これからも常に意識を心がけようと思った。

第5回レッスン Poulenc ナゼルの夜会

クラスコンサートでプーランクを演奏することになったので抜粋した曲を見ていただいた。先生はフランスについてお話をしてくださり、イメージが膨らんだ。最後に質問はあるか?と聞かれたので、私はある部分を指し、このルバートが自然にできているのかわからない、どうすればもっと良くなるか。と聞くと、先生は丁寧に答えてくださった。「ルバートは元々盗むという言葉なの。だから押したり引いたりするのだけれど、あなたは今とても自然にやっているわよ。ルバートは私がこう弾きなさい、ああ弾きなさいと指示するものではない。私だったらあなたのように弾かないかもしれないけれど、それが正しい」と教えてくださった。私は自分が持っている感性を大切にしようと思った。また、自分を客観的に見る力をつけなければいけないと思った。

クラスコンサート

Dina Yoffe先生のクラスコンサートは8月10日の講習会終了の前日、学校内のスタジオにて行われた。少し緊張したが、温かい雰囲気の中で演奏することができた。Dina Yoffe先生のクラスの生徒は皆レベルが高く、聴いていて勉強になり、魅了された。聴講とはまた違う演奏を聴くことができてとても刺激的であった。
その日の夜は先生を囲んでお食事をした。ちょうどロンドンオリンピックが開催されていて、先生はロシアを、日本の生徒たちは日本を応援するなど、和気あいあいとした雰囲気の中で、交流を深めることができて嬉しかった。

レッスン以外の過ごし方

練習室はとても広く開放的で、ピアノはスタンウェイやベーゼンドルファーなど、とても贅沢な環境だった。練習時間もたっぷりと取ることができた。聴講は自由だったので、毎日様々な先生のレッスンを見に行った。この聴講も自分がレッスンを受けているのと同じくらい貴重なことだと思った。また、先生たちによるコンサートや生徒たちが出演するアカデミーコンサート、友達が出演するクラスコンサートなど、ほぼ毎日たくさん聴きに行くことができた。そして、シフによるワークショップやコンクールも行われており、音楽にどっぷりと浸かった非常に充実した日々が送れた。

研修を終えて

レッスン室にてDina Yoffe先生と
レッスン室にてDina Yoffe先生と

毎朝起きて大きな窓を開けると、そこには彫刻像やヨーロッパの建物。教会の鐘が鳴り響いている。そんな素敵な環境の中で毎日を過ごせたこと。素晴らしい先生や友達に恵まれ講習を受けられたことに、本当に感謝しています。不安もたくさんありましたが、それ以上に得るものは大きく、私はこの夏、いろんな意味で少し成長できたと感じています。

この機会を与えてくださった皆様、本当に貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。

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