国立音楽大学

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル

伊藤 みや乃 3年 演奏学科 弦管打楽器専修(ヴァイオリン)

研修機関:第33回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
研修期間:2012年 8 月17日〜 8 月30日
講師:ウェルナー・ヒンク、ヴォルフガング・ベッチャー

研修目的

  1. 世界的に著名な音楽家の先生方による個人レッスン及び室内楽レッスンを受けることで、本場ヨーロッパにおける音楽に対する姿勢、感じ方も含めて、自己の演奏技術の向上をはかること。
  2. アカデミー講師陣による世界第一級のコンサートを生で聴くことで、世界で通用するプレイヤーが「自分の音」をどのようにコントロールするのか、その空間をどのように「支配」するのか、少しでも接近すべくできるだけ多くの「ヨーロッパの生きた音楽」を体感すること。
  3. 音楽という同じ分野で自己のレベルアップを目指す同志と切磋琢磨すること。

研修内容

1日目(8月17日)

開講式への出席

あいさつ及びアカデミー講師陣&アシスタント講師の紹介

コンサートの鑑賞... オープニング・コンサート/三ツ橋敬子=群馬交響楽団、K. ライスターを迎えて

カール・ライスターさんのクラリネット・ソロの演奏は、演奏者自身の気迫溢れる音楽表現と、並々ならぬ集中力に、聴いていて圧倒された。ライスターさんの演奏中の険しい表情と演奏後の満面の笑みを見て、私自身の演奏に対する姿勢について考えさせられた。ドビュッシーの交響詩「海」は、群馬交響楽団の魅力を三ツ橋さんの指揮がさらに引き出しているという感じがして、大変すばらしかった。

2日目(8月18日)

コンサートの鑑賞... モーツァルト:オーボエ四重奏曲/パノハ弦楽四重奏団とT.インデアミューレ

パノハ弦楽四重奏団によるモーツァルトの「狩」は、とてもやわらかく、しかし推進力のある音で演奏されていて大変興味深かった。モーツァルトのオーボエ四重奏曲は、トーマス・インデアミューレさんのオーボエと弦楽器3本の対話といった感じがして、今勉強しているウェーバーのクラリネット五重奏曲に活かせるよい勉強になった。ドビュッシーの弦楽四重奏曲は弾いてみたいと思っている曲なので、食い入るように聴いていたのだが、やはり難曲だと再認識させられた。

3日目(8月19日)

サシコ・ガヴリロフ先生のヴァイオリンマスタークラスの聴講

ドイツ語でのレッスンがどのようなものなのか、大変勉強になった。また、同じくらいの年齢の受講生達が、細かい部分の音程や受講曲の仕上がりなどについて厳しい言葉をかけられていて、私自身も音楽を勉強する姿勢がまだまだ甘いということを思い知った。

コンサートの鑑賞... 19世紀、20世紀初めのパリ/ロッシーニとドビュッシー

ウェルナー・ヒンクさんと遠山慶子さんのお二人による、モーツァルトとドビュッシーのヴァイオリン・ソナタは大変すばらしく、明日からこんなにもすてきな方のレッスンを受けられるのか......と思うと、さらにやる気がみなぎった。ロッシーニの弦楽のためのソナタの演奏に参加している大関先生の姿を見て、日頃お世話になっている大関先生を目標に頑張りたいと改めて思った。

4日目(8月20日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

受講番号が1番だったので、クラスで1番初めにレッスンを受けた。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番第1楽章アダージョを弾いたのだが、ヴァイオリンの構えから直すことになり、ボウイングやフィンガリングも先生の楽譜を参考にするよう指示された。まず、全身をリラックスさせた状態でヴァイオリンを肩にのせ、頭を上から引っ張られているようなつもりで立って、楽器を高く上げて弾くように、また、右手に力が入りやすいので、全弓を使ったスケールの練習を毎日欠かさずやるようにと言われた。さらに、その構えを体になじませるためと、リズムを正確にするために、アダージョをメトロノームでゆっくりとさらってくるようにと言われた。その後他の5人の受講生のレッスンを聴講。

コンサートの鑑賞... 没後200年、ドゥセクの室内楽

クラウス・シュトールさんのコントラバスがとても安定感のある、いい意味で存在感の大きな音色だったので、私もそういった音色をヴァイオリンで出せるようになりたいと思った。

5日目(8月21日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

他の6人の受講生のレッスンを聴講。モーツァルトの曲によく出てくる細かい音符を弾くための基礎練習や、音をはっきり弾くためのボウイング練習、ビブラートの練習などについて勉強した。

A. シピリ先生のピアノ公開レッスン聴講

現代音楽を中心に4人の受講生のレッスンを聴講した。最初の方が音楽監督の西村朗さんの作品を演奏するということで、西村さんご本人による指導が行われ、大変興味深かった。特に西村さんの「現代音楽も必ずどこかにメロディーが隠れているので、それを探し出す楽しみを感じて下さい。」という言葉が印象的だった。

コンサートの鑑賞... フランセ、ケージ生誕100周年/管楽と打楽器のアンサンブル

パーカッショングループ72のアンサンブルは歯切れがよく、とても素敵で、聴いていて気持ちがよかった。モーツァルトの魔笛は、オペラのオーケストラで弾いたことがあったので、オーケストラの楽器が木管八重奏のどの楽器に置き換えられているか、耳で追うことができたので、聴いていてとても面白かった。

6日目(8月22日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

2回目のレッスンを受けた。前回のレッスンで習ったことができるようになったかの確認と、第2楽章のフーガの弾き方について習った。ヒンク先生に、「一昨日から今日まで本当によく練習したようで、とてもいい弾き方になってきているので、その努力を続けて下さい」と言っていただけた。他の4人の受講生のレッスンを聴講。

K.ライスター先生の公開レッスン聴講

ライスター先生のクラリネットの技術的な部分に対するアドバイスは、私にはクラリネットの知識がないため理解できなかったが、ライスター先生のアドバイスの中にあった「ロマン派音楽には波があるので、それを表現して。叶えられない夢や希望という名の波を。フレーズには必ず目的地があるので、それを目指して」という言葉や、ライスター先生自身の体験談は、楽器は違うが勉強になった。

コンサートの鑑賞... イ・ソリスティ・ディ・ペルージャと仲間たち

イ・ソリスティ・ディ・ペルージャは、日本のオーケストラのように全員の音がぴったり合うというような音楽ではなく、それぞれの個性がにじみ出ており、各パート内でも多少のずれがあったのだが、それでも全体のバランスがとれていて、とても素晴らしい演奏だった。

草津アカデミー友の会主催ポピュラー・コンサートの鑑賞... モーリス・ジャンドロンに捧ぐ

コンサート・ホールの1番後ろで聴いていたのだが、ヴォルフガング・ベッチャーさんのチェロはステージと客席の距離を感じさせないほど自然によく通る音で、私はいつも広い所で演奏する時にはどうしても力が入りすぎてしまうので、ベッチャーさんを見習いたいと思った。

7日目(8月23日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

他の5人のレッスンを聴講。ベートーヴェンのソナタについて、どのように楽譜に忠実に演奏するかということについて学んだ。

W. シュルツ先生の公開レッスン聴講

フルートのレッスンを聴講するのは初めてだったのだが、ビブラートのかけ方や、姿勢についてのアドバイスがとても参考になった。特に姿勢に関しては私も修正しているところなので、演奏中に体を動かしすぎると何が問題なのかということが客観的に分かったのでよかった。

コンサートの鑑賞... フランス歌曲の世界/リン・ドーソン ソプラノ・リサイタル

リン・ドーソンさんは、ドーソンさん自身がどこに向かって自分の声を飛ばしたいかということが聴いていて分かるような演奏をなさっていて、私も自分がやりたいことが聴いている人に伝わる演奏ができるようになりたいと思った。

8日目(8月24日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

他の6人の受講生のレッスンを聴講。モーツァルトの協奏曲のカデンツァの間の取り方や、バッハを弾く時は自分の感情を込めるのではなく、ある程度客観的に演奏するということなどを学んだ。

岡田博美先生の公開レッスン

ピアノをいかに歌わせるかという、テクニック的な部分と音楽的な部分について、私も副科ピアノを学んでいるので大変勉強になった。

コンサートの鑑賞... ドビュッシー:喜びの島/アンヌ・ケフェレック ピアノ・リサイタル

アンヌ・ケフェレックさんは、コンサート・ホール全体の空間を1人で完全に支配していた。約2時間という演奏の中で、気の抜けたような音を1つも出すことなく、しかし聴いている私達に癒しを与えてくれる演奏だった。ケフェレックさんのような集中力を私も身につけたいと思った。

9日目(8月25日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス受講

3回目のレッスンを受けた。バッハと合わせてブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」の楽譜も準備していったのだが、ヒンク先生に「ブラームスもいいけれど、君は今、バッハからたくさんのことを学ぶべきだと思います」と言われたので、バッハだけのレッスンになった。第2楽章のフーガの弾き方について、最初から最後まで同じ音価の音符についてはニュアンスを変えずに弾くようにと注意を受けた。そして、もう1度第1楽章のアダージョを弾くように言われ、演奏すると、「さらに良くなっているので努力を続けて下さい」と言われた。その後、他の4人の受講生のレッスンを聴講。

L. ドーソン先生の公開レッスン聴講

声楽のレッスンではきっと音楽的表現についてのアドバイスが多くなるだろうと思って行ったのだが、ステージ上での振舞い方やピアノとどのように共演するかということに関するアドバイスも多く、とても参考になった。

コンサートの鑑賞... ケーゲルシュタット・トリオ/カール・ライスタークラリネット・リサイタル

合唱席から鑑賞したことで、「音楽の作られ方」を感じられた。特にピアノのアントニー・シピリさんのアンサンブルに対する姿勢が熱く、共演者の演奏に寄り添うという感じがした。

10日目(8月26日)

ウェルナー・ヒンク先生のヴァイオリンマスタークラス及び公開レッスン聴講

公開レッスンでは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番の構成を説明するためにヒンク先生が自ら受講生と二重奏を行ったのだが、その演奏を聴いて先生の説明に納得できた。私もこれから更にヴァイオリンを学んでいくに当たり、他人にその作品について解説できるくらい、曲について研究する必要があると思った。

コンサートの鑑賞... 2フォーレ:レクイエム 作品48

モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲で、ソリスト2人のアンサンブルの息がぴったりだったことに大変感動した。ケフェレックさんのオーケストラとの競演はとても聴き応えがあり、壮大な音楽に自分が包まれているような気がして、すごく幸せな気持ちになった。フォーレのレクイエムは太田直樹さんのバリトンの歌声に心を洗われた。

11日目(8月27日)

T. インデアミューレ先生の公開レッスン聴講

コンサートでインデアミューレ先生のオーボエの演奏を聴いてから、すっかり先生のファンになっていたので、先生がどんなレッスンをなさるのかとても楽しみにして行ったのだが、楽器としては専門外の私にも分かる、大変内容の濃いレッスンだった。先生は、音楽にストーリー性を持たせながら創造することや、いつも強くて響く音を使うのは飽きるし、単色になってしまうので、最高にいい音をどこで使うのが最も効果的か考えること、聴く人に音楽を届けようとする気持ちについて熱くアドバイスなさっていた。

コンサートの鑑賞... ウェルナー・ヒンクが弾くモーツァルト:ディヴェルティメントニ長調

モーツァルトの音楽の緻密さやニュアンスの出し方等がとても勉強になった。演奏者はそれぞれが違うところで違う道を歩んできたはずなのに、全員が完全に一体となって演奏していて、世界のレベルの高さをさらに感じた。

12日目(8月28日)

ウェルナー・ヒンク先生のマスタークラス受講

4回目のレッスンを受けた。バッハの第2楽章フーガについて、全体を通してテンポは変えずに音価を均一に保つことが重要で、その上でどう音楽的表現を出すかが問題で、そのことについて細かく指示を受けながら、フーガを最初から最後までレッスンしていただいた。そしてヒンク先生が最後の確認をなさるということで、第1楽章アダージョを途中まで弾くと、「この短い期間でよく頑張りました。最初に弾いた時より、今の演奏の方がすばらしいと思います。これからも頑張って下さい」と言っていただけた。その後、他の6人の受講生のレッスンを聴講。

室内楽レッスンのための合わせ

チェロのヴォルフガング・ベッチャー先生の室内楽レッスンを受けられることに決まったため、一緒にレッスンを受けて下さることになったチェロの方と、ハルヴォルセン作曲ヘンデルの主題によるパッサカリアの合わせをした。今までヴァイオリンとチェロではデュオをしたことがなかったので、とても新鮮だった。相手の方はこの曲を何度か演奏したことがあったということで、弾き方についていろいろと教えていただいた。

コンサートの鑑賞... ヴォルフガング・シュルツ フルート・リサイタル with 吉野直子

吉野直子さんのハープの音色が豊かで聴き入ってしまった。ハープの音色のイメージを持ってピチカートをすればいい音が出せるのではないかと思った。

13日目(8月29日)

ウェルナー・ヒンク先生のマスタークラス受講

他の6人の受講生のレッスン聴講。その後、ヒンク先生からマスタークラスの修了証書をいただき、クラスの皆でヒンク先生にヴァイオリンケースにサインしていただいたり、写真撮影をしたりした。

ヴォルフガング・ベッチャー先生の室内楽レッスン受講

マスタークラスと異なり、希望者のみ受講できるこのレッスンには通訳アシスタントがつかないため、ベッチャー先生とお会いするまでは、コミュニケーションが上手くとれるか不安で仕方なかったが、先生は私達に分かりやすい英語を使ってレッスンして下さったので、有意義な時間を過ごすことができた。私は強い音を出そうとすると、どうしても弓に力をかけすぎてしまうので、力を抜いて弓のスピードで音色をコントロールすることや、この曲の細かい部分の表現について、そして合わせるためにアクセントが必要なことなどを習った。レッスンの後、ヴァイオリンケースにサインをいただいたのだが、その時に「君の持っている音楽性、好きだな。素敵だと思う。これからも頑張って」と言っていただけたので、とても嬉しかった。

コンサートの鑑賞... フランスの室内楽/モーツァルトとパリ

クラウディオ・ブリツィさんのオルガンによるドビュッシーのアラベスクはとても新鮮だった。ヒンク先生のモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ2曲ももちろん素敵だったが、ライスターさんとパノハ弦楽四重奏団のモーツァルトのクラリネット五重奏曲は本当にすばらしく、特に第2楽章の洗練された音にはとても感動させられた。

14日目(8月30日)

スチューデント・コンサートの鑑賞

各マスタークラスで選抜された方によるコンサートだったのだが、公開レッスンで演奏していた方については、どの方もその後の練習の成果がはっきりとみてとれる演奏をなさっていて、私にとってとてもよい刺激となった。

コンサートの鑑賞... クロージング・コンサート/サシコ・ガヴリロフとフランス音楽

サシコ・ガヴリロフさんのフランクは、立体的な音楽で聴いていてとても楽しかった。

シベリウスの「エン・サガ」七重奏曲は、パノハ弦楽四重奏団のメンバーを中核に、大曲かつ難曲ながら7人が息を合わせて演奏している姿に圧倒された。ショーソンのコンセールは、ガヴリロフさんと岡田博美さんの集中力と、クァルテットエクセルシオの一体感が非常にすばらしかった。

最後に

ヒンク先生(中央)と
ヒンク先生(中央)と

最後に、今年度の国内外研修奨学生としてこの研修を受けるにあたり、たくさんの方にご協力いただいたことにこの場をお借りして感謝したいと思います。本当にありがとうございました。この経験を活かし、これからもっと努力したいと思います。

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